いま祖父母の暮らす地方に孫が移住するUターンならぬ「孫ターン」が、人口減少を食い止める手段のひとつとして注目を集めている。12月14日放送の「おはよう日本」(NHK総合)では、実際に移住した人たちなどを紹介した。
去年8月に国が行ったアンケートでは、都内在住の18歳から29歳のおよそ5割(46.7%)が「地方への移住を予定・検討したい」と回答。都会で生まれ育った若者が、地方になんらかの魅力を感じている事実はある。ただし具体的な地域を決めて、移住するまでには至っていないのが実情だという。
お年寄りに「孫と暮らす安心感」などをアピール
そんな中、「孫留学」で高校生を呼び込もうとする取り組みがある。島根県江津(ごうつ)市は、この10年で人口が1割以上減少。その影響で県立江津高校では定員割れが続き、存続が危ぶまれている。
なんとか生徒を確保したい校長が考えだしたのが、県外に住む孫に狙いを定めた「孫留学」だ。島根県内に住む祖父母のもとから高校に3年間通ってもらおうと、宣伝チラシのキャッチコピーには「馬子にも衣装、孫には異所(いしょ)を。」と大きく掲げた。
角英樹校長は「おじいさんおばあさんは肉親なので、バックアップ態勢も十分できる」と説明。「孫留学」をすることで、将来住む場所を選ぶときに江津市を思い出してもらえるのではないか、との期待があるのだ。
「人生で一番輝く時期を江津市と結びつけることで、愛着が生まれてくる。こういった循環がどんどん進んでいけば、人口減少による消滅可能性都市といった問題も克服できるのではないか」
角校長は市内で行われた敬老会を訪ね、壇上で100人あまりのお年寄りに「少人数クラスでのきめ細かい指導」や、「孫と暮らす安心感」などメリットをアピールした。話を聞いたお年寄りたちは、「なんとか薦めてみたい」と乗り気の様子だった。
視聴者は懐疑的「孫の人生をなんだと思っているの」
いま「孫ターン」は全国に広がっており、移住者全体の1割から2割とする専門家もいる。家や田畑など祖父母の不動産がすでにあるため、新規の移住よりも比較的少ないメリットもある。実際に孫ターンした人に話を聞くと、知人から仕事を紹介してもらえたり、起業の際に事務所を安く借りられたりした人もいる。
大阪の病院に勤めていた看護師のちえみさんは、自然と共に暮らす生活に憧れ、一人暮らしの祖母がいる徳島へ移住。昔から祖母と付き合いのある人たちと、すぐになじむことができた。看護師のかたわら田んぼ仕事を手伝い、とても生き生きとした表情を見せていた。
このように仕事があり、自分から進んで移住してきた人は良いだろう。しかし番組を見ていた視聴者からは、ツイッター上で「孫本人の意思が軽んじられていないか」と懸念する声が多く聞かれた。
「自分がそうしたい、と移住するならいいけど、自治体が祖父祖母に『孫にこっち来てもらいましょうよ』って働きかけるの、どうなの…孫の人生なんだと思ってるの…」
「『高校の生徒数確保』と『老人世帯の安心』だけの解決案で、当の高校生には何のメリットも無いよね。この上爺婆の介護問題か何かが起こったら高校生詰んじゃうよねえ」
地方の都合だけで進める政策なら、批判は避けられない
番組を見た筆者は、いじめなどの問題をリセットしたい子の受け皿にはなるかもしれないと個人的に思った。しかし高齢者の集団に「お子様やお嫁さんと話していただいて、ぜひ」と薦める様子が若干怖いと思ったことは否めない。子どもの進学先を勝手に決めてしまう親や、いいなりで移住する10代はいないとは思うのだが……。
そもそも、その土地に魅力があれば人口減少は起きないはずだ。「孫ターン」のような肉親を使った手法なら「世話してやったんだから家を継げ」といったような、しがらみで巻き取られるおそれもある。魅力のない土地に、しがらみだけで縛り付けられる人は不幸だろう。
取材したNHKの内藤記者も、「孫ターン」は移住のきっかけに過ぎず、今後の課題は仕事や生活面の支援に加えて、地域の魅力を高めていく必要があると強調していた。地方自治体の都合だけで進める政策なら、批判は避けられないだろう。(ライター:okei)
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