来季、アメリカの新チーム、ハースF1チームに移籍することが明らかになったロータスF1チームの小松礼雄チーフエンジニアが、最終戦のアブダビを終えて取材に応えた。
これまでロータスでレースエンジニア、そしてチーフエンジニアと順調にキャリアを積み重ねてきた中で、小松氏はどのように来季、ハースへの移籍を決めたのだろうか。
「一番の理由は新しいチャレンジになることです。レースチームをゼロから作り出すことの一端を担えるということはすごく魅力的だし、そういった白紙からのチャンスというのは新しいチームでしかないわけですよね。その中で新しいチームのありがちな問題として、クルマがとてつもなく遅いとか、資金面、マネージメンとなどが問題になることが多いですが、ハースの場合、少なくともクルマはそんなに悪くないと思っています。やはりフェラーリからいろいろ部品の供給を受けられることは大きいです。最低限クルマにとって必要なものはあるので、そういう意味でもレースがしっかりとやれば、それなりの結果は出せると思います」
ハースF1チームでの新しいチャレンジ、そしてポテンシャルの高さに惹かれたという小松氏。言葉には出さなかったが、今季のロータスチームを巡る資金不足の問題や、ルノーに買収されたとはいえ、先行き不透明な来季への不安という要素もあったのではないだろうか。いずれにしても、エンストーンの老舗チームからアメリカの新チームへの移籍にはそれなりのリスクも伴っており、小松氏の役割もこれまで以上に重要になる。
「新しいチームに限りませんが、ただ速いクルマがあるというのはストーリの半分でしかないんです。いくら速いクルマがあってもそれをちゃんと使えなければ終わってしまいます。今年の中堅チームでは何チームかは本当にいいクルマを作っていたにも関わらず、レースではオペレーションでの取りこぼしがすごく多かった。もったいないですよね。たとえばハースで来年、クルマが10位で1ポイントを獲れるだけのクルマの速さがあったとしても、オペレーションをきちんやらない限りその1ポイントは獲れないわけです。例としてはアブダビGPの予選Q1でQ1通過タイムを見誤ってアタックを止めた(セバスチャン)ベッテルのミス。そしてウチはマレーシアでみすみす獲れるポイントを逃しましたがレースストラテジーでのミスや、他にピットストップのミスもあります。ウイリアムズがひとつのタイヤだけ違うコンパウンドを付けちゃったのは記憶に新しいですよね。そしてロシアGPのレースの途中でトロロッソのブレーキがなくなってしまったりとかいろいろあります。当たり前ですが、そういう事をやっているとポイントが獲れなくなる。ハースではそこが僕の責任になるので、先ずはクルマをキチンと作って、妥当なセットアップで走らせ、そして週末を通してオペレーションをしっかりできて、きちんと戦えるレースチームを作りたいと思っています。少なくともドライバーのひとりはクルマなりの結果を出してくれるのは確実にわかっているし、そのクルマもそこまで悪くはないと思います。ということは結果が出る、出ないはレースチームにかかってくるわけで、それを担えるというのが魅力です。やりがいがあって、やっただけのリターンがポイントとして現れると思っています」。
ハースF1の情報は日本には届きづらい状況だが、来季の参戦に向けての進捗状況が気になるところだ。
「まだまだです。それが最大のチャレンジだと思っています。僕だって先日やっと、ロータス・チームを離れる日が決定したところです(苦笑)。ハースでは人のこと、組織のこと、どういう風にやるのかなど、やることが山積みです。実際に手をつけることができるのは1月中旬に移籍してからになるので、大変だと思います。もちろん、いろんなことはやってみないと分からないですが、それがチャレンジです。それが僕の仕事になりますので」
最後に、小松エンジニアに今の心境を聞いた。
「もちろん、寂しい気持と楽しみと両方ですね。アブダビでみんなと一緒に働いていたときも、これが最後だなと思って戦って、すごく名残惜しところがありました。やはりあそこのレースチームが大好きだから。それでも僕の移籍の理由も理解してくれて、みんな本当に快く送り出してくれるので、新しいチームにいくチャレンジが本当に楽しみです。もちろん怖い部分はたくさんありますけどね(苦笑)。だけど気づけば10年間このチームにいて、F1の世界でも13年間くらいやって、僕も39歳だし、こういうチャレンジのしがいがある機会が目の前にあるときに、やってみなきゃと思って移籍を決めました」
ロータスのチーフエンジニアから、ハースF1のチーフエンジニアと肩書きは同じでも、その役割は大きく変わる来季の小松礼雄氏。ハースの本拠地はアメリカだが、ファクトリーはイギリスになり、小松氏の勤務地もそのファクトリーになるという。小松氏の相棒とも言うべきロマン・グロージャンとの活躍で、来季のハースはどのような活躍を見せるのか。日本のF1ファンとしては、マクラーレン・ホンダとの対決ともあわせて、F1を見る楽しみがまたひとつ増えた。