就活を始める学生が最初にすることは、ネットでの情報収集でしょう。その入り口となるのは、ナビサイトが一番多いと思われます。
ナビサイトについて就活生に話すと、意外にも驚かれることがあります。それは「掲載されている文章のほとんどは、社内の人間が書いていない」という事実です。社会人にとっては当たり前過ぎることですが、就活生の純情さを毎年実感する一幕でもあります。(文:河合浩司)
取材された社員も「こんな良いこと言ってました?」と唸る
ナビサイトの実態は広告ですから、掲載する文章もプロのライターやコピーライターが書いています。取材した内容に基づいて文章を書くので決してウソではありませんが、文章も書かれた対象も魅力的に感じるものになるのは間違いありません。
これは企業が独自に作成している採用サイトや、紙媒体の会社案内もたいがい同じです。弊社も毎年会社案内を作成しますが、その過程で必ず編集プロダクションのライターさんが中堅社員や新入社員に取材をしてくれます。
取材を受ける中堅社員の中には、日頃からいろいろと考えていることを聞かれて、喋り出したら止まらない人もいます。他人からすると何を言いたいのかがよく分からないことも往々にしてありますが、ライターさんはこれを上手に紙面に収めてくれるのです。
上がってきた原稿の完成度は非常に高く、取材を受けた本人に確認を取るときに「私、こんな良いこと言ってましたっけ? いやぁ、照れるなぁ」と言わしめるほどです。
この文章を就活生が読むわけですから、当然のように好印象になります。その極めてイメージ良く書かれているものは、事実無根ではないものの「外部の人間が書いた」と理解した上で、内容を読むことをおすすめします。
「企業研究への熱意」があるなら疑って検証するべき
なぜこんなことを強調するかというと、そのような事情を学生にきちんと伝えずに就職指導をする人がいるからです。とある大学の就職支援の講座で、講師がこんなことを言っていました。
「企業の採用サイトはよく読み込んで、『先輩社員の声』の中に共感できる部分を探しましょう。面接の時に『営業部のAさんのお話に書いてあった"○○○○"という話についても、強い共感を覚えました』と言えば、企業研究への熱意が伝わります」
確かに最終的に記事になったものは、採用担当者が「これで行きましょう」と承認したものですから、それが会社の公式メッセージであるのは間違いありません。そこにわざわざ触れてあげれば、確かに担当者は(おっ、読んでくれたのかシメシメ)と喜び、それを取っ掛かりに話をしてくれるかもしれません。
しかしその表現は、前述のように「私、こんな良いこと言ってましたっけ?」と戸惑うくらい巧みに仕上げられたものであることを忘れてはなりません。会社の採用担当者が喜ぶ表現が実態に近いとは限らず、むしろ美化されている可能性が高い。そんな会話を交わして、果たして意味があるでしょうか?
仮に面接で評価されたとしても、入社して「こんなはずじゃなかった」と思うこともあるでしょう。きれいな言葉は、あくまでも広告です。「企業研究への熱意」を本当に持っているのならば、広告が実態を表しているかどうかを疑いなから、実際に社員と会ったり本で調べたりして検証することをオススメします。
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