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『下町ロケット』人気を支える“理系女子” 土屋太鳳と朝倉あきのポジションを読む

2015年12月13日 07:11  リアルサウンド

リアルサウンド

『下町ロケット』公式サイト

 現在TBSの日曜劇場で放送されている『下町ロケット』の勢いが止まらない。第1部の最終話であった第5話で、今年の民放連続ドラマとしては唯一の20%超えを記録し、先週放送された第8話もまた20%を超えたのだ。大ヒットとなった『半沢直樹』から続く、この枠での池井戸原作の快進撃は言うまでもなく、またしても福澤克雄が演出ということもあり、いくら期待をかけてもその何倍ものクオリティで返してくれる安心感があるのだ。以前このサイトでも紹介された通りの必勝パターンで、今期の民放ドラマ枠でひとり勝ちしていると言っても過言ではない。(参照:『下町ロケット』は“現代の時代劇”だ 福澤克雄チームの必勝パターンと今後への期待


 もっとも、『半沢直樹』『ルーズヴェルト・ゲーム』と続いてきた池井戸原作の日曜劇場では、登場人物のほとんどが男性という、古典的な男性中心の社会が描かれており、かえってその中で描かれる女性キャストはとても重要な存在となる。前者では堺雅人演じる主人公の妻を演じた上戸彩、後者では秘書を務めた檀れいや、従業員を演じた広瀬アリスといったところであろうか。今回の『下町ロケット』においては、これまでよりも女性キャストの比率が少しばかりか多くなっている気がする。もっとも、メガバンクの上層部に女性がいないことに違和感はあるが、日本の企業の体質上そんなものだろうと思うし、会社の野球チームに女性選手がいないことが自然であるとは思わないが、中小企業の町工場に女性の姿が無いというのはいくらなんでも不自然であるからだ。


 そんな女性キャストの中で、主人公佃航平の娘・利菜を演じているのが、NHK朝の連続テレビ小説『まれ』でブレイクを果たしたばかりの土屋太鳳である。ここ最近テレビCMでも頻繁に見かけ、ちょうど今週から主演映画『orange』が公開する彼女は、意外にも芸歴10年のベテラン女優なのである。とはいえ、2011年に放送されてカルト的人気を博したドラマ『鈴木先生』でのヒロイン小川蘇美役で彼女の存在を知った人は少なくないであろう。それ以前にも黒沢清の『トウキョウソナタ』で両親が自殺してしまう少女を演じていたのだが、言われてみないとわからないものである。


 前半のロケット編では部活を辞めて進学に悩む高校生を演じていた彼女は、第5話でのロケットの発射を見つめるクライマックスで、宇宙工学を志すことを宣言し、両親と同じ慶應義塾大学理工学部への進学を決める。それから3年の月日が流れたガウディ編に入ると、今度は就職活動がうまくいかないと嘆く女子大生を演じているのである。原作のガウディ編では登場してこなキャラクターなだけに、これはもう、ドラマの結末で彼女の将来が決まると予想してしまっても間違いないであろう。ガウディ計画をきっかけに医療科学を目指すという選択肢も考えられるが、やはり宇宙工学の道を突き進んでほしいという思いが視聴者の中で強くなってくるのである。どちらにしても、町工場の社長の夢を追い続ける姿によって、一人の少女が研究者として成長していくラストが容易に想像できよう。つまりは彼女の存在こそが、このドラマの主軸となっているのである。


 もう一人、第6話以降の「ガウディ計画」から佃製作所の開発部の技術者として登場したのが、朝倉あきだ。2006年の東宝シンデレラオーディションでファイナリストに選ばれた彼女もまた、NHK朝の連続テレビ小説でブレイクした一人なのである。2010年に放送された『てっぱん』で、主人公・瀧本美織の親友役でブレイクした彼女は、2013年に大ヒットしたスタジオジブリのアニメ『かぐや姫の物語』の主人公の声を務め、さらに知名度を上げた。その後しばらく芸能活動を休止していたのだが、今年に入ってから復帰し、今期のドラマではテレビ朝日系の『遺産相続』に続いて2本目の出演となる。


 朝倉が演じている加納アキという技術者は、ガウディ計画の要となる人工弁の製造に携わるプロジェクトチームの一員であり、作業着姿で日夜研究を重ねるだけでなく、医療器具審査会へ社長らと共に出向いたり、医療施設で人工弁の完成を心待ちにする子供たちと向き合ったりと、重要なキャラクターとして登場するのである。このポジションに女性キャラクターを配したということは、少なからず、この作品を観る女性視聴者への感情移入の落とし所としての狙いもあるだろう。これまでロケット編から登場していた真矢みきや土屋太鳳とはまたひとつ違ったタイプの理系女子として、ガウディ編に華を添えているのだ。


 男性社会として描かれがちである理系分野での女性の活躍を、さりげなく描いてくるあたりは、福澤チームのドラマづくりの上手さを感じずにはいられない。残り2話で終了してしまうが、クライマックスでこのふたりの理系女子がどういう未来を描くのか、大いに期待したい。また、第9話には元フジテレビのアナウンサーである高島彩が医療ジャーナリスト役で出演するなど、まだまだ興味惹かれる展開が続く。ガウディ計画の成功とロケットエンジンの開発という野望に燃える町工場の逆襲劇は、日曜夜の憂鬱感を吹き飛ばす爽快感と感動を提供してくれているのである。(久保田和馬)