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電気グルーヴやケミカルを彷彿とさせる? ピノキオピーのライブ盤が示す、ボカロの新たな可能性

2015年12月12日 17:01  リアルサウンド

リアルサウンド

ピノキオピー。

 インパクトのあるマスク姿で知られるピノキオピーが発売した初のライブ盤『祭りだヘイカモン』は、「ライブの時代にボカロPがどう向き合うか」という命題に対し、新たな形の解答を提示する作品である。なぜなら、これまで彼が同人~メジャーで発表してきた作品の多くはジャケットを初音ミクや彼がデザインしたキャラクターが飾ってきたが、今回のジャケットには映画看板の職人によって描かれたピノキオピー自身(と、ライブでのサポートを務めるピノキオピーMK-2)が堂々登場しているのだ。画面の背後にいるボカロPから、表に出て行く一アーティストへ。本作からはそんな意気込みが感じられる。


 2009年より活動を開始し、ニコニコ動画では3曲が100万回再生を突破と、人気ボカロPの地位を確立したピノキオピーは、昨年からライブ活動を本格化。当初はシンプルにラップトップから楽曲を流すスタイルだったが、ライブ感を求めて徐々にピノキオピー自身もボカロに合わせて歌うようになり、昨年12月からはピノキオピーMK-2とのユニット体制を確立。今年に入ってからもコンスタントにライブを繰り返し、10月に渋谷のclub asiaで開催した初のワンマンライブの模様を収録したのが、『祭りだヘイカモン』という作品なのである。


 現在のライブの特徴はトラックと人力の融合で、ピノキオピーは歌うのみならず、サンプラーを叩き、ボーカルにエフェクトをかけ、MK-2はスクラッチを絡めるなど、その場の状況に応じたリアルタイムのレスポンスによって、さらなるライブ感を獲得。ピノキオピーは曲によってステージ前方まで出て行ってオーディエンスを煽り、MK-2は盆踊りのようなダンスを披露するなど、かなりフィジカルなステージを展開している。


 そんなライブの様子からまず連想されるのは、ピノキオピーがリスペクトを捧げる電気グルーヴ。そもそも彼は有頂天、筋肉少女帯、電気グルーヴの前身である人生などを輩出したナゴムレコードをフェイバリットに挙げていて、マスク姿は人生時代の白塗りだった石野卓球を彷彿とさせるし、キモカワなオリジナルキャラクターからも、かつてのナゴムのようなサブカル臭が漂ってくる。ただ、彼の作品はナゴムの精神性に影響を受けた人生哲学を、あくまでポップなダンストラックに乗せるというのが持ち味であり、完成度を高めつつあるユニット体制のライブは、ケミカル・ブラザーズ、アンダーワールド、ベースメント・ジャックスなど、日本でも人気の海外のダンスユニットたちをも連想させる。マニア心をくすぐりつつも、表現はちゃんと開かれている。そこがピノキオピーの大きな魅力なのだ。


 そして、ピノキオピーが他のニコ動出身のアーティストとも、海外のダンスユニットとも異なるのは、やはりピノキオピー自身がボカロと共に歌うということ。BUMP OF CHICKEN feat. HATSUNE MIKUの「ray」や、安室奈美恵の「B Who I Want 2 B feat. HATSUNE MIKU」など、J-POP/ROCKのアーティストが初音ミクとコラボしてデュエットしたことも記憶に新しいが、いわばピノキオピーもこれと似たスタイル。しかし、ニコ動出身アーティストでこのスタイルというのは珍しい。オリジナルでは全編ボーカロイドが歌っている楽曲を、ときにユニゾン、ときに掛け合い、ときにピノキオピーが単独で歌うことによって、普通のボカロPのライブではありえない空間が生まれている。


 また、オリジナルキャラクターの「アイマイナちゃん」や「どうしてちゃん」が象徴しているように、世の中の曖昧さや疑問、矛盾などを複数の視点からあぶり出すピノキオピーの詞世界は、客観的に描かれているがゆえに、ボカロに歌わせることに意味がある。しかし、ピノキオピーは人前に出ることが苦手で、家で漫画を読んだり音楽を聴いてばかりいたという過去の自分や、自分に似たリスナーに向けて曲を作っている意識もあると言う。だからこそ、ライブでピノキオピー自身が歌うことによって、そこにフロアとのダイレクトなつながりが生まれるのだ。例えば、「空想しょうもない日々」の〈くそしょうもない日々は続く〉や、「ぼくも屑だから」の〈ぼくも屑だから〉、「Last Continue」の〈あの日に戻れたらいいのにな〉〈あの日は助けちゃくれないんだ〉といった歌詞をオーディエンスと共に合唱する場面は、非常にエモーショナルでグッとくる。画面を飛び越えてダイレクトに繋がりを感じたいというその想いは、バンドというスタイルで自らが歌うことを選んだ米津玄師やヒトリエのwowakaとも、何ら変わりのないものだと言っていいだろう。


 ピノキオピーは来年以降もライブ活動を積極的に行い、当面の目標はフジロックへの出演だと語る。途中で名前を挙げたダンスユニットたちが名演を繰り広げた苗場のステージで、いつか初音ミクとピノキオピーが祭りを繰り広げることを期待したい。(金子厚武)