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山下達郎、大貫妙子、佐野元春らも厚い信頼 超売れっ子ギタリスト・佐橋佳幸の功績を振り返る

2015年12月12日 15:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『佐橋佳幸の仕事(1983-2015) ~Time Passes On~ CD3枚+ブックレット』

 日本を代表するギタリスト――そんな定義で思い浮かんだのは、どんなミュージシャンでしょうか。ソロ、もしくはバンドで活躍するロック系のプレイヤーだった り、これでもかと早弾きを見せつけるテクニシャン。人によっては、クラシックやヘヴィメタルやフラメンコやフュージョンまで、さまざまな人物が頭に浮かぶでしょうが、どちらかというと派手に弾きまくるほうが印象に残るのは確か。実際、ある調査の結果では、松本孝弘(B'z)、布袋寅泰、Charといった見た目も演奏スタイルも華があるスタープレイヤーの名前が並んでいます。

 では、日本で一番売れっ子のギタリスト――そういうと、また解釈が変わってくるかもしれませんね。こちらもいろんな意見があると思いますが、間違いなくそのカテゴリに入れて異論がないと思われるのが佐橋佳幸です。そう書いても、ピンとこない人も多いかもしれません。確かに、ソロとして派手に弾く人ではないですし、バンドを率いて前面に出てくることもない。テレビやマスコミ、メディアでの露出が多いわけでもないし、彼の名前だけでヒットするような存在でもありません。

 しかし、彼は一般的には地味な存在ではありますが、世代を超えて多くのアーティストから全面的に信頼されているギタリストです。一例を挙げると、音には人一倍うるさいと言われる山下達郎のツアー・メンバーとして長年活躍していることからも、その存在意義がよくわかるのではないでしょうか。いわゆるスタジオ・ミュージシャンやツアー・ミュージシャンというのは、縁の下の力持ちといわれますが、彼の場合はその力が半端なくデカいのです。

 その証拠に、彼のギター・フレーズは多くのヒット曲を生み出してきました。もっとも有名なものは、小田和正が1991年に大ヒットさせた「ラブ・ストーリーは突然に」のイントロでしょう。チャカチャーンというカッティング・ギターは、当時リアルタイムで聴いていた人なら印象に残っているはず。もちろん、小田和正自身のバリューやドラマ・タイアップなどがあってこそですが、あそこまで売れたのはあのギターの音色も一役買っているのではないでしょうか。また、藤井フミヤのソロ・デビュー曲となった「TRUE LOVE」のチャリララ~ンというアコースティック・ギターの音色や、福山雅治の出世作「HELLO」でのジャカジャカとドライブするカッティングなど、いずれも元の楽曲を何倍も魅力的なものにしているのです。まさに、魔法のような力を持っているとしか言いようがありません。

 佐橋佳幸という人は、もともとは〈UGUISS〉というアメリカン・ロック・テイストのバンドで、1983年にデビューしました。普通だったら、いちバンドマンとして消えていってもおかしくなかったのですが、エレクトリックもアコースティックも駆使することができる職人的な演奏力とアイデアを買われ、さまざまなセッションに呼ばれることになります。岡村靖幸、渡辺美里、大江千里といった80年代から90年代に一時代を築いたシンガー・ソングライターの陰には、かなりの確率で彼の存在があります。また、槇原敬之の「もう恋なんてしない」や氷室京介の「魂を抱いてくれ」といったビッグヒットと定期的に関わっているのもさすが。いずれも、ギターが全面に出ているわけではないのですが、効果的にマジカルなフレーズを散りばめていくのです。

 職人技のギタリストということで、大貫妙子、竹内まりや、佐野元春、鈴木雅之といったベテラン勢から指名されることが多いのは当然ですが、その安心感からか、スキマスイッチやMAMALAID RAGといった若手のステップアップのために起用されることもしばしば。単なるギタリストではなく、プロデューサー、アレンジャー、ソングライターなどとしても売れっ子なわけです。しかも、全面的にバックアップした松たか子に至っては、彼女のハートまで射抜いてしまうなど、公私ともに充実したうらやましい存在でもあるのです。

 先頃リリースされた『佐橋佳幸の仕事1983-2015 Time Passes On』という3枚組のコンピレーション・アルバムには、そんな彼の仕事ぶりがたっぷりと詰まっています。これを聴けば、気づかないうちに彼のプレイを何度も耳にしていたんだなあと、改めて実感するはず。そしてこれからも数々のヒット曲や名曲に華を添え、日本を代表するギタリストとして、音楽シーンの最前線を突っ走っていくことでしょう。(栗本 斉)