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“極上音響上映”仕掛け人が語る、これからの映画館のあり方「ほかの視聴環境では味わえない体験を」

2015年12月12日 12:21  リアルサウンド

リアルサウンド

立川シネマシティ・遠山武志企画室長

 スペースシャワーTVにて『フラッシュバックメモリーズ3D』、『劇場版BiSキャノンボール』、『私たちのハァハァ』などの話題作を手がけてきた高根順次プロデューサーが、映画業界でとくに面白い取り組みを行っているキーマンに、その独自の施策や映画論を聞き出すインタビュー連載「映画業界のキーマン直撃!!」。第一回は、音質・音響にこだわった遊び心溢れる映画館「立川シネマシティ」にて、「極上音響上映」「極上爆音上映」などの特別上映を手がけ、映画業界で注目を集める仕掛け人・遠山武志企画室長を直撃。“映画館を作る”という仕事の面白さから、映画業界を活性化させるためのアイデア、いまの映画館が抱えている課題についてまで、ざっくばらんに語ってもらった。


参考:『私たちのハァハァ』が“ファン向け映画”を超えた理由 プロデューサーが制作の裏側明かす


■「映画業界のシステムは、デジタルのメリットを活かしきれていない」


ーー遠山さんが立川シネマシティで働き始めて17~18年ということですが、映画業界を見てきて、いま疑問に思っていることはありますか?


遠山:いきなり攻めの質問ですね(笑)。ここ最近の話なんですが、2011年頃、ほとんどの映画館が35mmフィルム上映からデジタル上映に切り変わったんですけど、そこそこの映画ファンとか、デジタル機器好きの方以外にはあまり知られてないですよね。そういえば変わってるんだよね、くらいで。デジタル化したことで格段に様々なコストが下がったことで、音楽ライブの録画モノや、演劇、歌舞伎や落語の舞台を映した作品が上映されるようになってきたのですが、とてもまだ一般的に受け入れられているとは言えません。実際に観たことがある方はまだ少ないと思います。


 じゃあ、切り替わりのメリットは何か。制作会社や配給会社にとってはフィルムを焼かなくて良くなり、運送費、管理費を削ることが出来て、劇場なら専門的な技術や知識があまり必要でなくなるので、人的なコストダウンが可能になります。でもお客様にとってのメリットは、現時点では強く打ち出せていません。画質なんかは確かにシャープにはなりましたけど、色彩の深みや奥行きはまだフィルムのほうが優れていると思います。くっきり映ることだけが素晴らしいわけではないですからね。例えば「ハイパーリアリズム」と呼ばれる写真にしか見えない絵画は素晴らしいですが、輪郭がぼやけた印象派の絵画も魔法が掛かったような空気感が醸し出されて素晴らしいじゃないですか。スピルバーグ監督やクリストファー・ノーラン監督、日本なら山田洋次監督がいまだフィルム撮影にこだわっているのはそういう理由だと思います。前フリが長くなりましたけど、上映方式はフィルムからデジタルに変わったけれど、映画館は大して変わってないというところは何とかならないかな、と考えています。


ーー何とか、というと?


遠山:デジタルの最も良いところは、物理的な制約から脱却できることです。フィルムなら、モノとしてそこになければどうにもならないですが、デジタルデータならどうとでもなります。例えばある映画が予想を超えて大ヒットしているなら、5つのスクリーンで同時にガンガン上映してもいいし、小さな規模の作品だと地方の映画館では上映されないことが多いですが、動員が望めるなら上映してもいい。何週間かの興行を維持するのは困難でも、週末の夜だけとか、日曜の朝だけの1回や2回の上映ならそこそこ座席が埋められるかも知れません。


ーー現状ではなぜ出来ないのですか?


遠山:ひとつはVPF(ヴァーチャル・プリント・フィー)という、現在の映画上映の経済の仕組みがありまして、これは長くなるので詳述は避けますが、要はデジタル素材であっても、仮想的に1本のフィルムであるかのように扱う仕組みなのです。ですので、ヒットしているからと言って同時に多数のスクリーンで上映は出来ず、また小さな規模の作品を全国200スクリーンで1回か2回ずつ上映する、というようなこともコスト的に不可能なんです。もうひとつは、ほとんどの映画館はスケジュールを週刻みで組むということです。世界的な慣習となっていますし、お客様のほうもそういうものだと思っているので難しいとは思いますが、デジタルのメリットを最大限に活かすならば、テレビやラジオのように、日ごとに組むことです。これはフィルムでやろうとすればとてつもない手間ですが、データなら可能です。
 
ーーデジタルであれば、たしかにそういう方向性もありえそうですね。


遠山:趣味嗜好の細分化が言われて久しいですが、最近はさらに進んでいることもあって、例えば10年前であれば年間に公開される映画は全部で600本~700本だったのですが、去年今年は倍の1200本にもふくれあがっています。とにかく数を打つ、という方向になっているんですね。今年の夏なんかその最たるものだったと思うのですが、『アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン』『ターミネーター:新起動/ジェネシス』『ジュラシック・ワールド』『ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション』と普通ならそのシーズンの看板となるようなシリーズの新作が立て続けに公開されました。ここにさらに話題作として『進撃の巨人』と『バケモノの子』まで加わってくるんですから大変な本数です。


 結構な映画好きの方で1ヶ月の間でこの内の3本を観たとします。でもおそらく同じ映画好きの友人なんかと話になっても、観た作品が噛み合わないわけです。これだけの映画史に燦然と輝くような大ヒットシリーズ作品を観ても、まわりはまた別の作品を観ていて合わないことがある。公開本数が増えると、こういう結果が生まれます。ミニシアター系と呼ばれるような作品ならなおさらです。ですので、自分のまわりで同じ作品の感動を共有する相手を見つけるのは非常に困難で、映画を観る楽しみのひとつが奪われてしまっているわけです。しかしもうこの流れを止めることは難しいでしょう。それどころか映画は、これまでの映画の観客だけでなく、音楽の観客、芝居の観客、アニメの観客も集めないとやっていけなくなります。であれば、逆に振り切ってしまう、という方向があると思うんですね。


ーー逆に振り切るとは?


遠山:公開本数を今の3倍とか5倍にしてしまうという考え方です。映画館は日替わりでスケジュールを組む。別に新作の大作は今まで通り毎日5回とか上映するのはそのままでいいんですよ。むしろ先述の通り多くのスクリーンで一気に上映してもいい。公開本数を増やすと言っても、今までの何倍も本数を作れということではなく、旧作のリバイバルをやったり、公開期間を長くすればいいんです。数週間、日に3回~5回上映という興行を支える力のある作品はこれからさらに減っていきます。これは劇場側からの一方的な要望ではあるのですが、1作1作の上映回数を減らせば、座席稼働率は上がるんですよ。その地域で1,000名その作品を観たいと思っているお客さんがいるとして、20回上映したら1回あたり50名ですが、10回上映なら100名…というわけにはいかなくても70~80名にはなります。100名しかお客さんが見込めない作品でも、1回だけの上映にして100名いらっしゃっていただければ、上映回数の多い5,000名入る作品よりもその1回はより多く入っているということにもなるわけです。これが座席稼働率を上げる、ということですね。


 ただし、ここまでお話ししておいて申し訳ないのですが、これは現状ではまったく実現がありえないファンタジーです(笑)。洋画なら上映権の保持期間などの問題もあるし、制作・配給会社の収益の都合はまったく考慮していません。劇場側だけ、もっと言えば映画ファンとしての僕の希望だけの話です。ただ「デジタル上映のメリットを最大限にする」ということのひとつはこういうことだと思います。今は上映期間が終わったらどこも大体一斉に終わってしまって、もう観られなかったり、旧作の上映なんてごく限られた作品しかありませんけど、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を5年間上映し続けたり、当たり前のように『ぼくらの七日間戦争』とか『未来世紀ブラジル』とかを新作を観に行ったついでに観られたら、映画ファンとしては最高じゃないですか。シネマシティでタルコフスキー作品まで上映されていたり(笑)。


■「良い映画館を作ることも、映画にとっては大切なこと」


ーー昨今の映画館を取り巻く状況については、まだ改善の余地がありそうですね。遠山さんは、そもそもなにをきっかけに映画館の魅力に目覚めたのでしょう?


遠山:7歳か8歳のときに初めて映画館で観た『E.T.』(1982年)がきっかけですね。僕が生まれた町には映画館がなかったんですけれど、ものすごいヒットしていて母親に連れられて隣町まで観に行ったんです。立ち見もOKだった頃なので、館内は超満員でした。人が通路にまで溢れていて、扉も開けっ放し、サイドの通路からなんとかスクリーンを観ようとしても、周囲に大人がたくさんいて、全然観ることができないんです。そうしたら、知らないおじさんが「この隙間から入れ」って、押し込んでくれて。大人たちの足の隙間を縫って、やっと抜けたと思った瞬間、スクリーンが目の前にパッと広がって、ちょうど大きなシャンデリアのような宇宙船が飛び立つシーンだったんです。「うわー!」って衝撃を受けて、単に映像を観たという感じではなく、その空間に"居た"という立体的な思い出として残っています。それはもう、すごいインパクトでした。


ーーそこから映画少年として育つ感じですか。


遠山:いえ、そこでたしかに映画にはハマるのですけれど、町には映画館がなく、そう簡単に観れるものではなかったので、代わりに本ばかり読む少年に育ちました。本なら、田舎でも都会と同じように触れることができます。絵本から始まって、中学生ぐらいからは純文学を読み始めて、トーマス・マンとかヘルマン・ヘッセとかのドイツ文学に傾倒して、なぜか中国古典にもハマって老子や孔子を読んだり。もちろん友達はいなかったです(笑)。映画を本格的に見始めたのは大学生になってからです。


ーー立川シネマシティに入社したきっかけは?


遠山:大学時代からアルバイトをしていたんですよ。立川シネマシティは94年にオープンなんですが、僕は97年の夏から働き始めました。当時夏前に『スター・ウォーズ 特別篇』をやっていて、ジョージ・ルーカスによる劇場音響規格を満たした「THX劇場」は、都内には立川シネマシティしかなかったんです。それで、当時一緒にバンドをやっていたメンバーと観に行ったのが初めてで、その後メンバーのひとりの女の子がすぐにバイトを始めて、「ここは6つも劇場があって、上映している作品は全部タダで観れるんだよ」と教えてくれて、世の中にはそんなおいしいバイトがあるのか、と応募しました。初出勤日は忘れもしない『もののけ姫』の公開初日でした。


ーー映画ファンにとっては夢のような環境ですね。


遠山:まあ観まくりましたよね。ただ、僕は将来的には映画を作りたかったので、就職するつもりはなかったんです。ですが大学卒業するタイミングで、新しくシネマ・ツーを作るという話が出てきて、「ちょっと待てよ、映画を作るのもいいけれど、映画館を作るのに携われる人間なんて何人もいないぞ」と思って、猛烈に手伝い始めました(笑)。映画ファンとしては、映画館を、しかもチェーンではない独自の映画館を作れるなんて一生に一度あるかないかのチャンスじゃないですか。それで就職もせず、夢中になって手伝っていて、そのまま「社員にならないか」って誘っていただいたんです。


ーーでも、映画作りと劇場作るのでは全然違いますよね、方向性が。


遠山:よく言われましたよ、「お前は映画を作りたいんじゃないのか?」って。でも、僕にとってはどちらも同じようにクリエイティブなことですし、映画の魅力ってそもそも、あらゆる要素が入っているところだと思うんです。脚本を書いたり、役者になったりするのもそうだけれど、良い映画館を作ることも映画にとっては大切なことですよね。だから、様々な上映企画やポスター・チラシのデザイン、スタッフの配置をこうしようとか、コンセッション(売店)でちゃんと美味しいコーヒーが飲めるようにしようとか、チケットシステムや会員制度について考えることも、映画のシナリオを書くことと僕にとっては大差ないんです。むしろ、シナリオを書くときの方法論ですべてを考えています。


ーー立川シネマシティに入社してからはどんな仕事を?


遠山:もちろん、最初はアルバイトですから売店をやったり、チケットをモギったりしていたんですが、先述のシネマ・ツーのオープンの準備に入ってからは、まずはコンセッションをどう作るか考えるために、シネマ・ワンの1階に実験店舗的に作ったカフェで働きました。映画を観るときに、冷凍商品をレンジでチンしただけじゃない、ちゃんとしたものを出したいし、美味しいコーヒーや紅茶が出てくるようにしたいと思って、いろいろと工夫をしていました。そこでの経験で、まずは特殊な映画業界からではなく、一般的なビジネスの感覚を養えたのは、自分にとってプラスだったと思います。


 シネマ・ツーがオープンした2004年くらいからは、ちょうど映画館全体のチケット販売のシステムが変わり始めた頃で、自由席ではなく座席指定が一般的になってきて、僕はわりとコンピュータに強かったということもあり、そのシステム開発の担当もすることになりました。それから、小規模作品の選定も任せてもらえるようになって。シネコンというとまだその頃は大体は郊外にあって、単館系作品は商売が成立しにくかったんですけれど、立川はそれなりの都市ということもあって、いわゆるミニシアター作品を積極的に上映しました。最初の仕事は、僕の心の師匠、ウッディ・アレン監督の『マッチポイント』(2005年)で、それからは敬愛するデヴィット・リンチ監督の『インランド・エンパイア』(2006年)とか、塚本晋也監督の『鉄男 THE BULLET MAN』(2010年)とか、趣味丸出しのチョイスをしてました。現在はシステムから、いろいろな企画、チラシやポスターデザインからテキスト書き、時にはDJまで(笑)、何でも屋という感じです。零細企業なんでそもそも人がいないんですよ。


ーーシネコンというと、マスをターゲットとして、数字だけで上映作品を判断するようなイメージもありますけれど、立川シネマシティは比較的、自由度が高い会社なんですね。


遠山:たしかに、わりと自由にやらせてくれる会社ではあります。ただ、基本的に僕は大体、自分の企画をヒットさせてますから(笑)。奔放に見えるかもしれませんが、実は負ける喧嘩はしないタイプなんですよ。バイトから入ってきて他での社会経験がないからこそ、きちんと小さくても成功を積み上げていく必要があると思っていて、かなり慎重です。高根さんがプロデュースした『フラッシュバックメモリーズ3D』の上映も、実は最初は二の足を踏んでいたんですよ。「ディジュリドゥなんて知らないよ誰も」なんて。でもその後、新宿で大ヒットしているというニュースを聞いて、これはやるしかない、極上音響上映決定だと。


ーー(笑)でも、1回くらいは負けたこともあるんじゃないですか?


遠山:もちろん時々は「負け戦こそ、戦の花よ」と攻めた企画もやります。例えば先述の塚本晋也監督の『鉄男 THE BULLET MAN』の上映は、大きな結果が出ないのはわかっていました。でも、塚本監督の大ファンでしたし、この作品を塚本監督立ち会いのもと音響調整して上映すれば、長い間ファンの間で語り草になると思って「いつか必ずプラスになって帰ってくるので」って、社長に頼み込みました。実際興行の数字は厳しいものでしたが、塚本監督はいたく気に入ってくださって、何度も通ってくださいました。そして興行が終了した後、DVDとブルーレイの発売イベントをシネマシティでやりたいと声をかけていただいて、出演俳優の方、音楽の石川忠さん、そして監督のトークショー付きで『鉄男』シリーズ3作の一挙見爆音オールナイト上映をやらせてもらったら、ほぼ満席になったんです。それで社長に「ほら」って(笑)。いまだにあの時の『鉄男 THE BULLET MAN』の音が忘れられないというお客さんの声もあるくらいで。何より高校生の時に深夜にテレビで観て、『鉄男』の銀色の毒電波に打ちのめされた人間としては、最大劇場であるaスタジオで上映させてもらえたことは、最高の栄誉です。こんな幸福がお金に換算できますか。


ーー長期的な視点を考慮したうえでは、負ける喧嘩をすることもあると。逆に、これは絶対に勝てると思っていた作品は?


遠山:最近だと『GODZILLA ゴジラ』(2014)の極上爆音上映ですね。ずっと音楽モノだけではなく、アクション・SF映画で音響調整を行った上映をやりたいと思っていまして、じゃあ何でやるかという時に、これ以上デビュー戦としてふさわしいものはないと。
日本公開前からすでにアメリカでの評価が高く、またいつも調整をお願いしている音響家の増旭さんに相談して、サブウーファーを増設する、というアイディアをいただいたときに、これはスゴいことになる、と確信しました。実際その音を聴いたときには震えましたね。変わるぞ、映画館の在り方が、と。音楽モノの企画は、例えばクィーンのライブ映像でファンの心を掴んだとしても、次にやるのが尾崎豊だとか、『レ・ミゼラブル』とかだと、また告知をふりだしから始める感じになることが多いんですよ。でも『GODZILLA ゴジラ』で極上爆音上映を体験したお客様は、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』や『ジュラシック・ワールド』にもたぶんいらっしゃってもらえるし、『スター・ウォーズ フォースの覚醒』にもきっと来てくださると。つまり繋がっていくんですね。ですので単発の成功だけでなく、継続的な成功の姿を最初の時点でも描くことができました。


ーーその慎重さがあるからこそ、遠山さんは良いポジションを任されているのでしょうね。やっぱり数字で結果を出すのは大事ですよ。


遠山:それはあるかもしれません。情報収集や事前調査なんかも結構やっているほうだと思います。僕自身は何か専門的な知識や技術があるわけではなく、表層的な仕事をしているだけなので、その情けなさや不安を打ち消すためにはきっちり準備をするしかないんですよ。


■「映画を映画館で観る意味が問われる」


ーー先ほど、短いスパンでいろいろな映画を上映することで、幅広いユーザーに応えていくというアイデアを仰っていましたが、「Hulu」や「Netflix」といったサブスクリプションサービスは、細分化したニーズに応えていますよね。それらについてはどう捉えていますか。


遠山:多くのひとが映画というコンテンツ自体にアクセスしやすくなるのは、大きなメリットですよね。また、すでに映画の告知にサブスクリプションサービスは積極的に利用されていまして、たとえば現在上映している『ガールズ&パンツァー 劇場版』で言えば、テレビシリーズをdアニメストアなどのサービスで見放題にしています。ただ、やはり映画館で映画を観るという選択肢が削られる面も否めません。いろいろな視聴スタイルができている中で、どうやって映画館に来てもらうかは、映画館全体にとっても課題で、そのための施策のひとつが、「4DX」や「MX4D」「IMAX」といった新たな体感的な規格なんです。


ーー映画をひとつのアトラクションとして楽しむ、という方向性ですね。極上音響上映、極上爆音上映にも通じる部分がありそうです。


遠山:映画館でしか味わえない体験を提供するというのはとても重要ですね。音楽ライブの現場が盛り上がっているといいますが、それはやはり多くの方が指摘しているように、その場にいかなければ味わえないものがあるからでしょう。映画館でいえば、立川シネマシティでやっている極上音響上映、極上爆音上映は、まさにそうしたコンテンツで、だからこそ多くのお客様に支持されているのだと思います。家庭だとそれほど音量は上げられないし、ヘッドフォンをして上げても、耳から聞くだけになってしまいます。音は耳から聴くだけではなく身体全体で感じるものです。バスドラムやチョッパーベース、大爆発やビルの破壊などの重低音を震動として感じるのは快感ですから。こういうテレビやスマホでは味わえない快感を生み出すため、大スクリーンにしたり、立体音響にしたり、椅子が動いたり水を吹き出すようにして、各社必死に取り組んでいるわけです。


 かつての映画館は映像コンテンツ鑑賞の唯一の手段・場所だったわけですが、やがてテレビが登場し、その後ビデオテープのレンタルが始まり、DVDなどのソフト販売が活発化し、いよいよネット配信が本格スタートして、単に「映像コンテンツを再生する場所」ということだけではやっていけなくなっています。これからは「映画を映画館で観る意味」を追求していかなければ、生き残っていけません。それは体感性の高い上映方式というだけでなく、作品の選定、チケット購入やWeb予約の利便性、外界とシャットアウトされるという「場」の価値の再定義、同じ作品を好きな人たちとの直接/間接的コミュニケーション、価格設定など、総合的な評価になるはずです。


 鑑賞するまでの過程の利便性は、配信サービスには絶対に勝てないですが、音や映像のクオリティ、そこに同じものを好きな人が一緒にいることが醸し出す雰囲気なんかは、映画館が負けることは絶対にありません。繰返しになりますが「映画を映画館で観る意味」が今後、映画館にはますます問われていきます。僕としては、まずはシネマシティにおける成功を目指してはいますが、そのことで映画館というもの全体が注目されることこそ、目標です。カッコつけているわけではなく、これからは映画館が映画館同士で争っているような状況ではないんです。(高根順次)