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松山ケンイチ、なぜ『珍遊記』主人公に? 漫画原作映画との相性を考察

2015年12月11日 20:31  リアルサウンド

リアルサウンド

(C)漫☆画太郎/集英社・「珍遊記」製作委員会

 『デスノート』『デトロイト・メタル・シティー』『銭ゲバ』『ど根性ガエル』と、人気漫画原作の映画で、個性的なキャラクターの数々を演じてきた松山ケンイチ。そんな松山が、漫☆画太郎原作の人気漫画を実写化した映画『珍遊記』の主人公“山田太郎”を演じることが決定し、パンツ一丁という刺激的なビジュアルとともに、大きな話題となっている。


参考:松山ケンイチ、坊主頭とパンツ一丁姿で“山田太郎”に!? 実写版『珍遊記』ビジュアル公開へ


 実写化するのが困難とされた作品でも、再現度の高い松山ケンイチの演技はこれまでも好評を得てきた。なぜ彼はそうした役作りをすることが可能なのか。テレビ解説者の木村隆志氏に聞いた。


「漫画原作映画は、キャラクターの個性が強い分、固定されたイメージのない役者が求められます。本人の個性と役がぶつかり合ってしまうと、見ている方としてはなかなか作品に入り込めませんから。その点で言うと、松山ケンイチさんには、いい意味で象徴的なイメージがありません。ビジュアルや内面も庶民派ですし、どちらかと言えば一般人が親近感を覚えやすいタイプといえます。こうした資質は、漫画原作の作品でキャスティングする上で大事なポイントです。実写化する上でもっとも高いハードルは、原作のファンをいかに納得させるかで、少年漫画の場合はとくに、男性に嫌われる人柄であってはいけません。松山さんは見た目や態度に気取ったところを感じないですし、むしろ友達になりたいと思えるような好人物です。骨太な一面もありますが、時折見せるとぼけた一面は可愛らしく、男性からも好意的に受け止められています。その分、アクの強いキャラクターとのギャップも印象的になり、役者としての魅力にも繋がっているのでしょう」


 演技の面でも、漫画キャラクターに適した資質があるという。


「松山さんの演技は、ひとつひとつの動作の大きさが特徴的です。彼は身長が180cmくらいですが、作品によっては、より大きく見えたり、逆にすごく小さく見えたりします。『セクシーボイスアンドロボ』の須藤威一郎役や『ど根性ガエル』のひろし役を演じていた時はすごく小さな印象を受けましたが、逆に平清盛のような大男になることもできます。声と表情の強弱のつけ方や手の動き、体の使い方などで巧みに演じ分けているのでしょう。『デスノート』で演じたL役では、それが顕著にわかります。また、松山さんは、監督と密にコミュニケーションをとることでも有名です。『松山さんと仕事をするのは楽しい』という監督の発言もよく耳にします。ちょっとした仕草や体の角度などのアイデアは、自分から監督に提案できる方なので、単に漫画のキャラクターをコピーするだけに留まらない演技ができるのでは」


 松山ケンイチのコメディセンスの高さも注目に値すると、同氏は続ける。


「『デトロイト・メタル・シティ』で見せた、芸人のような滑り芸からもわかるように、露骨に狙ってではなく飄々とボケることができるのも、彼が漫画原作に向いている要因のひとつです。このような演技は、どうしても二枚目なイメージがついてしまうイケメン系の俳優にはなかなかできないことですし、特に主演クラスの俳優でできる人は限られています。また、『珍遊記』ではビジュアルもかなり作り込んでくるはずですが、それが出落ちにならないところも、松山さんのすごいところ。一般的に漫画原作だと再現率の高さにばかり目が行きがちですが、それに負けないだけの中身を彼は作ってきます」


 作画・ストーリーともに破綻した強烈な作風で、当時の少年たちに忘れがたいインパクトを与えた『珍遊記』。主人公の山田太郎は、ビジュアルも中身も相当に奇矯なキャラクターだったが、松山ケンイチなら原作ファンも納得の仕上がりを見せてくれるのではないか。(リアルサウンド編集部)