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indigo la End、苦難の季節を経て充実期へーーポップスに回帰した国際フォーラム公演レポート

2015年12月10日 18:51  リアルサウンド

リアルサウンド

写真=井手康郎

 12月3日、indigo la End(以下、インディゴ)がワンマンライブ「蒼き花束」を東京国際フォーラムホールAで開催した。バンドにとって過去最大規模の会場ながら、チケットは見事にソールドアウトし、約5000人のファンが集結。しかも、この日は川谷絵音の誕生日ということもあって、ライブの途中でSEKAI NO OWARIのNakajin、キュウソネコカミのヤマサキセイヤ、Perfumeのあーちゃん、ウエンツ瑛士という川谷と親交のある4人からのビデオメッセージが上映され、ゲストとしてゲスの極み乙女。(以下、ゲス乙女)の休日課長が花束を抱えて登場する場面も(彼は元インディゴのメンバーでもある)。さらに、川谷とあーちゃんが知り合うきっかけを作り、川谷と同じくこの日が誕生日だったWEAVERの杉本雄治が登場し、ツインボーカルで「瞳に映らない」を披露と、サプライズ満載の一夜となった。


 ただ、よくよく考えると、これはなかなかにチャレンジングなことだったように思う。最初に書いた通り、この日はバンドにとって過去最大キャパのワンマンであり、初見のお客さんも多かったであろうことを考えれば、普通は一曲でも多くの曲を演奏して、バンドの世界観をアピールしようと考えそうなもの。ゲス乙女がそのキャラクター性もあってライブの中に様々なネタを持ち込んでいるのに対し、これまでのインディゴのライブはシンプルな構成のものが多く、今年に入ってワンマンの会場をライブハウスからホール中心に移したのも、じっくり音楽を味わってほしいという気持ちの表れだったはず。もちろん、この日は誕生日という特別な日だったわけだが、それにしても、これまでとは大きく様子の違うライブだったのだ。


 もちろん、この変化は決してネガティブなものではなく、明らかにポジティブなもの。少しこれまでを振り返ってみると、インディゴは川谷がゲス乙女を結成する以前から活動していたバンドだが、結果的にはゲス乙女が先にブレイク。昨年ゲス乙女と共にメジャーデビューを果たしたものの、その時点ではまだベースの後鳥亮介はサポートで、昨年8月に正式加入するも、今度は年末にドラムのオオタユウスケが脱退している。しかし、今年の3月に行われた中野サンプラザ公演で、サポートだった佐藤栄太郎の正式加入が発表され、ようやくメンバーが固定されると、7月のツアーでは渋谷公会堂でのワンマンを成功させるなど、ようやく活動が軌道に乗り始めた。その流れで掴んだ自信があったからこそ、この日のライブを誕生日の特別なものと位置付けることができたのだろう。


 ここまでライブのあり方の変化について書いたが、川谷の長いMCはこれまでも同様だったりして、実際は特別大きな意識の変化があったわけではないのかもしれない。ただ、少なくともバンドが充実期を迎えていることは間違いなく、その象徴がこの日中盤で披露されたアコースティックコーナーだったように思う。インディゴはそもそもポップス的な資質を持ったバンドであり、初期はミドルテンポの楽曲が多かったが、メジャーデビュー作の『あの街レコード』から、続くフルアルバムの『幸せが溢れたら』では、意識的にアップテンポの楽曲を増やし、ギターロックのシーンに接近していった。しかし、今年に入ってメンバーが固まると、最初に出した『悲しくなる前に』こそ、それまでの流れを受け継いだアップテンポなナンバーだったものの、続く『雫に恋して/忘れて花束』はミドルテンポの楽曲で、改めてポップスへと回帰。そんなタイミングだったからこその、この日のアコースティックコーナーだったというわけだ。川谷がSMAPに提供した「好きよ」を、サポートの女性コーラス2人と川谷の3人で披露した場面などは、川谷がボーカリストとして力をつけていることも確かに証明していたように思う。


 ライブ終盤、「悲しくなる前に」のイントロでリズム隊がアグレッシブなソロの応酬を披露したように、今のインディゴはメンバー個々が高いスキルを持ち合わせ、場面によってはZAZEN BOYSのごとくバチバチとぶつかり合うこともできるバンドである。しかし、この日は『幸せが溢れたら』の中で最もアグレッシブでサイケデリックな「実験前」や、これまでライブのクライマックスで演奏されてきた轟音系の大曲「幸せな街路樹」は演奏されず。また、アンコールで初披露され、2月にシングルとして発売されることが伝えられた「心雨」も、シングルの表題曲としては初のミディアムバラードで、こういった事実もバンドのポップス回帰を伝えているように思う。ただ、『雫に恋して/忘れて花束』もそうであったように、表面的には親しみやすいポップスであっても、よく聴けばアレンジや演奏はかなり凝ったものになっていて、単なる原点回帰というわけではなく、バンドがまた一段階上のレベルに達したことがよくわかるはずだ。


 本編最後の「夏夜のマジック」の前に、川谷はかつて渋谷クラブクアトロのワンマンが埋まらずに不安になったことや、脱退したオオタに対する想いを語り、さらには現在のメンバーへの感謝の言葉を口にした。そして、アンコールのラストでは毎回川谷のエモーションが爆発する「素晴らしい世界」が演奏されたが、この曲について以前川谷は「<大丈夫そうだ>ってところを自分がどういう感じに歌っているかで、そのときの自分の心境がわかる」と語っている。この日の<大丈夫そうだ>が強い確信を持って聴こえたのは、決して偶然ではないはずだ。


(文=金子厚武)