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氣志團、金爆、GLAY、ハロプロ、米米CLUB……日本独自の“振り文化”が定着した背景を探る

2015年12月10日 18:31  リアルサウンド

リアルサウンド

氣志團『One Night Carnival』

 アーティストの歌と音を生で体感すると同時に、ステージと客席ともに創り出される一体感もライブ/コンサートならでは醍醐味である。リズムに合わせて身体を揺らす、手拍子をする、といった一般的なものからヴィジュアル系やアイドルファンの独特の“振り”を用いた複雑なスタイルまで、ノリ方は様々だ。矢沢永吉「トラベリン・バス」「止まらないHa~Ha」のタオル投げ、長渕剛「勇次」のクラッカー、サザンオールスターズ「みんなのうた」の腕振りなど、キメ的なお約束があるアーティストも多い。そこに参加することで一人前のファンになれたような充実感を得られたりするものだ。


 このようなライブの楽しみ方は、とくに日本で顕著に見られる光景である。海外では、観客個人が自由気ままに愉しむスタイルが主であり、歓声や合唱が巻き起こることはあっても、「サビで一斉に手を上げる」といった楽しみ方はほとんどない。レゲエやレイブの高揚感を表す、人差し指を突き立て空砲を撃つポーズ、“ガンフィンガー”や、クラシック音楽のコンサートなどにおける賛辞を込めた“スタンディングオベーション”があるが、あくまで個人の感情表現であり、複数の連帯感を伴うノリ方は、古くから盆踊りや、合いの手を入れる文化が土着してきた日本だからこそ主流となった応援スタイルでもある。


 バンドブーム期、他所の熱気があからさまになるホコ天を含め、アーティスト独自のノリ方が生み出されていった。ユニコーン「大迷惑」、BUCK-TICK「ICONOCRASM」など、ライブの定番曲に振りがつくバンドが多い。X JAPAN「X」の“Xジャンプ”はアマチュア時代のTAKUYA(ROBOTS, ex. JUDY AND MARY)らが考案したのは有名な話である。反面で、強制されるように捉えるファンや、予定調和を嫌うアーティスト自らが異を唱えることもあり、しばし論争の種にもなった。形は違うが、アイドルからアーティスト志向を強めたチェッカーズや吉川晃司は、「ペンライト禁止」「バラードでの拍手禁止」「過剰な声援禁止」など、本人自らがファンへ呼び掛けをした。シーンが盛り上がって行く中で、ライブ/コンサートにおけるファンマナーが問われていった時代でもある。


 ヴィジュアル系ファンの振りの定番、現在は両手をヒラヒラさせながら左右に「∞」を描く“手扇子”はステージに手を差し伸べるようにする動きに始まり、バンドブーム以降に多くのライブで見られた光景でもある。次第に“ヴィジュアル系っぽい”振りとして発展、定着していくとともに「ヴィジュアル系」という言葉自体で括られることに違和感を覚えるバンドからは敬遠された。現在でもラウドロックなどを基調とするバンドでは、暗黙の了解で非推奨となっている場合が多い。逆にその“ぽさ”を、リズミカルな躍動感で払拭しようと発展したのが“GLAYチョップ”だろう。


<GLAY EXPO ’99>の20万人が両手を前後に振る、稲穂の揺れるような光景が話題を呼んだが、同年代のアリーナクラスのバンドにも波及したことから、“メジャー振り”とも呼ばれた。


・ヴィジュアル系の“振り文化”


 ヴィジュアル系の振付けといえば、優雅に羽根扇子を揺らせていたSHAZNAや、舞踏会さながらのパフォーマンスを見せていたMALICE MIZERの印象も強いが、近年のゴールデンボンバーにみられるような、ファンも一緒に踊ることになった発端ともいえるのは、PIERROTだろう。台に上がったキリトが、頭上に掲げた両手首を打ち鳴らす姿に会場全体が導かれる「Adolf」(1997年『CELLULOID』収録)は、90年代のヴィジュアル系ファンなら誰もが出来る、“最もアガる”振りとして知られている。そして、ヴィジュアル系バンドのボーカリストがライブで用いる舞台装置“お立ち台”は、黒夢の清春がはじまりとされるが、PIERROTによって広められたといっても過言ではない。当時「いろんなバンドから羨ましがられた」というこの台をキリトは“ボーカル要塞”と呼んでいたが浸透せず、現在に至るまで“お立ち台”の呼称で定着している。見た目の頑強さとは裏腹に、アルミやステンレス製など軽量なものも多く、今やヴィジュアル系ボーカリスト必須の“機材”である。黒夢のローディーであったDIR EN GREYの京が演出効果や舞台オブジェとして昇華させ、DIR EN GREYの元ローディーで清春のレーベルからリリースしたMERRYのガラは、お立ち台として学級机を用いるという斜め上をいく形でも引き継がれている。


 2000年代になると振りが多様化、複雑になり始めた。耽美や退廃な非現実的世界観の同シーンにポップでカラフルさを持ち込んだ、バロック(現・BAROQUE)の登場は大きく、以降「ライブはみんなで楽しもうよ」とハイテションで軽いノリを演出する「オサレ系」と呼ばれるバンドが一気に増えた。シーン自体の人気が下火になる中で、盛り上げようとする風潮から発展したこともあるのかもしれない。


 メンバー自ら振付け指導をするDVDが作られたり、インターネットの普及により、動画がアップされることも今や自然な流れになっている。


・アイドルの“振りコピ”


 ヴィジュアル系と同様に特異な文化のあるアイドルシーン。掛け声や独特の振りを行う応援スタイルは、70~80年代より熱狂的なファンによる「親衛隊」などにより発展してきた文化であるものの、2000年代に入って多様化し、アイドルブームとともに、“ヲタ芸”と呼ばれ広く認知されるようになった。


 これまで記事内で例にあげた動画は、演者とオーディエンスの動きが対になっていることが解るだろうか。演者が右に動けば、ファンは左に動く、つまりステージと客席が“鏡あわせ”状態になっている。だが、アイドルのコンサートでは、演者とまったく同じ動きをする場合がある。ハロー!プロジェクトのコンサートにおける振りがそれであり、“振りコピ ”と呼び、ハロプロ以外の多くのアイドルや声優の鏡あわせ状態を“ミラー(演者ミラー)”と区別している。ただ、それを意識しているのは、その文化に精通している人だけであり、ヴィジュアル系ファンなどは、特に左右を意識しているわけではない。ロックやポップスにおける手を振る行為もすべてミラーである。振りを真似る、見せることを前提したものではない場合、反射的な本能としてはミラーのほうが自然なのかもしれない。


 藤本美貴「ロマンティック 浮かれモード」(2002年)をはじめ、ヲタ芸を広めた一因でもあるのがハロプロファンである。だが、多くのアイドル現場で目にする「タイガー、ファイヤー、」など叫ぶヲタ芸の定番である“MIX”を「楽曲と関係ないもの」などとして、打たないのもハロプロファンだ。振りコピはファンがコンサートを楽しむために、独自に発展してきたハロプロ文化の象徴でもあるだろう。印象的な振付けが多く、通常のミュージックビデオとは別に、一曲通して引きのカメラで構成される<Dance Shot Ver.>が制作されていたことも大きい。中でもBerryz工房はデビューから活動停止まで、キャッチーでインパクトのある振付けに徹していた面も見られ、男女問わずファンが振りコピする光景は圧巻であった。


・「日本で最も楽しいライブ」の振りコピ


 ハロプロ以前の振りコピといえば、爆風スランプ「東京ラテン系セニョリータ」(1991年)の、当時“振付師”としてブレイクしたラッキィ池田による日本武道館1万人の振り付けミュージックビデオが話題を呼んだが、それより前にファンの自発による「元祖・振りコピ」といえるコンサートを展開していたアーティストがいた。「日本で最も楽しいライブ」と評される米米CLUBである。当時は“振り真似”と呼ばれており、ミラーではない。「ファンレターの100%が女性」というシュークリームシュの振り真似するファンで埋め尽くされる会場は壮観である。当時バンドとしては異例だった振付けビデオも販売され、ファンがメンバーの衣装を真似て自作し、会場に向かうというコスプレのはしりでもあった。


 「ファンを含めた文化が米米CLUBである」という、観客を巻き込んでいく手腕は特筆すべきところである。ライブ会場はステージと客席が一体となる空間として考えられており、デビュー当初より警備スタッフもステージの前柵も置かなかった。だからこそ生まれたファンの応援スタイルが多い。近年“タオルミュージック”とも呼ばれる頭上でタオルを回す行為(元はレゲエ発祥の“プロペラ”という「最高!」の意思表示を表すもの)よりもっと前から米米はハンカチを回していた。客席でタオルなどを“回す・振る”行為は禁じられていた時代である。2006年の再結成後のライブ会場には警備スタッフがいたが、ライブが始まると踊り出し、仕込みの振付要員だったのはさすがである。


・海外に広まる日本の応援スタイル


 そんな日本独特の応援行為であるが、プロ野球に代表される、楽器を持ち込んで歌い、観客が一丸となる応援スタイルも欧米では珍しいものであり、外国人観光客が東京ドームや甲子園で野球観戦することが密かなブームにもなっている。そして、日本の応援スタイルのルーツともいうべきものも、海外から注目を浴びている。ヨーラン(長ラン)姿の伝統的な「応援団」だ。東北各地の応援団のOBが集まって組織される社会人応援団「青空応援団」は、フランス遠征を果たし、JAPAN EXPOでも話題を呼んだ。


 手旗による演舞をはじめ、ヴィジュアル系の振りや、アイドルファンの応援スタイルも応援団が祖といってもいいだろう。


 今や海外でもヴィジュアル系バンドのコスプレをしてヘドバンしたり、ペンライトを振りながらヲタ芸を打つ外国人も多い。音楽とともにそうした日本独自の文化が、慣習のない海外に伝わっているのである。興味のない人からは異様にも見える光景でもあるが、海外から「世界で類をみない愛のある応援スタイル」と評されることもあり、感慨深い。


 ノリ方や応援スタイルは決まっているものでも、強要するものでもない。一体感の一方で、同一空間における「アーティスト対自分」という1対1の構図を味わえる貴重な時間でもある。アイドルファンの中では熱狂的な応援と、周りのことを気にせずステージだけを目に焼き付けておきたい“地蔵”スタイルが共存している。楽しみ方は個人の自由でなのである。(冬将軍)