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劇団PU-PU-JUICE・山本浩貴 & AJIGULが語る、戦争作品に向き合う理由「自分たちの言葉で戦争を語りたかった」

2015年12月10日 12:51  リアルサウンド

リアルサウンド

AJIGUL・砂川彩乃と辻本好美、劇団PU-PU-JUICE・山本浩貴

  毎公演の動員観客数が2000人を超える人気劇団、劇団PU-PU-JUICEによる第22,23回本公演『兵隊日記 タドル /兵隊日記 ツムグ』が、12月17日(木)から27日(日)にかけて中目黒 キンケロシアターにて開催される。『兵隊日記 タドル』は、ある戦争映画を撮影していた役者たちが、1945年に池田甚八という兵隊が書いた日記をもとに、戦争の時代と向き合おうと必死にあがく物語で、キャストには俳優の山下徹大や文音、三浦力らを迎えている。連作となる『兵隊日記 ツムグ』は、1945年当時の池田甚八の一家が、戦時中にありながら、日々訪れる珍客たちが巻き起こす事件を解決しようと、明るく奮闘する物語。キャストには元・アイドリング!!!のメンバーだった外岡えりかも名を連ねている。戦後70年の節目を迎えた今年、劇団PU-PU-JUICEはなぜ戦争を題材にした作品に挑んだのか。脚本を務めた劇団PU-PU-JUICE・山本浩貴と、劇伴を担当するAJIGUL・砂川彩乃と辻本好美の3人に、インタビューを行った。


参考:中前勇児監督が語る、叩き上げの演出論「必要なことはすべて撮影現場で学んだ」


■山本「下の世代に戦争を伝えるときに、自分の言葉で語る必要があるんじゃないか」


ーー『兵隊日記タドル』と『兵隊日記ツムグ』は、一冊の日記を通じて、過去と現在というふたつの時代から戦争というテーマに向き合った連作となっています。こうした作品に挑戦しようと思ったきっかけは?


山本:僕自身、これまで戦争についてしっかりと向き合って考えたことがなかったので、一度、ちゃんと自分の言葉で戦争というものがどういうものなのかを語ってみたいと考えたのがきっかけです。僕らの世代は戦争を体験していないけれど、自分の下の世代に戦争のことを伝えるときには、やはり自ら調べて、納得した言葉で語る必要があるんじゃないかと思うんです。戦後70年という節目でもありますし、劇団としてもこれまでに触れてこなかったテーマだったので、メンバーと話し合った結果、今回の題材にすることにしました。


ーーAJIGULの二人は、「劇団PU-PU-JUICE」の舞台に劇伴を付けるのは二回目ですね。前回の『竜馬が生きる』『竜馬を殺す』とは、時代背景や世界観が大きく異なりますが、それについてはどう捉えていますか?


砂川:私たちは尺八とピアノのユニットで日本的なサウンドを追求していて、前回は演出に和太鼓なども入っていたので、本当にドンピシャだったのですけれど、今回は戦争がテーマの作品とのことで、正直なところ、私たちになにができるのか心配な面もあります。それこそ、映画などにも戦争を描いた名作はたくさんあるので。だから今回は、自分たちのコンセプトと作品自体をどう擦り合わせていくかというより、できる限りお芝居の世界に寄り添うことを、まずは意識していますね。


辻本:ただ、美しさにはさまざまな形態があると思うので、そこをうまく表現していきたいとは考えています。戦争をテーマにした作品となると、なかなか美しいイメージは抱きにくいですけれど、当時を生きていた人々の心境にもある種の美しさは宿っていたはずだし、それを表現することは私たちにとってもプラスになると思うんです。


ーー劇伴は芝居を見て、それに合わせて制作していくんですか?


砂川:そうですね、お芝居の稽古を見て、そのシーンに合わせて即興的に作っていく感じです。多分、こういうやり方は珍しいんじゃないかと思います。


山本:ウチの場合は、脚本が全部できてから稽古が始まるということはまず無いですからね。


砂川:本当にキャッチボールみたいな感じで、あっそう来たか、じゃあこれならどうだ、これならどうだ、という。稽古中から本番まで常に“生もの”という感じで、お芝居も演奏も日々変わっていきます。


山本:そういう作り方をするのが、一緒にやっていて一番楽しいんですよ。役者さんと音楽家さんが、芝居と音で会話する感じで、そうすると予定調和ではないものができあがってきます。もちろん、彼らはその分、大変な面も多いとは思うけれど。脚本も、ある程度のプロットはできているものの、稽古の中でどんどん変わっていきます。僕の場合、結構バラバラにいろんなシーンを書いてきてしまうので、演者さんたちは余計に大変かも(笑)。


砂川:なんか最近、稽古を見ているとパズルみたいだなって思います。「あー、ここが繋がってたんだ」って感じで。


ーーそうした手法は山本さんのこだわりですか?


山本:演出家としてこういうのもなんですけれど、僕がすべてを指示するより、演者さんたちが色々と提案してくれたほうが、結果として面白い作品になるんですよね。僕自身、稽古場に来るときは、お客さんとして来るような気持ちで、「今日の稽古は何をみせてくれるんだろう」って楽しみにしたいですし、毎日なにが起こるかわからない、昨日作ったものを今日は壊すっていうほうが、エキサイティングじゃないですか。


ーー「劇団PU-PU-JUICE」は“映像と舞台の垣根を取り払う”というテーマを掲げています。これはどういうことでしょう。


山本:この仕事をやっていると、よく舞台と映像の違いが話題に上がることが多いんですよね。たとえば演技ひとつ取っても、舞台的なものと映画的なものは違うとされています。でも、両者は見せ方が違うだけで、通じる部分はたくさんあるし、だからこそお互いの良いところをうまく組み合わせれば、その垣根を取り払った新しいものが生まれるんじゃないかと考えたんです。具体的にいうと、「劇団PU-PU-JUICE」は舞台をメインにやっているけれど、お客さんには映画を観るような感覚で気軽に来て欲しいと思っています。そのためにどんな工夫をすれば良いか、というのは常に考えているところですね。


ーー舞台を観に行くのは、映画を観に行くのと比べると、たしかに少しハードルが高く感じられるかもしれません。


山本:もちろん、シェイクスピアなどの舞台芸術もあって然るべきですが、もっと日常的に楽しめる舞台もあって良いと思うんです。理想を言えば、お客さんに「面白かったから、もう一度観てみよう」と思ってもらえるくらい、僕らの舞台はカジュアルに受け止めてほしいですね。舞台の演技というと、「あー、ロミオ!」みたいなものを想像するひとも多いと思うんですけれど、そうではない芝居のやり方もありますし、逆に映画やテレビドラマでも、大きな芝居をする作品はあります。それから、舞台の劇中で映像を使ったりすることでも両者の融和は図ることができると思いますし、舞台原作の映画もたくさんあります。実際、「劇団PU-PU-JUICE」の舞台で行った『女子高』という作品は、来年にAKB48の峯岸みなみさん主演で映画化することも決定しています。舞台にしろ映画にしろ、本質的な部分は同じだというのが、僕の考え方なんです。


■辻本「その場で演じるからこそ立ち上がるリアリティはある」


ーー今回の『兵隊日記タドル』は、戦時中に書かれた日記を読む現代の若者たちの物語で、『兵隊日記ツムグ』は、その日記を書いた一家の物語となっています。この二重構造も「劇団PU-PU-JUICE」らしい試みかと思いました。


山本:戦争を題材とした作品はすでに世にたくさんある中、自分たちならではの切り口を考えた結果、こうした形になりました。まずは僕自身が、戦争について調べようと戦時中のひとの手紙や日記、『きけ わだつみのこえ―日本戦没学生の手記』などを読んだのですが、これまでイメージしていた部分と随分違うところもあって。僕たちが戦争を語るのであれば、その調べて認識していく過程もまた、物語として見せる必要があると考えたんです。たとえば特攻隊の人々に対しては、国家に洗脳されて戦地に赴いたというイメージが漠然とあったんですけれど、実際に手紙を読んでみると、すごく教養があるし、当時の世界情勢についても冷静に捉えていたりします。そうしたイメージとのズレに僕自身驚きましたし、舞台を観に来たお客さんにも、僕たちのそういう姿を通して、少しでも当時のことに目を向けてみてほしいと思いました。日記から過去を辿ろうとする役者の姿は、結局、自分たちが戦争に向き合う道筋にも繋がるんじゃないかというのが、『兵隊日記タドル』で試みたことです。


ーーそれで『兵隊日記ツムグ』では、実際に自分たちなりに当時の日常を再現してみようと。


山本:そうですね。ただ、戦時中というと暗くて悲惨な印象があり、もちろんそういう側面が大きいと思うのですが、今作で描きたかったのは、その厳しい環境の中でも笑ったり泣いたりしながら生き延びていこうとする家族の姿ーーどんな状況にあっても前を向こうとする人間たちの強さです。いまは世の中の環境が変わって、家族が離れ離れでも生きてはいけるし、だからこそ独居するひとも多いと思うんですけれど、当時は本当に家族で手を取り合わないと生きていけなかったんじゃないかと思うし、そこには何か、いまの時代には失われてしまった大切なものもあるんじゃないかと思います。ただシリアスに悲惨な戦時中を描くのではなく、その中にあった人間らしい営みを同時に表現したかったんです。


ーー戦時中にあった人間らしい営みというのも、山本さんが日記などを読んで感じたことなんですか。


山本:ええ、日記を読むと、当時のひとたちは空襲でB29が飛んでくるのにも慣れているところがあって、防空壕に隠れるのを面倒臭がっていたり、普通に友達の家に遊びに行ったりもしている。今日のご飯は何を食べようとか、普通の日々の生活もそこにはあるんですよね。それは結局のところ、僕らとそう変わらない感覚の人々がそこに生きていたということだと思うんです。そして、それを描くことは、戦争というものが決して過去のものとして僕たちから切り離されたものではない、ということを示すことにも繋がると考えました。


ーーたしかに、生活を描くことでより現実味を持って当時に思いを馳せることができるかもしれません。


山本:戦争があって、多くのひとが亡くなったというのはひとつの真実だけれど、その捉え方は必ずしも一様ではないですよね。歴史を学ぶということは、単に過去の事実を調べるということではなく、その多様な捉え方に想像を巡らせることでもあって、それは自分自身と向き合うということでもあると思うんです。そこに正しい答えがあるとは限らないけれど、それでも自分で調べて、自分なりに考えたことを発信する姿勢というのは、どんな表現をするうえでも大切なんじゃないかな。


ーーAJIGULのふたりも、山本さんのそうした姿勢に共感する部分があるのですね。


辻本:この作品はまだ未完成ですけれども、ある種のリアリティが宿った作品になると思っていて。それはやはりみんながその場で一生懸命考えて、歴史と向き合おうとしているからじゃないかと思うんです。その場で演じるからこそ立ち上がるリアリティというか、なにかしら現実と交錯する感じはあるんじゃないかな、と想像しています。


砂川:音楽的な課題としては、ふたつの時代をどう表現し分けるかを苦慮していますね。戦時中と現代、違う時代だけれども、山本さんも言ったように、ふたつの時代は決して切り離されたものではないということを表現したいので、どこかで繋がっている感じも出していきたい。


辻本:今は演技を見ながら曲を作っている状態なので、そのときに、見て感じたものから自分の中でイメージができたものを出すという感じですね。そのなかで自分たちなりに、いろいろと考えてみたいと思っています。


砂川:一番はじめに稽古場に来たとき、山本さんに「台詞も音だから」って言われたんですよね。それで、生の音楽と生の演技とでキャッチボールをすること、その場で舞台が立ち上がっていくことに感動したんですけれど、その空気感はすごく大事だと思う。


山本:音楽や芝居というのは、生で演奏する音と録音された音とでは大きく異なると思います。音というのはすごく重要で、無音だって音のひとつだし、芝居にもなるんですよ。場合によっては、台詞の内容よりも音が重要なときもあります。歌だって、ただ「あー!」って歌っているところで感動したりしますよね。そういう意味では、役者も楽器だし、自分の声と体を使って、日々チューニングしています。そこにどう感情を乗せるかで台詞のトーンだって変わってきます。


ーー生で演奏をすることもまた、対象とリアルに向き合うということと繋がってくるのかもしれません。


山本:そうですね、今回は伊藤直哉さんにキャスティングをしていただいて、「この人と一緒に芝居をやってみたい」と心から思えるひとたちが集まっているんですけれど、彼らはなにが良いかというと、常に熱意を持って作品と向き合ってくれるんです。その先にはなにがあるかはわからないけれど、それでも一緒に行こうとしてくれる。AJIGULのふたりもそうです。だからこそ、「今日、このひとはどんな芝居を見せてくれるのだろう」「AJIGULはどんな音を聞かせてくれるんだろう」と、毎日楽しみなんですよね。もちろん、キツいこともたくさんあって、もしかしたら9割はそうかもしれない。でも、その辛さがひっくり返るような瞬間、自分の想像をはるかに越えた芝居になる瞬間はきっとくると思っているし、その時、この戦争をテーマとした作品はなにか意味を持って、我々はもちろん、お客さんの心にも響くんじゃないかと信じています。(松田広宣)