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BENIがたどり着いた、“飾らない”という表現方法「無駄なことを引き算して届けたかった」

2015年12月10日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

BENI

 BENIが、前作『RED』以来、約2年半ぶりとなる6枚目のオリジナルアルバム『Undress』を、11月25日にリリースした。今作は「飾らない(=Undress)」をテーマに、BENIという一人のシンガー、そして一人の女性としての姿がはっきりと浮かび上がった作品となっている。もともと歌唱力の高いシンガーであるが、今作の歌入れの際には“正確さ”よりも“ストレートな感情表現”を重視したという。デビュー10周年を経たこのタイミングで、なぜ彼女は飾らないことを選んだのか。本アルバムに関する話から、彼女が今後目指していく姿までじっくり話を聞いた。(神谷弘一)


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■「肩の力を抜いて今は歌いたい」


ーー2年ぶりのオリジナル・アルバムをリリースするにあたって、どういったアルバムを作ろうと考えましたか。


BENI:去年10周年でベストアルバムをリリースしましたが、オリジナルを製作するのは久しぶりでした。まずタイトルを「飾らない」という意味の『Undress』にして。前を向いて作品を作るというよりは、一度ストップして「自分は何を伝えたいのか」「何があって今まで来られたのか」を振り返りました。そういう機会があったからこそ、「フォエバ」のような普段は照れくさくて言えない、身近な存在に対しての思いをのせた曲ができたんだと思っています。恋愛ではない「愛」という言葉が自然に出てきたというか。ベストアルバムがあって、そこから踏み出す次のステップとして、まずは近しい人たち、私をサポートしてくれている人たちへしっかり思いを伝えたいなという気持ちで作りました。


――ベスト盤のリリースが、ご自身のキャリアやアーティストとして表現したいことを改めて振り返る機会になったということですね。


BENI:そうですね。2年くらい空くと自分の中でハマっている音や歌いたい事が変わるのは当たり前ですけど、その中でも肩の力を抜いて今は歌いたいんだなと、作りながら思いました。「客観視したラフさ」というか。


――前回のインタビューで「パーフェクトを目指していた時期もあったけど、それだけじゃないかもしれないと気づいた」とおっしゃっていましたが、今回の歌い方はどこか親しみやすさ、ラフさが強調されているように感じました。


BENI:隙間を埋めず“間”を大切にするという、テクニカルではなくストレートに歌詞にのせて歌うことを意識しました。シンプルに、語りかけるように、力の抜けた声の使い方も心がけましたね。


――先ほど出た「フォエバ」という曲ですが、この曲はアルバムの中でも1つの核になっていると考えてもいいのでしょうか。


BENI:はい。テーマ的にもサウンド的にも核になっています。ベストアルバムを作っていた時に推していたのが「もう二度と…」という失恋ソングで。それがしっとりとしたバラードだからこそ、定番曲として「フォエバ」のような、ポジティブで、乗るだけでハッピーになれるような曲をすごく求めていたんです。でも、トレンドに左右されないタイムレスな曲にしたいとも思っていて、あえてレトロなサウンドとビートにしました。とても気に入っていますし、今やライブでは欠かせない曲となっているので、自分の中では「もう二度と…」の次にBENIといえば「フォエバ」になってほしいと思っています。


――今回はMVなどを通して、BENIさんのメッセージがビジュアルと音楽のミックスとして伝わってきた感じがあります。前回、音楽の聴き方もどんどん変わっていくから、それに合わせて自分ももっとチャレンジしていきたいという発言もありましたが、今回もその点は意識しましたか。


BENI:そうですね。例えば、SNSでもブログからInstagramになって、動画メインのSnapchatに今ハマったりしていて。そういうのと一緒で、ビジュアルで歌の世界感を見ることで曲がまた違う入り方や聴こえ方をしていることをすごく実感していて。それを今回のアルバムでより立体的にしたというか。MVもたくさん作らせてもらいました。


――「フォエバ」は、まさに渡辺直美さんと共演したMVがネット上で話題になりました。


BENI:想像以上に反響があって、特に女の子から「友達への思いにグッときた」という感想を聞きます。この曲は、元々ファンのみなさんやスタッフ、いろんな人達へのありがとうという、大きなメッセージからスタートしたものなんですけど、(渡辺)直美ちゃんとのビデオがきっかけで、特に「友情」がフィーチャーされるようになりました。


■「昔があったから今があると思える変化があった」


――リスナーが、友情というテーマに反応したということが今の時代の空気というところもあるのかなと思いました。ポップミュージックはどうしても「恋」のテーマが多くなりがちですが、少しずつ変わってきているのかなと。


BENI:「愛」の形がたくさんある中で、単純に「恋」以外でスポットが当たる曲が増えている気はします。自分もそういう気分でしたね。今年友達に久しぶりに会ったことがきっかけで「BFF」という曲も出来ました。これは「フォエバ」以上に友情にフィーチャーして、自分自身のストーリーを書いています。女の子同士の友情をストレートに表現した曲です。


――「BFF」(Best Friend Foreverの略)はよくインスタグラムなどで使われるワードですが、BENIさんにとっての「BFF」はどんな存在でしょう。


BENI:私の「BFF」は中学高校がずっと同じだった4人組です。みんなそれぞれ全然違う人生を歩んでいて、会う機会は1年に数回。でも、会うとタイムスリップしたような感覚で一緒に過ごせるんです。そういうのってすごく貴重で大切だと思っていて。歌詞のとおり「80歳になってもよろしくね」と本気で思っていますし、そういうリアルなところからスタートしたおかげでいい歌詞が書けました。


――そういったパーソナルな部分も歌にするというのは、勇気のいることでもあるのでは。


BENI:今回アルバムを改めて聴いて、自分は大人になったのかなと。昔があったから今があると思える変化はありました。以前は最先端を意識して、常に新しいことをしたいと思っていました。誰もやっていないことや「私は人とは違うんだ」ということばかりにフォーカスしていたかもしれません。今は周囲の支えの大切さなど、そういうところに目が行くようになったし、それを実際に伝えたいと思うようになりました。


ーー「PAPA」という曲も今のBENIさんだから歌える曲だったのでしょうか。


BENI:10年前は絶対歌えなかったです。父との関係は複雑だったというか、仲が悪かった時もありますし。それを越えて、今は偉大な存在だと思っています。お母さんをフィーチャーすることってこれまでもあると思うんですけど、お父さんは影のヒーローというか。頑張っているからもっとフィーチャーしてあげたいなと。みんなも感謝の思いを伝えたくても照れくさくてなかなか言えない存在だと思うんで。そういう歌をみんなのために代弁して作りたかったんです。


――これも大きな反響があったようですね。


BENI:ありました! リリックビデオで使う写真を募集したら、びっくりするくらい来て。わざわざ探してくれるくらい、みんなアピールしたいけど、なかなかタイミングがないんだなと思って、なんだか嬉しくなりました。そして思ったのがお父さんとのベストショットスポットはお風呂なんだなって(笑)。いいお風呂ショットがたくさんありました。


――今作は、あまり歌にしてこなかった感情や関係がたくさん歌われた作品のように感じます。


BENI:やっぱり歌ってパワーがあると思っていて。「PAPA」にしても、パパと昔の写真探そうよ、という会話のきっかけになるかもしれませんし。ちょっとでもきっかけが作れたらいいなと。私も数々の楽曲に影響されて心動かされてきたので、みんなの心が必要としているようなメッセージや言葉をこめた歌を作り続けたいと思います。


■「無駄なことを引き算して届けたかった」


――一方、音楽的に尖った部分や攻めている部分もこれまで通りあるわけで。BENIさんの中でそのあたりと親しみやすい部分のバランスが取れているのでしょうね。


BENI:音楽的には「引き算」というものがテーマでしたね。今回は、1人の女性として日々感じている悩みや葛藤をよりリアルに『Undress』というタイトルに込めて、赤裸々に歌いたかったんです。音楽もそうですし、映画などの作品をいろいろ見ていて、ドキッとするくらい生々しいものに感動したり、そういうものが心に刺さったりするので。無駄なことを引き算して届けたかったんです。


――サウンド面では、アコースティック、エレクトロ、ダンスミュージックを上手くミックスさせる中で、いい意味で隙間が出来ていて気持ちいい音空間です。数々のクリエイター陣とコラボレーションしていますが、音楽的な仕上がりについてはどう捉えてますか。


BENI:今まで以上にチャレンジしたものになっていますね、一曲一曲にカラーがあって。元々リスペクトしていたり大好きなプロデューサーたちだったり、普段から関わりがある人たちだったので、変にかまえずに楽しく作れました。


――DJ/プロデューサー・ユニットのHABANERO POSSEが手がけた「MEOW」はとてもユニークな1曲です。


BENI:この曲は、2、3時間位で仕上がりました。私が飼っている猫たちの写真を見ながら、名前を連発したのをレコーディングして「もうちょっとトーン高めの“ニャー”ください!」とか言ったりして。ふざけたレコーディングだったんですけど、それをすごくかっこ良く仕上げてくれました。


――9曲目の「DEEP SWEET EASY」はどうでしょう。淡々としたリズムが特にかっこいい曲ですよね。


BENI:楽曲を手がけていただいたmabanuaさんが好きで、前回のアルバムに続き今回もお願いしました。バラードでもないアップテンポでもない、ゆるい日曜日の昼間から夕方くらいにかけて聴きたいような曲が欲しくて。出来上がるまでとてもスムーズでしたね。気に入ってます。


――Chaki Zuluさんが手がけた「SAYONARA」については。


BENI:これはチャレンジした曲です。90年代を思い出すようなハウスというか、これもまた展開が面白い曲なんですけど。聴いていてドラマがある曲なんですよ。はじめは日本語で歌詞を書くつもりだったんですけど、自然に出てきたのが英語で。初めて挑戦する感じの曲だったので楽しかったです。


――ライナーノーツにラッパーのNASへのリスペクトを込めた曲だと書かれていましたね。元々NASの曲はお好きで聴いていたんですか。


BENI:好きですね。歌詞を書く前に自分の好きなアーティストの曲をランダムで聴いたりするんですけど、たまたまNASの「Life Is What You Make It」が流れてきた時にそのフレーズに引っかかって。その曲にインスパイアされてそういう歌詞にしようと思いました。


――日本語と英語だと入る言葉の量が違うと前もおっしゃってたと思うのですが、今回その辺はどうでしたか。


BENI:そうなんですよね。いっぱい伝えられるし、言葉のフロー的にも気持ちよく波に乗るように歌えるんです。日本語だと一つ一つのシーンを描いていく感じですけど、英語だとフローするから、どうしてもこの曲はそういう滑らかな感じのメロディーでハメたかったので。今回は全体を通して英語を自然に入れたりしています。


■「ジャネットみたいにずっと舞台に立っていたい」


――10周年を終えて次のステップを目指すのだとしたら、恐らくこの作品を1つの拠点にしていくのではないでしょうか。改めて、ミュージシャンとして、シンガーとして、10周年以降の方向性についてどう考えていますか。


BENI:常に次はどう来るか、どう見せてくれるのか、と期待してもらえるようなエンターテインメント性のあるアーティストとしてもっとパワーアップしていきたいです。でもその時にしか歌えない歌ってきっとあると思いますし、その時はきっとまた違った「Undress」な姿を見せられると思います。そういうことも大切にしつつ、時代と共に進化できるアーティストになりたいです。


――『Undress』を携えたツアーも始まっています。


BENI:今回は『Undress』の曲をメインで歌っているんですけど、魅せるライブになってますね。ダンサブルな曲も入ってますし。「PAPA」では、みんなが送ってくれた写真を使ったインタラクティブな瞬間もあったり。みなさんに動画や写真を撮ってもらえる撮影OKの曲も1曲だけあります。


――ステージのパフォーマンスで、今後10年で目指していく目標は。


BENI:今年はいろんなライブを見に行ったんですけど、衝撃だったのはジャネット・ジャクソン。もう50歳近くなのかな。キレッキレだったんですよ。ガンガン踊って歌って。そのライブスタイルが最初から最後まで全く衰えなくて。魅せ方も最高にかっこ良かったので、勇気づけられました。ジャネットみたいにずっと舞台に立っていたいですね。


――最後に、BENIさんが今回のアルバムを1番聴いて欲しい人、伝えたい人はどんな人ですか。


BENI:もちろん男女問わず聴いてもらいですけど、やっぱり女の子が自分のストーリーを重ねながら聴ける曲は多いかなと思いますね。それぐらい自分の気持ちをストレートに「Undress」して歌ったからこそ、1人の女性らしさを出せているというか。だから特にガールズ向けかもしれませんね。


――BENIさんのなかで、自分自身を「Undress」な状態にしていくコツはありますか。


BENI:楽しむことですかね。なんでも遊び心を忘れないこと。この時代、この世の中だと何をしててもプレッシャーがあると思うんですけど。そういうのに負けないでいくには考えすぎず、気軽にいくべきかなと。フィーリングを大事に、まさに今回それを大事にレコーディングしましたし。作り込みすぎず、その時の一瞬一瞬を切り取ったような作品にしたかったので。人生にとってもそういう心がけは大事かなと思います。