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寺嶋由芙が“ゆるキャラとの架け橋”に アイドルとしての「芯」を見せた代官山UNIT公演レポート

2015年12月09日 07:11  リアルサウンド

リアルサウンド

『寺嶋由芙 LIVE TOUR 2015「いーくーよ、ほいっ。」』の様子。

 アイドルとゆるキャラが同じステージに立つことで、代官山UNITが埋まるのだろうか? それが杞憂に過ぎなかったことを証明したのが、2015年12月6日に代官山UNITで開催された『寺嶋由芙 LIVE TOUR 2015「いーくーよ、ほいっ。」』の東京公演だった。

 この日は2部公演で、第2部には、寺嶋由芙とともに「寺嶋由芙 with ゆるっふぃ~ず」名義でシングル『いやはや ふぃ~りんぐ』をリリースしたゆるキャラ10体が全員集合。そしてフロアも満員に。その結果、寺嶋由芙というアイドル、10体のゆるキャラ、熱気に満ちたアイドルオタク、歓声を上げるゆるキャラファンが同じライブハウスにいるという、見たこともないような空間を体験することになった。

 それは言い換えると、寺嶋由芙というアイドルが、アイドルシーン全般に蔓延する“物語性”への依存を断ち切って、自分の趣味趣向をエンターテインメントに昇華した、極めて強度の高いステージを披露したとも言える。2015年2月8日に渋谷WWWで開催されたソロとして初のワンマンライブ『Yufu Terashima 1st Solo Live 「#Yufu Flight」』は、BiS脱退以降の彼女の軌跡の総決算をバンドとともに行ったものだった。そして、今回のセカンド・ワンマンライブは、ゆるキャラとともに楽しさを押し出すことによって、カオスすらもたらすものだった。それこそ「アイドルのライブでこんな光景はもう見ることがないだろう」と感じるようなシーンが何度もあったのだ。


 ライブは、寺嶋由芙の2014年のソロ・デビュー・シングル「#ゆーふらいと」で幕を開けた。でんぱ組.incの夢眠ねむが、すべての後ろ盾を失くした時代の寺嶋由芙の姿を歌詞で描いた楽曲だ。作編曲のrionosは、その後の寺嶋由芙のシングル表題曲の多くを手掛けることになる。ソロ・デビュー後の寺嶋由芙のストーリーの幕開けを象徴する楽曲が「#ゆーふらいと」だ。あの頃<まだまだ ひとりきり / 戦わなきゃなの / 覚悟決めなくちゃ>と歌っていた寺嶋由芙が、今、ソロとして代官山UNITを埋めている。歌声も安定した声量とピッチだ。2本の指でハッシュタグをたどる振り付けの部分では、フロアの客電もつけられて、寺嶋由芙とともにハッシュタグをたどるファンたちを照らし出した。粋な演出である。

 「初恋のシルエット」は、曲調はアイドル歌謡然としているが、GOOD BYE APRILによるギターポップなサウンドだ。「ふへへへへへへへ大作戦」は、2015年のメジャー・デビュー・シングル。大森靖子作詞、rionos作編曲による、80年代の松田聖子とナイアガラ・サウンドへのオマージュに満ちたミディアム・ナンバーだ。MCを挟んで、西浦謙助作詞、ハジメタル作編曲による80年代テイストの「ヒロインになりたい」へ。

 そして、その日最大の熱気を生み出したのではないかと感じたのが、ふぇのたす時代のヤマモトショウが作詞作曲した「contrast」だ。ふだんのライブではあまり聴けない「レア曲」の部類だが、イントロが鳴っただけで寺嶋由芙が「湧きすぎでしょ!」と苦笑するほどの「うりゃおい」コールが沸き起こり、さらに寺嶋由芙が歌い出すとファンも一斉にそのポーズを真似るので、寺嶋由芙も笑いをこらえるのが大変そうだった。


 そもそも「contrast」は、BiS脱退後の寺嶋由芙が初めてソロでオリジナル曲だけのライブを行った、2013年10月22日の渋谷duo MUSIC EXCHANGEでの『アイドル・フィロソフィー Vol.3』で歌われた楽曲のひとつだ。当時の寺嶋由芙の持ち曲は、「サクラノート(現『#ゆーふらいと』)」、「ぜんぜん」、「好きが始まる(現『好きがはじまる』」、そして「nip(現『contrast』)」の4曲のみ。「nip」はそのなかでも“沸きづらい”楽曲だったが、2013年11月30日に新宿MARZで開催された『たぬきナイト』で、対バンであるTAKENOKO▲、ゆるめるモ!、BELLRING少女ハートに負けないために、ファンが強引に盛りあがるスタイルに変化した。その後、何が言いたいのかさっぱりわからない「言いたいことがあるんだよ!」コールも導入されていく。書き出してみると馬鹿馬鹿しいのだが、こうした歴史の蓄積ゆえに盛りあがる楽曲なのだ。

 マドンナの「ライク・ア・ヴァージン」は、PandaBoYの編曲で90年代テイストに。ファンの打つMIXも、通常なら「よっしゃいくぞー!」の部分が「Here we go!」になっており、しかも英語の発音が良くなっている。MCで寺嶋由芙は、「ヒロインになりたい」以降の流れについて、「こういうアイドル現場の熱量も感じてほしくて歌いました」と明かした。

 そして、「大好きなゆるキャラ、アイドル、オタクたちをつなげたいので、ゆるキャラファンさんでも知っている曲を歌おうと思います」とハロー!プロジェクトのカヴァーコーナーへ。メロン記念日の「赤いフリージア」、松浦亜弥の「気がつけば あなた」、藤本美貴の「ロマンティック浮かれモード」が歌われた。最後の「ロマンティック浮かれモード」では、ファンによる土下座、マワリ、ダッシュケチャなどが展開され、ダッシュケチャのためにフロアが縦に割れたときには、ウォール・オブ・デスでも始まるのかと思うような雰囲気だった。

 その後、有明ガタゴロウが登場して、ちょうせい豆乳くんが代官山UNITまで走っていると言うので、応援のためにZARDの「負けないで」を歌うことに。ふっかちゃん、うなりくん、しんじょう君、オカザえもん、ササダンゴン、ペッカリー、みっけ、カパルも登場して、いきなりステージ上の空間が埋まっていく。「負けないで」ではファンがMIXを打っていたが、オカザえもんもMIXを打つ動きをしていたことを私は見逃さなかった。フロア後方からちょうせい豆乳くんが走ってきてステージにゴールインすると、今度は谷村新司と加山雄三の「サライ」を歌うという茶番も展開された。

 寺嶋由芙のライブ中に撮影タイムが用意されたのは珍しいが、それもゆるキャラ文化圏が撮影フリーだからだ。この日は多くのゆるキャラファンが来場していたが、基本的に無銭文化圏であるゆるキャラのファンを呼べたことは、実は驚くべきことでもあった。

 全10体のゆるキャラが揃っての「いやはや ふぃ~りんぐ」では、ゆるキャラの名前が織り込まれた複雑なMIXがファンによって叫ばれていた。「いやはや ふぃ~りんぐ」は、DiVA(AKB48)の「泣ける場所」も手掛けた鶴崎輝一が作編曲した楽曲だ。


 寺嶋由芙とゆるキャラによるユニットのコーナーでは、まずヤマモトショウ作詞作曲の「ゆる恋」が歌われた。身体の可動性が特に高いオカザえもんが、必死に振り付けを真似ようとする姿が健気だ。ジェーン・スー作詞、rionos作編曲によるサード・シングル「猫になりたい!」では、ケチャでファンが前に押し寄せる事態に。アイドルとゆるキャラとヲタ芸が同居するカオスな光景となった。ミナミトモヤ作詞作曲の「好きがはじまる」は、寺嶋由芙現場のアンセムだが、その楽曲もゆるキャラとのコラボレーションで歌い踊られた。「好きがはじまる」も最初期からの楽曲だが、こういう展開は予想もしていなかった。そして、<今度はどこにも行かないから>という歌詞の<行かないから>の部分でファンはいつも大合唱するのだが、その日は遂に代官山UNITの規模で歌われた。

 ジェーン・スー作詞、rionos作編曲のセカンド・シングル「カンパニュラの憂鬱」は、再びゆるキャラ10体とともに歌い踊られ、ステージ上とフロアでサークルモッシュが起きていたほか、沖縄発祥のヲタ芸「らいおん。ブレード」も発動されていた。もう生身の人間とゆるキャラと地域性が錯綜しすぎである。

 MCで「大切なお知らせ」があると寺嶋由芙が言うと、「やめないでー!」とお約束の声が上がった。その「大切なお知らせ」とは、2016年3月にアルバムが発表されるというもの。寺嶋由芙はこれまで『好きがはじまる』『好きがはじまるII』という2枚のライブ会場限定ミニ・アルバムをリリースしており、必然的にフル・アルバムへの期待も高まるというものだ。

 しんじょう君がギター、カパルがベースを抱えて登場したのには意表を突かれたが、さらに「ゆるキャラによるチューニング」という珍しい光景まで見た。兵庫慎司もびっくりである。

 そして本編ラストは、ゆるキャラ10体とともに、ヤマモトショウ作詞作曲の「ぜんぜん」。しんじょう君のギターが前に出たサウンドには、不意に「ぜんぜん(ふぇのたすver.)」を連想した。現在の「ぜんぜん」はrionos編曲だが、ソロ活動当初の寺嶋由芙は「ぜんぜん(ふぇのたすver.)」に近いアレンジで歌っていたのだ。このヴァージョンは、寺嶋由芙とふぇのたすによる「ゆふぃたす」名義のシングル『君が笑えば恋なのです』で聴くことができる。

 そして「ぜんぜん」では、アイドル、ゆるキャラ、生演奏に加えて、ファンがケチャで前に押し寄せる状況に。これもまた見たことのない光景だった。

 アンコールは寺嶋由芙がステージ袖に消えた瞬間から起きた。そのアンコールでは、10体のゆるキャラの名前もコールされていた。

 アンコールはまず、ヤマモトショウ作詞作曲、MOSAIC.WAV編曲で、BPM200を誇る打ち曲「ねらいうち」から。ミナミトモヤ作詞作曲の「好きがこぼれる」では、イントロのギターのフレーズをそのままファンが「ダダッ!ダダッ!ダダ!」と歌っていた。

 アンコールのこの2曲で、寺嶋由芙は再びアイドル現場の熱をゆるキャラファンに伝えようとしているのだな……と考えていると、「好きがこぼれる」の<ほら みて / わたしは ここにいるでしょ!>という歌詞の<ここにいるでしょ!>の部分がファンによって大合唱された。

 2度目のアンコールは、まずスピッツの「楓」。編曲はGOOD BYE APRILだ。それを歌い終わると、寺嶋由芙は「気持ち下がってもらっていいですか?」と満員のフロアの空間を縦に開けさせて、そこにゆるキャラを並べていった。最後の「ぼくらの日曜日」では、ゆるキャラがいるフロアでファンが肩を組んで揺れるなかへ、寺嶋由芙自身も飛び込んでいった。アイドル、ゆるキャラ、両者のファンがフロアにいてギュウギュウになっているのは、この日のライブならではの光景だった。

 アイドルファンの側から見ると、この日はゆるキャラ10体の存在が非常に大きいライブだったが、寺嶋由芙はゆるキャラファンに向けても、終始アイドル現場の魅力を伝えようとしていた。それこそが寺嶋由芙というアイドルの「芯」の部分だろう。BiS脱退後に寺嶋由芙が『ミスiD』のオーディションを受けたとき、彼女が掲げていた将来の夢は「ゆるキャラ界とアイドル界の架け橋的存在になること」だった。具体的にイメージしづらかったその目標を、彼女はライブで具現化してしまったのだ。ちゃんと「アイドル」として。

 今回は、東名阪ツアーとして12月12日に大阪・OSAKA MUSE、13日に名古屋・ell.SIZEでも各2公演があるが、すべての公演内容が異なることが事前にアナウンスされている。ゆるキャラとともに内容は変化しても、そこではブレることなく「アイドル」を貫く寺嶋由芙の姿が見られるはずだ。(宗像明将)