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ジム・キャリーの真骨頂! 『帰ってきたMr.ダマー バカMAX』に見る、コメディアンとしての実力

2015年12月08日 22:41  リアルサウンド

リアルサウンド

(C)2014 DDTo Finance, LLC

 ジム・キャリーを代表する作品のひとつが、1994年に公開された『ジム・キャリーはMr.ダマー』である。低予算での制作にもかかわらず、興行収入は2億5千万ドルという大ヒットを収め、監督であるファレリー兄弟ともども、ジムの名前を一躍有名にしたコメディの名作だ。94年といえば、ほかにも『エース・ベンチュラ』や『マスク』と、ジム・ キャリーの人気を確固たるものにした作品が次々と生まれている。当時の作品は、とにかくおちゃらけた役柄が多く、コメディアンとして貪欲に笑いを追求するジムの姿を見ることができた。『エース・ベンチュラ』で披露した、お尻の割れ目を口に見立てて腹話術をするシーンなどは、その下品さとバカバカしさにおいて、彼のユニークな個性が発揮されたワンシーンといえよう。現在公開中の『帰ってきたMr.ダマー バカMAX』は、そんなジムの初期衝動を感じられる作品だ。


参考:ジム・キャリーがコスプレ姿を披露! 『帰ってきたMr.ダマー バカMAX!』場面写真公開へ


 『Mr.ダマー』シリーズは、ジム・キャリー演じるロイドとジェフ・ダニエルズ 演じるハリーのコンビが、周囲の人々に迷惑を振りまきながら、バカ丸出しの珍道中を繰り広げていくというロードムービーである。知恵もなければ、常識もないふたりのバカっぷりは時に死人を出すほどで、その過剰さが不謹慎ながらとにかく笑えるのだ。


 本作の冒頭で、ハリーが腎臓に重い病を患っていることと、実は子供がいたことが発覚する。そしてふたりは、ハリーの腎臓移植のドナーになってもらおうと、娘であるペニー(レイチェル・メル ヴィン)を探しに行くのである。前作の旅の目的は、ロイドの一目惚れ相手に会いに行くことだったが、今回はハリーと娘の再会を描いていくことになる。こう書くと“家族の再会”をテーマにした心温まるハートフルコメディのようにも感じるが、実際のところは娘の腎臓を狙っているのだから、まったく非常識な話だ。


 とはいえ、前作の20年後を描いた本作では、ロイドもハリーもいい歳のおっさんである。実年齢53歳のジムの動きには全盛期ほどのキレはないはずだし、60歳のジェフもバカを演じるには年を取り過ぎているように思うかもしれない。しかし、素晴らしいことに彼らは年齢を重ねてもなにひとつ成長していない。むしろ加齢さえもネタのひとつにしていて、観るものに同情の余地さえ感じさせないのである。


 『帰ってきたMr.ダマー バカMAX』は、ほかのコメディ映画と比較しても、群を抜いてバカをやっている作品といえる。そのバカへの情熱は、原題の『Dumb and Dumber To』の“To”という表記間違い(本来は“Two”のはず)にも感じられる。『メリーに首ったけ』『愛しのローズマリー』 を生み出したコメディの名手・ファレリー兄弟と、前作でも脚本を手掛けたベネット・イェーリンのほかに、『ふたりの男とひとりの女』『空飛ぶペンギン』でジムと映画を制作したスタッフたちが集結し、くだらないネタを詰め込んだ挙句、こうした“バカの百貨店”のような作品に仕上がったのだろう。冒頭からラストまで、ストイックなほどに下ネタのオンパレードであり、普通に考えたらアウトなブラックユーモアが連発されているのが、往年のファンには嬉しい限りだ。


 ジム・キャリーはアドリブの演技が多いことでも有名だ。97年に公開された『ライアー・ライアー』では、ジムのアドリブがあまりにも長すぎたため、フィルム代だけで制作費が高くついたという逸話もあるらしい。本作でも、首吊りのパントマイムやユーモラスな食事シーン、自動車のフロントグリルをベロベロ舐める演技などは、彼のアドリブが活かされたシーンなのだろう。普通の役者なら想像をしないであろう突拍子もない行動や“ゴム顔”と称される自由自在な表情には、語らずとも身振り手振りだけで笑いを誘うパワーがあり、頭のネジが吹っ飛んだような怪演ぶりは、ときに笑いを通り越して狂気的ですらある。まさに、スラップスティック・コメディの名手といえよう。


 もちろん、彼の魅力は決してコミカルな部分だけではない。『トゥルーマンショー』では、全世界から騙されていた男が真実を知るまでの喜怒哀楽を丁寧に演じていたし、『ふたりの男とひとりの女』や『マスク』では、コメディタッチでありながらも静と動のような2面性のある役どころをきっちりと演じ分け、主人公の内面の葛藤を繊細に表現していた。だが、本作のようなコメディ全開の振り切れた演技こそがジムの真骨頂であり、ファンにとっては待望だったはずだ。かつてと変わらぬバカっぷりを再び見せてくれたジム・キャリーに、最大限の拍手を送りたい。(文=泉夏音)