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『スター・ウォーズ』最大のライバル!? 『妖怪ウォッチ』新作の仕上がりをチェックだニャン!

2015年12月06日 16:31  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)LEVEL-5/映画『妖怪ウォッチ』プロジェクト 2015

 昨年12月、公開初週の週末に16億2889万3000円というとんでもない数字を叩き出し(自分も映画館で息子と一緒に並びました)、興収77.8億(2015年12月時点)、2015年の年間興収ランキングで3位となった映画『妖怪ウォッチ』第1作目。1年前には、NHKの紅白歌合戦をはじめ年末の歌番組などでも大活躍して日本中で現象を巻き起こした、2010年代に生まれた唯一の「国民的キラーコンテンツ」が、今年の年末も映画館にやってくる。


参考:国内アニメ映画の勢力図が変わる!? 『ここさけ』興収10億突破が日本映画界にもたらすもの


 2作目の映画となる本作の存在は、昨年の『映画 妖怪ウォッチ 誕生の秘密だニャン!』の最後で既に告知されていたものだ。実は、そこでは今年同時期公開の某映画のパロディ作品になることが仄めかされていたのだが、さすがにそれは挑発的すぎると判断されたのか、あるいは最初からただの妖怪ジョークだったのか、今作『映画 妖怪ウォッチ エンマ大王と5つの物語だニャン!』は物語の大風呂敷を広げてみせた1作目の映画とはかなり異なる仕上がりになっている。


 作品の形式は、はっきりと某オムニバスドラマ風。例の狂言回し的な役割を担うのはサングラスをかけたウィスパーだ。TVアニメ『妖怪ウォッチ』の特異な点は、もともとがオムニバス形式で、30分の放送時間の中で異なる登場人物の物語が複数詰め込まれてところにあるが、今回の映画版はそれをそのまま1時間40分に拡大したような作りとなっている。これは初の長編映画であることに気負ってか、スケールの大きな物語を語ろうとして途中から息切れしているようにも思えた前作との顕著な違いであり、結論から言うと、そのことが今作をとても好ましいものにしている。


 タイトルにも明記されているように「5つの物語」が語られている本作。順番に、ケータ、ジバニャンと生前の飼い主エミちゃん、コマさんとコマじろう、今年の中盤からTVシリーズに登場した新キャラクターのイナホとUSAピョンを主人公とする4つの心温まる短編作品の後に、まるで『アベンジャーズ』のように主要キャラクターが勢揃いして戦いを繰り広げる中編作品が最後を締める。その構成は非常に洗練されていて、「そっか、『妖怪ウォッチ』の場合、映画だからといって普段と違うことをしなくてもいいんだ」ということに気づかされる。


 任天堂DSのゲームを中心とするメディアミックス、妖怪メダルをはじめとする秀逸なマーチャンダイズ戦略、個々のキャラクターの斬新さ、親世代を巻き込む元ネタの宝庫、オープニング曲やエンディング曲の話題性。『妖怪ウォッチ』ブームの要因として、これまで多くのことが語られてきたが、「物語」として最も大胆だったのは、子供向けのTVアニメに「異なる時間軸と場所」を平行して描く群像劇の手法を導入したことにあった。普段からTVシリーズに接していない人の中は、「ケータとジバニャン」をまるで「のび太とドラえもん」のような物語の中心にある強固な関係性と捉えている人もいるかもしれないが、実はそうした旧来の子供向けマンガやアニメとはまったく異なるモダンな関係性と物語構造を持った作品なのだ。そう考えると、『ドラえもん』映画版のような拡大主義的発想で作られた前作ではなく、今作『映画 妖怪ウォッチ エンマ大王と5つの物語だニャン!』の手法こそが『妖怪ウォッチ』にとっての王道であることがわかる。


 さらに、今回の『映画 妖怪ウォッチ エンマ大王と5つの物語だニャン!』では映画版ならではの新しい趣向が凝らされている。印象的なのは、最初の4つの短編のうち3つまでもが「母と子供」を描いた、ちょっとウルっとさせられる物語であること。前作で「子供の付き添いで映画館に来る親」(自分のことだ)が観客に多かったことを踏まえてのことだろうが、これは大正解なのではないか。ママ友同士が「このあいだ新しい『妖怪ウォッチ』の映画を子供と観に行ったんだけど、超よかった!」と会話を交わしているところが今から目に浮かぶ。一方で、『妖怪ウォッチ』の世界を特徴づけていたもう一つのモダン性(厳密に言うとポストモダン性だが)であるところの、「やりすぎ」感に満ちたパロディの乱発は今回かなり控えめ。これも、映画という「作品として残る」メディアの特性に合わせた軌道修正だろう。


 総じて、ブームの真っ只中で慌てて作った感が端々から感じられた前作と比べて、今作は作品としてしっかり地に足のついた仕上がりとなっている。あっという間に日本中の子供たちに伝染した、今年の春あたりまでの熱狂的な盛り上がりは去ったものの、このまま年末恒例の人気作品として定着していく道筋が今作によってはっきりと見えてきた。試写で一回観たにもかかわず、今回も子供を連れてまた映画館に行くことになる親の立場からのワガママを言うなら、いつの日か、今作で顕在化した群像劇としての特性を活かして、例えばロバート・アルトマン作品のような、細部の確認のために何度も観たくなる群像劇特有の物語の仕掛けやカタルシスを味わわせてくれたら言うことはないのだが。ゲームやアニメに限らず、日本のあらゆるコンテンツ・ビジネスの最先端にして最高峰の頭脳を持つレベル・ファイブがその気になれば、それも可能だと思うのだ。(宇野維正)