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2015年、フェスシーンはどう変わった? ヘッドライナーと動員数から見えた“今年の主役”

2015年12月05日 17:01  リアルサウンド

リアルサウンド

2015年、ロックフェスにおけるヘッドライナー集計表

 ロックフェスの現場から音楽シーンの潮流を読み解いていく「フェス文化論」連載。年末の『COUNTDOWN JAPAN 15/16』のラインナップも発表されたということで、今回の記事は2015年を振り返っていきたい。フェスを巡る状況はどう変わったのか? そしてフェスシーンの主役は誰だったのか? それを数字から読み解いていこうと思う。


・主要フェスの動員数はのきなみ拡大


 というわけで、まずは全体の状況から。2015年に行われた主要なフェスの動員は軒並み増えている。


 主催者発表の数字によると、『ROCK IN JAPAN FESTIVAL2015』は25万人で昨年より1万人増、『SUMMER SONIC 2015』は18万2千人で1万7千人増、『FUJI ROCK FESTIVAL '15』は11.5万人で1万3千人増。『RISING SUN ROCK FESTIVAL 2015 in EZO』は6.5万人で5千人増、『VIVA LA ROCK』は6.1万人で7千人増。昨年に4日間開催となり国内最大規模となった『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』は今年もチケットがソールドアウト。『FUJI ROCK FESTIVAL』や『SUMMER SONIC』なども今年は動員を伸ばしている。


 ライブ市場の拡大は音楽業界全体の大きな潮流だ。コンサート全体の動員数や収益は10年以上にわたり右肩上がりの推移を続けている。ただ、ここ数年は、夏の野外フェスや年末のカウントダウンフェスだけでなく、春や秋も含め一年中にわたって開催されるようになった。ファンのみならずアーティストや主催者側からも「飽和状態」という声が聞かれるようになった。


 しかし動員数を見る限りでは、2015年もやはり上昇トレンドは変わっていない。2年目を迎えた『VIVA LA ROCK』や、同じく2年目となるPIZZA OF DEATH主催の『SATANIC CARNIVAL』など、新たなロックフェスも定着してきている。レーベルやアーティスト主導型のフェスも増え、タワーレコードがアーティストと共に主催する『Bowline』のようなフェスも生まれている。


 また、2015年の動きとして特徴的なのは。EDMフェスの公演数と動員が飛躍的に伸びたことだ。昨年に初開催された国内最大規模の『ULTRA JAPAN』は日数を拡大し4万2千人から9万人へと動員数が倍増。ゴールデンウィーク開催の『Electric Zoo Beach Tokyo』など初開催のフェスも増えた。これらの中には非日常的な空間で味わう一体感を魅力として打ち出しているものも多い。フロア全てを白で装飾し客も全身白のドレスコードが課せられた『Sensation』が象徴的だ。2016年には“世界三大EDMフェス”とされるEDC(Electric Daisy Carnival)の日本初上陸も予定されている。ド派手な会場の装飾や参加者のカラフルなコスプレで知られる同フェスだけに、こちらも注目を集めそうだ。


 飽和状態と言われながらも、市場の拡大と多様化を迎えてきたのが、2015年のフェスを巡る状況だ。来年以降もこの流れは続いていくだろう。


・2015年のフェスシーンの主役は[Alexandros]


 では、そんな2015年のフェスシーンの主役は誰だったのか?


 それを調べるため、2015年に開催されたフェスのヘッドライナーをできる限り調べてみた。『FUJI ROCK FESTIVAL』や『ROCK IN JAPAN FESTIVAL2015』など数万人を動員するメガフェスから、地方の小さなフェスまで。収集がつかなくなるので小さなライブハウス規模のイベントは除外したが、その数はだいたい150ほどとなった。そこでトリを飾ったアーティストを集計して、多かった順に並べると以下のようになる。


(※COUNTDOWN JAPANはメインステージの年越しアクトを、オールナイトのフェスに関してはメインアクトが明示されていない場合は最後の出演者をヘッドライナーとした。京都大作戦など複数日開催のフェスで同アーティストがトリを飾る場合は一つにカウント)


 結果は一目瞭然。2015年のフェスシーンの主役は[Alexandros]だった。そのヘッドライナー出演数の合計は10にのぼる。国内最大規模の『ROCK IN JAPAN FES.』でもトリをつとめ、各地の野外フェスにも幅広く出演を果たしてきた。去年と比べても大躍進と言えるだろう。


 [Alexandros]にとっても、今年は勝負の一年だった。昨年に[Champagne]から改名し、ユニバーサルミュージックとグローバル契約を結んだ彼ら。3月リリースのシングル『ワタリドリ』が起爆剤となり、6月にリリースしたアルバム『ALXD』はオリコンチャート3位を記録。そして、12月2日には新曲『Girl A』もリリースされた。ブレイクビーツとデジタルシーケンスを意欲的に導入したサウンドとスケールの大きなメロディが印象的なこの曲は、ライブの場でも新たなアンセムとなるはずだ。


 ワンマンライブの動員数も伸びている。アルバム発売日に代々木公園野外ステージで行ったフリーライブにも1万人以上を動員し話題を呼んだ彼らだが、7月には『[Alexandros]Premium V.I.P. Party』として日本武道館公演を、そして10月から12月にかけては『全国ツアー[Alexandros] TOUR 2015 “ご馳走にありつかせて頂きます”』を開催。12月19日のツアーファイナルでは自身初の幕張メッセ単独公演も決定した。


 さらに、彼らは海外にも活動の幅を広げている。今年は台湾の『MEGAPORT FES』や韓国の『ANSAN VALLEY ROCK FESTIVAL』、イギリスとインドネシアでの『JAPAN NIGHT』にも出演。12月には香港と台湾でのワンマンも決定した。バンドが目指すのは世界一、『Glastonbury Festival』のヘッドライナーだという。はるかな目標を見据え、まずは国内のフェスを足場に天下をとったのが[Alexandros]にとっての2015年だったと言うことができるだろう。


 また、もう一組の主役はthe telephonesだった。彼らは昨年12月に無期限活動休止を発表。その時にメンバーは「10周年イヤーの2015年を最高にテレフォンズらしいハッピーな一年にして駆け抜ける」とコメントしていたが、今年のヘッドライナー出演数は7。まさしく有言実行となった形だ。


 5月にはキャリア初の武道館単独公演が実現。ベスト盤『BEST HIT the telephones』とラストアルバム『Bye Bye Hello』を引っさげて各地をまわり、11月3日に地元・さいたまスーパーアリーナで開催した『the telephones Presents “Last Party ~We are DISCO!!!~”』で活動を締めくくった。ここ数年のフェスシーンの一大トレンドとなった“四つ打ちダンスロック”の立役者の一人となった彼らがこうして有終の美を飾ったことは、来年以降のシーンの動きにも影響を与えるのではないだろうか。


 10-FEETも躍進だ。『ROCK IN JAPAN FES』では初のヘッドライナーを、そして『COUNTDOWN JAPAN』ではメインステージの年越しアクトという大役を担わされている。自身が主宰する『京都大作戦』を筆頭にヘッドライナーをつとめたフェスの数は7つだが、それ以外でも様々な場所でオーディエンスを沸かせている。


 ちなみに、去年から今年にかけての10-FEETを巡る状況が特徴的なのは、新曲のリリースではなく、バンドのカリスマ性を由来に人気を拡大し続けていること。オリジナルアルバムのリリースは2012年の『thread』が最後だ。2014年にはコラボ盤『6-feet 2』とカバー盤『Re:6-feat 2』が発表されているが、考えると、かれこれ3年以上新譜が発表されていないことになる。そういうバンドが今もフェスの場で躍進を続けているのは、かなり異例のことと言っていい。


 『京都大作戦』ではまだ完成の途上だという未発表の新曲も披露していた。来年は久々となるニューアルバムのリリースにも期待したい。


 そして以下は、ASIAN KUNG-FU GENERATION、BRAHMANなどが続く。去年は6つのフェスのヘッドライナーをつとめフェスシーンの主役の座にあったサカナクションが草刈愛美(B)の妊娠・出産に伴ってライブ活動を休止していたことも、今年の趨勢には大きく影響しているはずだ。また、このランキングの上位に自らフェスを主宰するベテランのロックバンドが多くなるのは納得できるところだが、どちらかと言えばJ-POP寄りのアーティストであるスキマスイッチとナオト・インティライミがこの並びに入ってくるのも興味深い。


 では、最後に現時点の状況から来年の展望を予測していこう。『COUNTDOWN JAPAN 15/16』でヘッドライナーおよびカウントダウンをつとめるのは、ASIAN KUNG-FU GENERATION、[Alexandros]、サカナクション、10-FEETの4組。盤石の並びである。が、下の世代も着々と力をつけつつある。


 おそらく来年以降は、シーンの先頭を走ってきたKANA-BOONやキュウソネコカミ、KEYTALKなど、2010年代デビュー組のロックバンドがいよいよフェスの主役を張る姿が見られるようになっていくのではないだろうか。また、WANIMAや04 Limited Sazabysなど今年にブレイクを果たした新鋭がその支持をさらに広めていくことになる予感もする。


 期待したい。(柴 那典)