トップへ

ジャスティン・ビーバーの大変身アルバムにハマった人が次に聴くべき4枚

2015年12月05日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

ジャスティン・ビーバー『Purpose』

 11月は久々に海外のヒットチャートが派手な動きを見せた1カ月だった。ジャスティン・ビーバーとワン・ダイレクションという現代の男性ポップスターの両巨頭が、それぞれ11月13日に『パーパス』と『メイド・イン・ザ・A.M.』という新作アルバムを世界同時リリース。チャート上の熾烈な争いが話題をさらい、結果として、全米No.1はジャスティン・ビーバー、全英No.1はワン・ダイレクションと勝敗を分け合うことになった。


 それぞれの新譜は今年の初週売上の記録を塗り替える特大のヒットになったわけだが、その翌週の11月20日にリリースされたアデル『25』が、それをさらに塗り替える巨大なセールスを実現。アメリカでの初週売り上げは約338万枚、イギリスでは約80万枚となり、当然両国のNo.1を記録。それどころか、イン・シンク『ノー・ストリングス』とオアシス『ビィ・ヒア・ナウ』が持っていたそれぞれの国の記録を打ち破り、10数年ぶりに史上最多の初週セールス記録を更新するという快挙を成し遂げている。


 アニータ・エルバースの著書『ブロックバスター戦略―ハーバードで教えているメガヒットの法則』には、インターネットが普及しきった現在のエンターテインメント業界にはロングテールの法則は成り立たず、むしろ世界中を席巻するブロックバスター的な圧倒的メガヒットが勝者総取りする時代に突入している、とある。今回のチャートアクションは、はからずも彼の主張を裏付けるような結果になったわけだ。


 というわけで、シーンに大きな動きがあった11月だが、この中で取り上げたいのはジャスティン・ビーバー。というのも、『パーパス』というこのニューアルバムが、彼のイメージを鮮やかに塗り替える快作なのである。


・ジャスティン・ビーバー『パーパス』


 ジャスティン・ビーバーのことを10代のティーンアイドルと思っている人は多いだろう。度重なるゴシップの印象の強い人もいるだろうし、お騒がせのセレブスターという枠組みで彼を捉えている人も多いはず。僕もそうだった。しかし、この『パーパス』というアルバムが素晴らしい。彼自身の人生を俯瞰で歌ったり、過去の失敗を振り返ったり、内省的でセンチメンタルな楽曲が大きな魅力となっているのだ。特に印象的なのが「I'll Show You」。


「僕の人生は映画なんだ みんなその映画を観てる」「みんなが完璧を求めている 傷ついていることも知らないくせに」と歌うこの曲は、まさに彼にしか歌えない体験を綴ったもの。大人になり、ティーンアイドルからアーティストへと変身を遂げつつある今のジャスティン・ビーバーを象徴するような一曲だ。


この曲のプロデュースを手掛けたのがEDM界のスーパースター、スクリレックス。同じく収録曲「What Do You Mean?」も彼がプロデュースを手掛けている。


 ジャスティン・ビーバーの変身の背後にはスクリレックスの存在があったわけだ。


・スクリレックス・アンド・ディプロ『スクリレックス・アンド・ディプロ・プレゼント・ジャック U』


 ジャスティン・ビーバーの新作につながるの最初のきっかけがこれだった。スクリレックスと、ビヨンセやアッシャーも手掛けてきた大物プロデューサー/DJのディプロが結成したユニットJack Üによるアルバム『スクリレックス・アンド・ディプロ・プレゼント・ジャック U』。そこにはジャスティン・ビーバーをゲストに迎えた「Where Are U Now(feat. Justin Bieber)」が収録されている。このコラボが音楽メディアやファンの絶賛を浴びたことが、今回の結果につながる布石となっている。


 そして、シーンの顔役同士が本気で組んだプロジェクトだけあって、このアルバム自体がめちゃめちゃ素晴らしい。アルーナジョージからミッシー・エリオットまで世代を超えたゲストを招き、刺激的なトラックと豪華な歌声を融合させている。トラップやベース・ミュージックの次の可能性を見せてくれるような一枚。そのゲスト陣にジャスティン・ビーバーが顔を並べたことで、彼も「スクリレックス&ディプロ人脈」という文脈から語れる存在になった、ということなのだ。


・メジャー・レイザー『ピース・イズ・ザ・ミッション』


 メインストリームからアンダーグラウンドまでシーンを自在に行き交い、さまざまなプロジェクトを同時に進める多才なディプロだが、今年はメジャー・レイザーの大ヒットも記憶に新しい。


 ディプロが人気DJのスウィッチと2009年に立ち上げ、現在はウォルシー・ファイア(MC/セレクター)、ジリオネア(DJ/プロデューサー)との3人組として活動しているメジャー・レイザー。最先端のダンスホールレゲエをメインストリームに展開する音楽性で人気を広げ、6月にリリースされた3rdアルバム『ピース・イズ・ザ・ミッション』では、リード曲「リーン・オン(feat.ムー&DJスネーク)」が世界的にヒット。今年のダンス・ミュージック・シーンを象徴する一曲になった。


 過去にはフジロックに出演したこともある彼だが、12月には久々の単独来日公演も決定している。こちらも期待したい。


・グライムス『アート・エンジェルズ』


 そして必聴なのがグライムスのニューアルバム。カナダのバンクーバーを拠点に活動する女性ソロアーティストで、本名はクレア・バウチャー。デビュー当初からそのエッジィな音楽性が注目を集めていたが、この11月に名門レーベル「4AD」に移籍し3年ぶりとなる4th『アート・エンジェルズ』をリリースしたばかり(日本盤CDは12月11日 にリリース予定)。


 新作は彼女がもともと持っていた先鋭的で実験的なセンスとポップ性が絶妙に融合した一枚。たびたび彼女自身がルーツにあげているナイン・インチ・ネイルズに通じるようなインダストリアル・サウンドに、極太のベースが絡みあう。かと思えば、テイラー・スウィフトを彷彿とさせる「Flesh without Blood」のような曲もある。


 デビュー当初にスクリレックスのカナダツアーのオープニングに抜擢されたり、前作『Visions』リリース後もディプロ、スクリレックスと共にツアーを巡ったりと、彼女もやはり「ディプロ&スクリレックス人脈」のアーティスト。そしてこれも2015年を象徴する一枚と言っていいだろう。


・MØ「Kamikaze」


 見逃せない新鋭がMØ(ムー)。先ほど紹介したメジャー・レイザーのヒット曲 「リーン・オン」にフィーチャリング参加していたデンマーク出身の女性シンガーだ。


 本名をKaren Marie Ørstedという彼女は現在27歳。昨年にデビュー・アルバム『ノー・ミソロジーズ・トゥ・フォロー』をリリースしたばかりだが、2013年にはアヴィーチーの「ディア・ボーイ」でフィーチャリング参加していたりと、実は数々のヒットナンバーの歌声を担ってきたキャリアの持ち主だ。新曲「Kamikaze」はやはりディプロがプロデュース。不良仲間と街を荒らす「マッドマックス」風のミュージックビデオも含めて、徐々に反響を広めつつある。


 パリでの同時多発テロ事件もあって「kamikaze」という言葉がヨーロッパでも注目を集めるようになったのは不幸な出来事だが、おそらくこの曲は来年リリース予定の彼女のセカンド・アルバムに収録されるはず。どんなステートメントが発せられるかも注目したい。


 というわけで、今回はジャスティン・ビーバーの新作からスクリレックスとディプロというハブを経由してつながる5枚を紹介した。結果として、今年のダンス・ミュージックやエレクトロ・ポップの動きを象徴するようなセレクトになったのではないだろうか。(柴 那典)