心の病で長期休業や退職をする人が増えていることから、50人以上を雇用する企業の「ストレスチェック」が12月1日から義務付けられました。12月1日放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)は、すでに導入済みの企業を取材しました。
調剤薬局チェーンを運営するクオール(東京・港区)では、5年前から3500人の全社員にストレスチェックを行っています。狭い空間で働く薬剤師は、人間関係や接客の苦労など仕事のストレスが大きいとか。保健師の梶本さんは、チェックの意義をこう説明します。
「従業員のストレス度合を測って、分析してフォローして、ストレスの改善やこれからの働きやすい環境に変えていこうというものです」
クオールは「コストはかかっても、人を大切にしていこうと」
同社の社員はパソコンの画面上で「仕事で高度なことを要求された」「複数の仕事を担当することがあった」など101の問いに答えます。「全くなかった」から「とてもよくあった」までの4択から選び、結果は「いきいき」「へとへと」など4つの状態で評価されます。
ストレス度合いが上から10%に当たる人は、希望すれば専門医に相談できます。結果を見ることができるのは保健師か産業医に限られており、個人情報が外に漏れないように注意しているので、上司などにこの結果を見られることはないそうです。
ストレスチェックについて「会社や上司に知られるから正直に答えたくない」と誤解する人もいるようですが、法律でも本人の承諾がない限り、医師や保健師は「結果を事業所側に通知してはならない」と決まっています。人事評価に不利益にならないような仕組みになっているわけです。
ストレスが高いと診断された人は、希望により医師と面談でき、会社側は面談の結果に応じて、残業を減らしたり部署を変えたりという対策を取らなくてはなりません。導入コストは、社員1人当たり2500円。全社では約800万円にものぼりますが、梶本さんは人材を大切にする方針をこう話します。
「コストはかかっても、人を大切にしていこうと。(社員を)サポートしてなるべく気持ちよい環境でストレスなく働いてもらいたいです」
以前はシーンとした中にタイピング音が響いていた
一方、今回の義務化をビジネスチャンスと見て、メンタルヘルスケア・ビジネスを新たに展開する企業が増えています。音楽配信大手のUSEN(東京・港区)は店舗や施設のBGMとして知られていますが、企業向けに「癒しとなる音楽」の配信サービスを始めました。
費用は月額5000円から(初期費用は3万円から)で、医師や音楽家などと共同で、職場でも癒しを感じられる音楽を独自に選曲しています。
導入したタカラレーベン(東京・新宿区)では、業務時間中のオフィスに落ち着いた音色のピアノ演奏が流れていました。社員は導入すると聞いたときは驚いたそうですが、いまでは好評のようです。
「以前はシーンとした中にタイピング音が響いて緊張感が漂う感じだった。今は雰囲気が明るくなった」「音があることで、周りの人と話しやすくなった」
パソコンに向かう仕事が増える中、沈黙が多くなっていたオフィスの緊張感を和らげる効果があったといいます。このサービスへは問い合わせが殺到しているそうで、関心の高さとメンタルヘルス市場への期待感がうかがえました。
「ストレス度合の客観視」は働き方を考える上で大切
「この10月末までに約6000件の問い合わせがあった」と話すUSENの田村公正社長は、今後の展望をこう明かします。
「おそらく数百億円規模のメンタルヘルス市場だと思っていますので、積極的に参入し、各企業のお役に立てる商品をしっかり提供していきたいです」
健康診断が身体の検診なら、こちらは心の検診というわけですが、どこまで効果が期待できるでしょうか。自身のストレス度合を客観的に確認することは、働き方を考える上で大切。うまく浸透し、企業が職場環境を良くするきっかけになって欲しいと思います。(文:篠原みつき)
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