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スガ シカオ、来るべき新作『THE LAST』は尖った一枚に? 柴那典が収録予定曲から方向性を考察

2015年12月03日 12:41  リアルサウンド

リアルサウンド

スガ シカオ

 1月20日にリリースされるスガ シカオの6年ぶりのニューアルバム『THE LAST』、その詳細が発表された。


 先日に掲載された記事でも書いた通り(http://realsound.jp/2015/11/post-5125.html)、新作は、かねてから「50歳までに自身の集大成となるようなアルバムを完成させたい」と語ってきた彼が、その言葉を実現すべく制作を進めてきた一枚だ。12月25日には「真夜中の虹」が先行で配信リリースされることも決定している。


 今回は、いち早く制作が大詰めを迎えているアルバムの収録曲を聴かせてもらった。というわけで、前回はスガ本人がメルマガで配信してきた「アルバム制作ノート」とNHK総合『プロフェッショナル 仕事の流儀 放送10周年スペシャル スガ シカオ』の内容からアルバムを予測していくような記事だったが、今回は共にアルバムの核となる曲である「ふるえる手」「真夜中の虹」について、そしてアルバムの全体像について考察していきたい。


 「ふるえる手」は、アルバムのオープニングを飾るナンバー。曲はアコースティック・ギターを弾き語るシンプルな歌声から始まる。


 〈いつもふるえていた アル中の父さんの手 ぼくが決意をした日 “やれるだけやってみろ“って その手が背中を押した ”何度だってやり直せばいい“〉


 このフレーズがまず突き刺さる。亡き父親のこと、そしてデビュー前のことを綴っていく歌を、壮大なストリングスが包む。このあたりのドラマティックなアレンジには小林武史のプロデュースの「らしさ」も感じる。”何度だってやり直せばいい“というフレーズがラストの「アストライド」と対応し、感動的な余韻を残す一曲だ。


 そして「真夜中の虹」。『プロフェッショナル 仕事の流儀』で制作の模様がドキュメントされた一曲だ。番組では、闘病中の友人に向けての思いを、一行一行歌いながら歌詞を書いていく様が放映されていた。が、そこで聴くことのできたデモと完成したトラックは全く別物。緊迫感あるピアノとドラムの上でヒップホップ的なフロウを持つ歌声がメロウに響き、そこにエレクトロのフレーズが差し込まれる。今まで聴いたことのない類のサウンドになっている。


 アルバム全体の聴き応えも、かなりユニークなもの。J-POPの常識とも、ファンクの王道とも違う、スガ シカオ独自のスタイルと言っていい。一聴して耳に馴染むポップさよりも、音と言葉が持つ強いフックがアルバムの吸引力になっている。「あなたひとりだけ 幸せになることは 許されないのよ」の、ねっとりとした低音。「青春のホルマリン漬け」の、絡みつくようなグルーヴ。そこかしこに毒やエグみが仕込まれている。


 YouTubeに公開された予告編動画にて、彼は「スガ シカオの一番とんがってる部分だけで勝負しよう」「歌詞も曲もヤバいのが多い」と、アルバムについて語っていた。


 実際聴かせてもらった感触は、確かにその通りだった。親しみやすさとか、わかりやすさとか、共感とか、そういうことじゃない。そういうJ-POP的な感覚はかなり削ぎ落とされている。「え? こんなこと歌っていいの?」「え? こんな風に鳴らしちゃっていいの?」みたいな背徳感。それがゾクゾクするような魅力になっている。


 12月8日からはニューアルバムの「生ライブ試聴会」を含む東京、大阪、福岡のライブツアー「THE LAST」がスタートする。チケットを入手したファンがいち早く爆音で新作の全貌を体感するという、こちらも常識はずれの試みである。


 ニューアルバム『THE LAST』、かなり尖った一枚に仕上がりそうだ。(文=柴 那典)