トップへ

広瀬アリス、なぜ『釣りバカ日誌』ヒロインに? 好調ドラマ版に見る、ツンデレ演技の色気

2015年12月03日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『釣りバカ日誌~新入社員浜崎伝助』公式サイトより

 今期の秋ドラマの中でダークホース的存在だった『釣りバカ日誌~新入社員浜崎伝助』。西田敏行と三国連太郎の名コンビで長年愛された国民的映画のテレビ版で、キャストが一新されるともなれば、期待と不安を共に抱いた釣りバカファンも多かっただろう。視聴者全員に厳しい目でジャッジされることは間違いなく、かなりのプレッシャーの中での放送となったが、これが期待以上の出来でおもしろく、ネット上での評判も視聴率も上々。『下町ロケット』に並ぶ秋ドラマの注目作となっている。


参考:ドラマ版『釣りバカ日誌』、なぜ若き日のハマちゃんを描く? テレ東・金曜8時枠の特殊性


 人情劇が得意の松竹チームがしっかりとドラマを作り、リメイクものには付きもののキャスティングミス批判は、映画でハマちゃん役だった西田敏行をスーさん役にスライドさせて登場させたことで、うまく回避している。西田のおもしろ熱演とハマちゃん役の濱田学の愛嬌ある演技で、新たなる釣りバカワールドが世間に認められたと言っても過言ではないだろう。


 ただ、重要人物であるみち子さんの描かれ方は、映画と大きく異なっている。映画ではハマちゃんの愛すべき奥さんで、みち子さんもハマちゃんのことは大好き。聖母のごとく広い心で何でも受け止め、しかもちょっとエロい理想の妻なのだが、ドラマでのみち子さんはまだ結婚前だ。しかも、みち子さんが元カレとの別れ話をしている最中に、ハマちゃんがそれを邪魔するという出会い方で、みち子さんにとってハマちゃんは、いわばムカつく存在からのスタートとなる。あの女神でラブラブだったみち子さんを、冷めた感じの真逆なキャラクターに演出するのは大いなる賭けで、これは制作陣による釣りバカファンに対する挑戦とも受け止められよう。


 映画のみち子さん役は途中から浅田美代子が演じていたが、理解力と包容力があり、そしてエロスを感じることができる石田えりこそが、真のみち子さんであると捉えている釣りバカファンは決して少なくない。“合体”も凄い事になりそうなことが容易に想像できるそのキャラクターの印象はとても強く、彼らはいまなお、石田えりの亡霊に取り憑かれているのだ。


 今回、そんなみち子さんを演じているのは広瀬アリス。1994年生まれの静岡県出身。2009年のミス・セブンティーンでグランプリを受賞し一躍有名になった彼女は、妹の広瀬すずとともに、いまや女優にモデルにと八面六臂の大活躍をしている。たまに姉妹で雑誌の表紙やCMで共演していると、パッと見は広瀬すずのフレッシュさに目を奪われるが、広瀬アリスからは包容力のある“いいお姉さんオーラ”が滲み出ていて、気づけば彼女にも心を攫われてしまうのである。


 一方、農業高校を舞台とした青春映画『銀の匙 Silver Spoon』では、明るく気さくな農業高校生のヒロインを演じ、ジワジワとくる親しみやすい可愛さを発揮している。物語の序盤、主人公の男子を部活勧誘する時に、無意識で胸の谷間を強調してしまう演出がある。純粋だけどさりげなく男子の心を掴むその姿に、主人公と同様に観客も目が離せなくなり、映画が終わる頃にはもう別れるのが切なくなるぐらい魅力的に映るのだ。単純に可愛いだけではなく、最近では数少ない、若くして母性的な美しさを持っている女優だと言えるだろう(例えて言うなら、昔のジェニファー・コネリーのような)。だからこそ、みち子さん役は絶妙なキャスティングといえるし、石田えりの亡霊に取り憑かれていたファンたちも「これで成仏できるのではないのか」と期待を寄せたはずだ。


 いざ放送が始まってみると、想定外のツンツンな態度に、「むむ?」「釣りバカファンは怒ってないか?」「テレ東金曜8時の年齢層に受けるのか?」と心配だったが、話しが進むにつれ、ストーリーの面白さと広瀬アリスのジワジワくるキャラの可愛さがハマってきている。実際、ハマちゃんの優しさに触れてチラッと見せるデレぶりと、唐突に出る秋田弁の純朴な魅力により、すでに新たなファンを獲得しているようだ。セブンティーンを読まない世代に、広瀬アリスの素晴らしさを気づかせた作品としては、充分成功しているといえるだろう。


 ただ、気になるのはハマちゃんとの関係がなかなか発展しないこと。6話終了の時点で、やっとハマちゃんがみち子さんに対し恋愛感情を芽生えさせたばかりで、残すところあと2話である。物語としてはハマちゃんとスーさんの展開は読めるだけに、みち子さんとのツンデレな関係が映画のようなラブラブな関係になるまで、どう話が転がっていくのかに注目したいところだ。そして、釣りバカでみんなが一番期待している、映画では恒例の“合体”。ここまで前置きが長い合体は、それはそれは燃え上がること間違いないだろう。同作のプロデューサー・浅野太氏はインタビューで、「今、頭を悩ませているのは、ハマちゃんとみち子さんの「合体」をどう描くか。みんな待ってますよね(笑)」と語っているが、果たしてどんな形でその時が訪れるのだろうか。(参考:週プレNews/ドラマ『釣りバカ日誌』プロデューサーが語る舞台裏「みんなが待ってる“合体”を金曜8時でどう描くか…(苦笑)」)


(文=本 手)