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中村蒼、“食われるイケメン”から“食う個性派”へ 『無痛~診える眼』で見せる同世代俳優への反撃

2015年12月02日 19:21  リアルサウンド

リアルサウンド

『無痛~診える眼~』公式サイト

 「これが中村蒼?」「ガチなのか?」、目を疑った人も多かっただろう。『無痛~診える眼~』(以下、『無痛』)で中村が演じるイバラは、先天性無痛症で無毛症の清掃員。当初は「髪どころか眉さえもない」衝撃のビジュアルに好奇の目が集まっていたが、徐々に「痛みを感じない」ことによる戸惑いや、薬の副作用による狂気の演技に、称賛の声が挙がりつつある。


参考:西島秀俊、結婚後も人気衰えない理由は? エピソードからにじみ出る人の好さ


 とりわけ先週放送された第8話では、佐田(加藤虎ノ助)の殺害を「覚えていない」と繰り返しつぶやき、留置場では筋骨隆々の上半身裸で苦悩し、あげくに脱走。さらに、精神的に不安定なサトミ(浜辺美波)を連れ去るなど、まさにイバラのワンマンショー。主人公の為頼(西島秀俊)、早瀬(伊藤淳史)、白神(伊藤英明)を上回る存在感を放っていた。


 すでに芸歴10年で10本を超える主演作を持ちながら、なぜか中村の知名度は実績ほど上がっていかない。その理由は何なのか? そして、突然変異にも見える『無痛』での姿は何が影響しているのか?


 中村は『ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト』でグランプリに輝き、初主演作『BOYSエステ』(テレビ東京系)で演じたエステティシャン、『花ざかりの君たちへ~イケメン☆パラダイス』(フジテレビ系)で演じた走り高跳び選手、『アリスの棘』(TBS)で演じた温厚な研修医などから、「さわやかなイケメン」「正統派ベビーフェース」というイメージを持つ人は多いが、実はこれまでもクセのある難役が多かった。『学校じゃ教えられない!』(日本テレビ系)では同性の親友を好きになる高校生、『Q.E.D. 証明終了』(NHK)では完璧主義の天才少年、『息もできない夏』(フジテレビ系)では男性相手に売春する無戸籍児を、中村らしい静かな役作りで熱演した。


 今年に入ってからは、さらなる難役ラッシュ。『洞窟おじさん』(NHK BSプレミアム)で演じたのは、真っ黒に汚れた顔で、イノシシの毛皮を身にまとう不気味なホームレス男の役だった。さらに『かぶき者 慶次』(NHK)では前田慶次の子と偽って育てられる石田三成の子。『永遠の0』(テレビ東京系)では主人公・宮部(向井理)から妻を託されるキーマン・大石。そして、12月5日公開の映画『春子超常現象研究所』では体と心を持つテレビという特異な役を演じる。


 つまり、難役は『無痛』にはじまったことではなかったのだ。さわやかなルックスにだまされてはいけない。いや、むしろさわやかなルックスをベースに、相反するクセの強い役をかけ合わせて何気ない異物感を放つのも、中村のスタイルなのだろう。「俳優は常に壁を壊していかなければいけない仕事」というコメントからも、さわやかなイケメン役だけでなく、クセのある難役と意欲的に向き合っていることがわかる。


 そして、もう1つ見逃せないのは、中村の演技スタンス。失礼ながらこれまで中村は、「主演なのにそれほど印象が残らない」「脇役俳優のほうが目立っていた」ということが何度かあった。たとえば、昨年放送された『なぞの転校生』(テレビ東京)は主演ながら、アンドロイド転校生・山沢(本郷奏多)や別世界の姫(杉咲花)のほうが存在感は大きかったし、実質的な主演だった『学校じゃ教えてられない!』、30人を超えるイケメンのトップだった『花ざかりの君たちへ~イケメン☆パラダイス』でも、他の生徒役に食われるシーンが散見された。


 正直なところ、それが「周囲を生かす懐の深さなのか」、それとも「単に淡々とした人柄なのか」、つかみどころがなかったのだが、『無痛』でのイバラを見ていると、これまでにない自己主張を感じる。実際、西島、伊藤らの先輩俳優を食っているシーンもあるし、それはもしかしたら“食われるイケメンから食う個性派への進化”なのかもしれない。


 『MOZU』(TBS系)の池松壮亮、『デスノート』(日本テレビ系)の窪田正孝、『みんな!エスパーだよ!』(テレビ東京系)の染谷将太、『民王』(テレビ朝日系)の菅田将暉など、同世代の俳優たちは、振り切った役作りと爆発させるような感情表現で、「若き演技派」との声も多い。しかし今年の中村が見せる、胸の奥で魂を焦がすような演技は、十分彼らに対抗できている。もしかしたら今の中村は、どんな難役が訪れても嬉々として演じるのではないか。その意味で、演じることに対して中村本人が“後天的”無痛症なのもしれない。中村の進化を実証するために、より過酷なオファーをぶつけてほしいと思う。(木村隆志)