2015年12月01日 10:51 弁護士ドットコム
架空の交通費など、約900万円の政務活動費をだまし取ったとして、詐欺などの罪で在宅起訴された元兵庫県議の野々村竜太郎被告人が、11月24日に神戸地裁で予定されていた初公判を欠席した。
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報道によると、野々村被告人は出廷する意思を示していたが、初公判を控え、精神的に不安定になっていた。さらに当日朝、報道陣が取材のために自宅前に来ていたことから、「精神的パニックになった」として、急きょ欠席することになったという。野々村被告人の弁護士は、報道各社に取材の自粛を求めた。
野々村被告人は初公判の直前、「報道関係者等の皆様」と題されたブログを更新し、マスコミの取材を拒否する姿勢を強調していた。報道各社が自宅に押し寄せるような取材を続けた場合、法的に何か問題があるのだろうか。秋山亘弁護士に聞いた。
「『報道の自由』や『取材の自由』は、憲法21条の『表現の自由』として、憲法上保障されている重要な権利です」
秋山弁護士はこう切り出した。どんな場合でも保障されているのだろうか。
「たとえば、一般市民が報道機関によって連日連夜、取り囲み取材を受ける場合、いわゆる『メディア・スクラム』として、個人の私生活上の権利を侵害するような問題が起こっています。
さらに、今回のケースのように、裁判を控えた被告人の場合、静かで穏やかな環境で刑事裁判を受ける権利を侵害するおそれもあります」
どういう場合、「取材の自由」は制限されるのだろうか。
「取材の自由も、取材を受ける側の私生活上の権利も、いずれも重要な権利であることから、どこまでが違法な取材行為として、不法行為を構成するかは、極めて悩ましい問題です。法的にも、どこまでのメディア・スクラムが違法な取材となるかについて、明確な基準はありません。
結局、取材の必要性や態様、取材対象者の社会的地位(公人か私人か)、取材によって受ける不利益の程度などを踏まえたうえで、その取材行為が『取材の自由』という憲法上の重要な権利であることに鑑みて、『受忍限度を超える』といえるかどうかを総合判断していくことになると思います」
では、野々村被告人のケースは、どのように考えられるのだろうか。
「たしかに、県議会議員の政務活動費にかかわる公益性の高い事件ですので、『取材の自由』や『報道の自由』が保障される範囲は、広範囲になると考えられます。
しかし、公判期日をひかえた被告人が、精神的に安定した環境下で自らの人生を左右する刑事裁判における公判期日に臨むことは、『裁判を受ける権利』として最大限保障されなければならない重要性の高い事項と考えられます」
今回のケースにおいて、自宅前での「押しかけ取材」の必要性はあったのだろうか。
「いま一度冷静に検討してみると、政務活動費事件については、すでに野々村氏本人が記者会見を開いて記者の取材に応じており、その評価につき様々な意見があるかもしれませんが、謝罪をしています。
また、捜査機関の取り調べにおいても罪を認め、公判においても起訴事実を認める予定だったと考えられます。
そのような状況において、報道機関が自宅前での取り囲み取材をしてまで、野々村氏が自宅から裁判所へ向かう姿を取材・報道しなければならない必要性がどれだけ高いのかというと、疑問があるところです。
また、野々村氏は事前に報道機関に対して、取材の自粛を求めていました。
これらの事情を総合的に考慮すると、仮に今後も同様に、報道機関による自宅前での取り囲み取材が行われるのであれば、『受忍限度を超えた違法な取材』と認められる可能性は十分にあると考えられます」
秋山弁護士はこのように話していた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
秋山 亘(あきやま・とおる)弁護士
民事事件全般(企業法務、不動産事件、労働問題、各種損害賠償請求事件等)及び刑事事件を中心に業務を行っている。日弁連人権擁護委員会第5部会(精神的自由)委員、日弁連報道と人権に関する調査・研究特別部会員
事務所名:三羽総合法律事務所