日本中を沸かせたラグビーワールドカップ。日本代表チームのヘッドコーチ(HC。実質的な監督)を務めたエディー・ジョーンズさんが、スポーツ界のみならず経済界からも注目されているようです。
来年1月からアメリカの金融大手ゴールドマン・サックス日本法人で、年2回ほど経営などを助言するメンバーになります。11月26日放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)では、エディーさんに強い組織づくりやリーダーのあり方などを単独インタビューしていました。(文:篠原みつき)
最初は話しかけることも嫌っていた五郎丸
代表チームの強い組織力は、どうやって生まれたのか。大江麻理子キャスターが、これまで経験した中では教えやすいチームだったのか訊ねると、エディーさんは「最初の2年は難しかった」と語り始めました。
「日本人選手は従順な教育をされている。従順さはラグビー選手にとってよくないことです。選手が判断できるよう再教育しました」
何時間にも及ぶトレーニングの中で、20分間判断を下すトレーニングを行ったそうです。例えば試合の一場面を作り、蹴るかどうかを判断させる。その時間を徐々に増やしていったとのこと。
「選手に判断することを要求していたので、判断ミスしたことは非難しなかった」
自分で判断してほしかったので、間違った判断も受け入れたといいます。自主性を育てることで、五郎丸選手にも変化がありました。かつてはミーティングで常に下を向き、話しかけることすら嫌がっていました。
しかし、彼はやがて他の選手にアドバイスするまでになりました。エディーさんも「五郎丸選手の変化はすさまじかった。独りが好きな人間から、強いリーダーに成長した」と称賛します。
南アフリカ戦「実はキックするように叫んでいた」
こうしたトレーニングが一番実ったのが、ワールドカップの南アフリカ戦。ペナルティキックで引き分けをねらえる場面でしたが、選手たちは自主的にトライを選択し、逆転勝利をつかみました。
エディーさんは「実はキックするように叫んでいた。(トライを選択した)その瞬間は最も感情が高ぶった」と興奮ぎみに振り返り、「結果的には選手たちが見せた強い自信と成長ぶりに感心した」と嬉しそうに語りました。
ワールドカップ・イングランド大会ではベスト8入りの高い目標を掲げたエディーさん。日本代表は惜しくも予選敗退でしたが、3勝を挙げる快挙を成し遂げ、世界からも注目を集めました。ゴールドマン・サックス証券の持田昌典社長は、エディーさんの就任を決めた理由を次のように話します。
「いろいろ違ったバックグラウンドを持った選手たちを束ねて数年で育て上げ、過去にできなかった実績をあげた。指導力やリーダーシップについては、我々も学ぶところがある」
エディーさんも、大江キャスターから企業とラグビーチームの共通点を訊ねると、「ラグビーというスポーツは、全員が同じ気持ちで目標を持つこと。団結と努力が求められる」とした上で、「ビジネスでも全く同じ」と話しました。
リーダーの仕事とは「自分の存在を不要にすること」
強い組織に求められるリーダー像を尋ねると「観察力が必要。人を進歩させる方法を見つけること。リーダーの仕事とは自分の存在を不要にして、チームを自ら機能させること」と持論を語ります。
エディーさんを見ていると、リーダーに必要と思われる人間的魅力も感じました。自主性を身につけさせるために、判断ミスを責めない。その人の能力を引き出すために、指導側の観察力が必要という考え方に共感します。
いずれも企業で人をまとめる管理職などにも求められる資質でしょう。一番分かりやすかったのは、大江キャスターがVTR後に紹介したエディーさんのこんな言葉でした。
「突き詰めると『よくやった!』という言葉が、人々の能力を引き出すためにはもっとも効果的なんですよ」
あわせてよみたい:働きやすい職場を作るためマネジャーは「愚鈍」になれ