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さめざめ、インディーズ回帰作で“表現の歯止め”外す あらゆる感情を表現した歌世界に迫る

2015年11月30日 11:31  リアルサウンド

リアルサウンド

さめざめ

 さめざめが、インディーズ回帰作となるミニアルバム『HのつぎはI』を、11月11日にリリースした。


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 さめざめは、笛田さおりによるソロ・プロジェクト。作詞家としての活動と平行して行っていた歌手活動で生まれた「愛とか夢とか恋とかSEXとか」という楽曲をきっかけに、普段あまり言葉にできない感情をストレートに表現する楽曲を“さめざめ”として発表していく。


 メジャーデビューは2012年。メジャーシーンへの進出で活動の幅が広がる一方、過激な表現を含む歌詞に自ら制約をかけることが増えていったという。今作はそのような制約はいっさいなしに、さめざめ・笛田さおりのあらゆる感情を、よりストレートに、自由にぶつけた作品となっている。


 そんな作品にこめた思いについて、さめざめ・笛田さおりはこう語る。


「メジャーからインディーズに戻ったことで、さめざめの新しい始まりを示したくアルバムを制作しました。ここ数年、特に歌詞の表現方法では、自分のなかで勝手に歯止めをかけていた部分があって。今回は自分でもびっくりするくらい、言いたいことをダイレクトに言葉にすることができました」


 さめざめの最大の魅力は、歌詞の世界観、言葉選びにある。今回のミニアルバムでも、過激なテーマやワードがいくつも登場するが、それらはただ単に奇をてらったものではない。ストレートな言葉の裏には、切なさ、悲しさ、儚さ、怒り……一言では言い表せないさまざまな感情が渦巻いている。


 たとえば、収録曲「恋せよ、破天荒」では、冒頭から<ああ、人生なんてこんなもの/ああ、人生なんて不平等/信じるものなんて救われない/神様、あたしを舐めんなよ>と始まり、以降も激しい表現が随所に登場する。笛田も、一部表現ではさすがに「このまま歌詞にしていいかは正直戸惑った」そうだが、自身のあらゆる感情を吐き出す言葉としてこれら以外の言葉はなかったようだ。歌詞を変えて歌うつもりだった初披露のライブでも、気づけばそのまま歌っていたという。その瞬間、表現の歯止めがいい意味で狂い、真直ぐな楽曲をまた作れるようになった気がしたそうだ。


「さめざめの歌詞は、心のなかで隠している本当の言葉をそのまま歌詞にすることが一番だと思っています。私自身が普段隠している言葉や感情を伝えるためには、ストレートな表現が一番しっくりくるんです。それはアートワークも同様で。今作もいつもさめざめのアートワークを手がけてくださっている福井伸実さんにお願いして、『HのつぎはI』から思い浮かぶ絵を何点か提案していただいたのですが、ジャケットに使用したイラストには非常に強いインスピレーションを感じました。福井さんが絵で表現するものは、常にさめざめの楽曲と相通じるものがあるのです」


 サウンド面では、インディーズ・アルバム『スカートの中は宇宙』のバンドメンバーが集結し、レコーディングを行った。怒りを消化する痛快なロックチューン、色気を誘うジャジーなサウンド、切なさが引き立つ繊細なバラード……歌詞が示す感情やシチュエーションがそのまま音化されていて、まるで一人の女性の人生を覗き見しているような気分になる。


 “再出発”となる今作はまさに、さめざめ・笛田さおりの感情を出し切った作品でもあるのだ。これまでさめざめは、辛い恋愛・人生を経験した女性の気持ちを代弁する楽曲を多く歌ってきたが、生々しく発せられる彼女自身の心の叫びに共感するリスナーも多いだろう。


「今、恋をしている女性に聴いてほしいです。今回のアルバムは、インディーズに戻った意思表示という意味合いが強く、他の作品に比べると自己愛の強い作品となっているかもしれません。しかし、恋愛の挫折や切なさは勿論、生きて行くなかでの葛藤や戦いを歌詞で表現しているので、あなたの心のなかにある暗闇や傷口にも寄り添うような楽曲に仕上がっていると思います」


 さめざめとは、「涙をしきりに流して泣き続けるさま」という意味を持つ言葉だ。様々なステージを経て、ストレートに表現することを貫き通したさめざめは、ただ泣き続けるだけではない、自分自身や現実と向き合う強さを手に入れたのではないだろうか。(久蔵千恵)