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シャープが「自社製品愛用運動」開始――5万円以上の「購入呼びかけ」問題ないのか?

2015年11月27日 11:41  弁護士ドットコム

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経営再建中のシャープが、全従業員に自社製品の購入を呼びかける「シャープ製品愛用運動」を11月20日から始めた。来年の1月29日まで実施する予定だ。


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取締役や執行役員は20万円、管理職は10万円、一般社員は5万円と、役職に応じた購入の目標金額を設定し、売り上げの増加を目指すという。社員向けの販売サイトから申し込む仕組みで、社員には購入額の2%分を奨励金として支払う。



製品購入は強制ではなく、シャープの広報担当者も弁護士ドットコムニュースの取材に対して、「できれば買ってねというお願いベースで、ノルマではありません。罰則もありません」と説明している。だが、購入状況を会社側が把握できるため、社員からは事実上の「ノルマ」と受け止められているようだ。



今回のニュースについて、ネット上では「これ、やっちゃダメなやつだろ」「違法じゃないの?」といった意見が出ている。会社が従業員に対して、自社製品の購入を呼びかけることは、法的に問題ないのだろうか? 古金千明弁護士に聞いた。



●自社製品購入の呼びかけは違法?


「会社が自社製品の購入を従業員に義務づけた場合は、賃金の通貨払い・全額払いを定めた労働基準法24条1項に違反する可能性があります」



古金弁護士はこのように述べる。



「労働基準法は、使用者に賃金の全額を『通貨』(現金)で支払うことを義務づけています。通貨で支払うことで、労働者に現金化の不便を強いることを防ぎ、労働者やその家族の生活を保護しているのです。



自社製品の購入を義務づけた場合は、従業員に対して、賃金をいったん通貨で支払ったとしても、実質的にみれば、賃金の『現物支給』だと評価される可能性があります」



製品購入が強制ではない場合も、違法になるのだろうか。



「自社製品の購入が義務ではなく、従業員に呼びかけるだけであれば、ただちに、労働基準法第24条1項違反にはなりません。



ただし、自社製品の購入が従業員に義務づけられていない場合であっても、『ノルマ』達成を執拗に求められたり、『ノルマ』未達を理由に降格させられるなどの人事考課上の不利益を受ける場合は、違法なパワーハラスメントなど別の問題が発生する可能性があります」



●「経営不振だから」は言い訳にならない


会社が経営不振で、売り上げを伸ばしたいという事情がある場合はどうなのか。



「経営不振だからといって、労働基準法違反や、違法なパワーハラスメントなどが許されることにはなりません。



本来であれば、従業員が自社製品を購入して会社の売上増加に協力するかどうかは、個人の選択の問題です。



会社の売上に協力して『忠誠心』を示すのか、会社の売上には協力しないがそれ以外のところで会社に貢献するのか、はたまた、こんなことを求めてくる会社に見切りを付けて社外に可能性を求めるのか。



従業員の方々には、自らの判断で行動をすることが求められると思います」



万が一、製品を購入しないことで、パワハラなどを受けた場合はどうすればいいのだろう。



「従業員側の対抗手段としては、録音などの証拠を確保したうえで、組合結成・団体交渉や、労基署への相談、労働局による助言・指導の申出、紛争調整委員会によるあっせんの申し立てなどが考えられます。証拠があれば訴訟も可能ですが、在籍しながらとなると、訴訟以外の手段の方が、適切な場合が多いかとは思います。



なお、ノルマ未達で会社に目を付けられるのが怖く、かといって会社とやりあうリスクもとれない場合もあるかもしれません。その場合は、ネットオークションなどで転売することを視野に入れて、換金率の高い商品を購入するなどの自衛手段もあるかとは思います」


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
古金 千明(ふるがね・ちあき)弁護士
天水綜合法律事務所・代表弁護士。IPOを目指すベンチャー企業・上場企業に対するリーガルサービスを提供している。取扱分野は、企業法務、労働問題(使用者側)、M&A、倒産・事業再生、会社の支配権争い。
事務所名:天水綜合法律事務所