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自称祈祷師、糖尿病の7歳児に治療を受けさせず死なせる――なぜ「殺人容疑」なのか?

2015年11月27日 11:12  弁護士ドットコム

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糖尿病を患っていた宇都宮市の男児(当時7歳)に適切な治療を受けさせずに死亡させたとして、栃木県警は11月26日、殺人容疑で同県下野市の会社役員男性を逮捕した。男性は祈祷師の「龍神(りゅうじん)」と名乗り、治療と称して呪文を唱えたり、体を触ったりしていた。


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報道によると、この男性は、男児の両親から「子どもは1型糖尿病でインスリンの投薬治療が必要だ」と聞いていたにもかかわらず、4月上旬ごろから投薬を中断させ、医師による適切な治療を受けさせずに放置して、死亡させた疑いがもたれている。男児は4月下旬、インスリンの欠乏で起きる「糖尿病性ケトアシドーシス」を併発して衰弱死した。



男児の母親が「ずっとインスリン投与を続けるよりも完治してほしい」と男性に相談。男性は「腹の中に死神がいるからインスリンでは治らない」などとして、ろうそくを立てて呪文を唱えたり、体を触ったり、ハンバーガーや栄養ドリンクを摂取させたりしていた。報酬として200万円以上を受け取っていたという。



治療を受けさせなかったことで死亡した可能性は高そうだが、祈祷師と称する男性は、なぜ殺人容疑になったのだろうか。もし、自身の「治癒力」を本当に信じていた場合でも、殺人罪になってしまうのだろうか。神尾尊礼弁護士に聞いた。



●シャクティパット事件が参考になる


「殺人罪が適用されるか否かは、1999年11月に、千葉県成田市のホテルで66歳男性の遺体が見つかった、いわゆるシャクティパット事件(最高裁平成17年7月4日判決)が参考になります。



この事件では、自己啓発セミナー『ライフスペース』の代表(当時)が、頭部を手でたたく『シャクティパット』と呼ぶ方法で病気を治すと主張し、重篤な男性患者を病院から、親族の手で運び出させました。さらに、必要な医療措置を受けさせないまま、この『シャクティパット』を施したところ、死亡してしまったのです。



シャクティパット事件では、男性患者に必要な医療を受けさせる義務があったとして、ライフスペース代表に殺人罪が適用されました。今回の事件でも、インスリン治療を中止させていますので、殺人罪が適用される可能性があります」



もし今回の事件の容疑者が、自分の「治癒力」を信じていた場合でも、殺人罪が適用されるのだろうか。



「自分の力を信じていた場合であれば、医療を受けさせるよう指示することが期待できないなどの理由で、殺人罪が適用されないと思われるかもしれません。



この点については、さきほどの判例の調査官解説という、法曹界では権威のある解説(最判解刑事篇平成17年度184頁以下)が参考になります。この解説によれば、重篤な患者を自己の信じる『治療』で救命した経験がない以上、適切な医療を受けさせるよう指示をすべきだったと述べており、救命の経験が1つの考慮すべき要素になっているようです。



ですから、今回の事件で、容疑者が自分の力を信じていたとしても、たとえば今までに何人もの命を救ってきたような事情がない限りは、殺人罪の適用は排除されないと思われます」



●親も「保護責任者遺棄致死罪」の適用が視野に


では、信じ込んでしまった親の責任はないのだろうか。



「親についても、犯罪が成立する可能性があります。さきほどのシャクティパット事件でも、病院から運び出した親族(被害者の長男)について、保護責任者遺棄致死罪が適用されました。今回の事件でも、保護責任者遺棄致死罪の適用は視野に入ってくると思われます。



なお、紹介したシャクティパット事件の判例は『事例判断』となっています。すなわち、『本件の事情からすれば殺人罪』とのみ判断しているだけで、事情が変わった場合にどうなるかまでは判断していないのです。



ですから、今回亡くなられたお子さんの病状等を詳しく捜査し、殺人罪等の適用が可能か慎重に判断していくことになると思われます。



私としては、幼い命が失われたという事実の重さを深く受け止め、その責任の所在を明確にした上で、適切に裁かれることを期待します」



神尾弁護士はこのように話していた。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
神尾 尊礼(かみお・たかひろ)弁護士
東京大学法学部・法科大学院卒。2007年弁護士登録。埼玉弁護士会。刑事事件から家事事件、一般民事事件や企業法務まで幅広く担当し、「何かあったら何でもとりあえず相談できる」事務所を目指している。
事務所名:彩の街法律事務所
事務所URL:http://www.sainomachi-lo.com