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AKB48と西野カナ、ポップチャート常連がベスト盤で見せた“ベクトルの違い”

2015年11月26日 22:01  リアルサウンド

リアルサウンド

AKB48『0と1の間 Million Singles』

参考:2015年11月16日~2015年11月22日(2015年11月30日付)(ORICON STYLE)


 ポップシーンの地図を塗り替える、と断言したWANIMAのアルバム『Are You Coming?』は、発売週こそ初登場4位(すごい快挙!)だったけれど、次週は15位、今週は20位でした。無名のパンクバンドにとっては十分すぎるほど素晴らしい記録ですが、やっぱりポップシーンはまだまだAKBのものなのね、という今週。世界的に言えばアデルの新作『25』が話題をかっさらっているけれど、これも日本では12,952枚で13位。AKB48『0と1の間』は625,756枚という圧倒的セールスなので、なんかもうお話にならない感じです。


 さて、そのAKB48。今回の『0と1の間』は、結成および劇場公演デビュー10周年を記念して、これまでに発表したシングル曲を収録した豪華ベスト盤。ただの「デビュー10周年」ではなく「劇場公演デビュー」という言い方に触れて、あぁこの人たちはアキバの劇場で「毎日会える」ことをアピールしていたオタク向けのグループだったのだ、という事実を思い出します。今の高校生には信じられない話でしょう。いつから「国民的」な「ポップシーンを牛耳る」アイドルになったのか、そのブレイクポイントを思い返したり、アキバでの思い出をしみじみ温め直したり、過去にセンターを務め上げたさまざまな顔ぶれを思い出したり……。涙も辞さないであろうファンの心理は容易に想像できますが、そう考えると余計、62万5千枚という数字……なんか微妙。確かに立派な数字なんだけど、イマイチこう、「10年おめでとう! 一生ついていくぜ!」というファンの総意が感じられない数字でもあります。


 もちろん、メンバー次々と交代していけば離れるファンもいて当然。あのメンバーがいた◯◯期こそが黄金時代だった、あの曲こそが完璧だった、という持論はそれぞれ違うのでしょう。そしてまた、代表選手が入れ替わり過ぎてなんだかよくわからなくなり、だんだん人気が下がっていく……というのはモーニング娘。が過去に一度やっている例。AKBは今、おおいなる安定のなかで、今後次第にテンションを下げていくのか、それともさらに強烈な輝きを放つ事件が起こるのか、そういう分岐点に差し掛かっている気がします。


 もっとも、これはアイドルに限らず、一度でもヒットメイカーとして認知されたミュージシャンには必ず付いて回る話です。いつまでも永遠に支持されることはありえない。ヒットが派手であればあるほど簡単に飛びつかれ、次の瞬間に「終わった」「飽きた」と離れていく人は増えるものです。そこで何を見せていくか。そこで注目したいのが2位~3位の西野カナ。カップリング曲を集めた2枚の裏ベスト盤は、このサイトにも記事があったように、本人の洋楽嗜好をさまざまな角度から見せつける音楽性重視のアルバム。「恋愛の教祖」「共感しまくり」「震える」というキーワードが中心だった彼女に、新しい風向きを与える作品でしょう。どちらもポップチャートの常連、どちらも既発曲中心のベスト盤でありながら、ベクトルの違いが面白い今週でした。(石井恵梨子)