2015年11月26日 14:01 弁護士ドットコム
勤務先の「顧客データ」を持ち出し、その後に転職した会社で営業活動に使ったとして、宮城県の会社員男性(26)が、不正競争防止法違反(営業秘密の領得・使用)の疑いで、秋田県警に逮捕された。
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秋田魁新報によれば、この男性は2012年10~11月、当時つとめていた秋田市内の通信機器販売・リース会社で、顧客情報約390件をUSBメモリーにコピーし、その直後の12年12月~13年2月に、転職先の宮城県富谷町の会社で、顧客獲得のための営業活動にデータを使った疑いがあるという。
転職先で、これまでの経験や人脈をもとに仕事をしていく人は、珍しくないだろう。今回のケースは、何が問題になったのだろうか。また、名刺の持ち出しも問題になることがあるのか。転職者が気をつけるべき点について、鈴木徳太郎弁護士に聞いた。
「まず、従業員には職業選択の自由があるため、他業種はもちろん、同業種であっても、原則として転職は自由と言えます。ただし、競業他社への転職を制限する合意書などに署名をしている場合は制限を受けることがあります。
しかし、ノウハウや顧客情報の持ち出しについては規制を受けます。ノウハウや顧客情報のうち、営業秘密に当たるものについては、不正競争防止法21条により、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金を科されるおそれがあります。また、民事上も、不正競争防止法4条や民法上の不法行為にもとづく損害賠償請求を受ける可能性があります。
そこで問題となるのが、ノウハウや顧客情報が不正競争防止法上の『営業秘密』に当たるかどうかです」
不正競争防止法上の「営業秘密」に当たるものとは、具体的にどんなケースが想定されるのだろうか
「一般に、不正競争防止法の営業秘密に当たるといえるためには、次の3点が必要と言われています。
(1)秘密として管理されていること(秘密管理性)
(2)事業活動に有用な技術上または営業上の情報であること(有用性)
(3)公然と知られていないこと(非公知性)
先の例で見ると、390件の顧客情報をUSBにコピーした点については、顧客情報は取引において重要な情報であることから(2)有用性は認められ、また、公表されているようなものでもないでしょうから、(3)非公知性も認められたのでしょう。
問題は(1)秘密管理性ですが、おそらくはパスワード設定などによって第三者が簡単に見られないようになっていたり、データ持ち出しについての社内規制が従業員に周知されていたりしたものと思われます。
逆に、いかに顧客情報であっても、社内に管理規則がなく、従業員であれば誰でもアクセスできたような場合には、(1)秘密管理性は否定される方向になりやすいでしょう」
ところで、仕事で集めた「名刺」は「営業秘密」にあたるのだろうか?
「自らが受け取った名刺の持ち出しであれば、その名刺を会社で一括管理するような場合でもない限り、営業秘密の持ち出しとまでは、通常、言えないのではないかと思います。
先にも述べたとおり、同業種を含め、他社への転職は原則として自由です。しかし、会社の管理するデータの持ち出しは止めるべきでしょう」
鈴木弁護士はこのように指摘した。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
鈴木 徳太郎(すずき・とくたろう)弁護士
多摩地区・府中市の弁護士。個人の案件については、相続問題の他、交通事故や倒産事件を多数取り扱う。近時は労働問題の相談も多い。会社関係の事業承継なども取り扱う。現在、第一東京弁護士会多摩支部副支部長、府中市情報公開・個人情報保護審議会委員を務める。
事務所名:鈴木徳太郎法律事務所
事務所URL:http://www.fuchu-lawoffice.jp/