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なぜTM NETWORKは時代の先駆者となったのか? 「FINAL」作品を100倍楽しく見る観る方法

2015年11月25日 17:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『TM NETWORK FINAL』の様子。

・“MC”と“アンコール”が存在しないコンサート


 小室哲哉、宇都宮隆、木根尚登による3人組ユニット、TM NETWORKのコンサートに“MC”と“アンコール”は存在しない。なぜなら、完璧なまでに計算されたSFをテーマとしたシアトリカル(演劇的)なショーだからだ。


 TM NETWORKといえばどんなイメージを思い浮かべるだろう? コアターゲットとなった世代は80年代~90年代に学生だった30代前半~40代後半。そして、その影響は子供世代へも継承されているという。代表曲は、アニメ『シティハンター』のエンディング「GET WILD」、宮沢りえ主演映画『ぼくらの七日間戦争』主題歌「SEVEN DAYS WAR」、アニメ映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』の主題歌「BEYOND THE TIME (メビウスの宇宙を越えて)」などの歌い継がれる名曲たち。しかし、おそらくFANKS(TMファンの意)に聞けば、みな違う楽曲を好きな曲としてあげるだろう。それほどまでに実は隠れた名作が多いユニットなのだ。


 ジャンルでいえば百花繚乱だ。ニューロマンティック ~ ディスコ ~ ポップス ~ ユーロビート ~ ハウス ~ ハードロック ~ ラテン ~ フォーク ~ プログレッシヴ・ロック ~ トランス ~ EDMといった、時代を経て変化しつづけたサウンド感。人それぞれに見える“音風景”が異なるはずだ。


 TM NETWORKのサウンドを聴かず嫌いで“ピコピコ“や“打ち込み“とイメージし、毛嫌いしていた人もいたかもしれない。TKファミリーによる大ヒットの反動もあったことだろう。しかし、実はTM NETWORKは骨太なライブバンドな一面を持っている。メンバーは、70’sロック世代であり、エマーソン・レイク・アンド・パーマーやピンクフロイドなど、プログレッシヴ・ロックに大きな影響を受けている。本質をロックに置きながらも、時代に応じて様々なアウトプットを使い分け、記憶に残るメロディを奏でることで名曲を生み出してきたのがTM NETWORKなのだ。


・マーケティング論や文化論、ディティールへ迫ったアプローチ


 TM NETWORKのオフィシャル評論家、藤井徹貫氏に大きな影響を受けたリスナーも多い。アーティストの想いやヴィジョンを言語化する翻訳家であり専属スポークスマンのような存在だ。筆者もまた影響を受けたひとりだ。1994年、TMN終了への秘密を解説する目的でマーケティング論や文化論として迫った著書『TMN最後の嘘』(ソニー・マガジンズ)や、ツアー同行レポをミステリー風なフィクションを交え展開する名著『TMN EXPOストーリー(上下)』(ソニー・マガジンズ)など、音楽作品だけでなくキャラクター性のディテールを広げるアプローチが斬新だった。これら作品は、“ブランディングの構築”において、参考となるアイテムなのでTM NETWORKに興味がない方でもぜひ手に取ってみてほしい。TM NETWORKがいかに、他ではない方法論、道を開拓してきたかがわかるはずだ。


 90年代、TM NETWORK全盛期に“CI(コーポレート・アイデンティティ)”の概念をアーティスト活動に取り入れ、ネーミングとブランドをTMNへと“リニューアル”したマーケッター的センスを持つ小室哲哉。そう、いまや聴き馴染みのある“リニューアル”という言葉は1990年に小室哲哉がいちはやく世に発信したキーワードだった。しかし、これら大味なアクションは、楽曲を聴いて欲しいという音楽家としてピュアな願いのあらわれだったことは言うまでもない。2015年、“コンテンツマーケティング”がキーワードのひとつとして注目されているが、TM NETWORKは1984年から意識的に取り組んでいたのだ。“コンテンツマーケティング”とは、“有益で説得力のあるコンテンツを制作・配信することによって、ターゲットを引き寄せ、獲得し、エンゲージメントをつくり出すこと”にある。


 その最良の成果がTM NETWORK 30周プロジェクトだ。


・映画『スターウォーズ』シリーズをライバル視


 小室哲哉は2012年~2015年に実施されたコンサート・シリーズ、TM NETWORKの30周プロジェクトを進めるにあたって、2015年12月に最新作が公開される映画『スターウォーズ』シリーズをライバル視していた。もちろん“予算や規模が違いすぎるけどね”とエクスキューズしながらだ。しかし、1988年にリリースした100万枚を超える大ヒットを記録したコンセプト・アルバム『CAROL ~A DAY IN A GIRL'S LIFE 1991~』の続編として描いたプロットを、小室自ら『CAROLの意味』(KADOKAWA/エンターブレイン)として2014年に小説化するなど、究極のフィクション・プロジェクトであるTM NETWORKをSF作品として完成させる努力を惜しまなかった。そして、30周年公演では数々の代表曲に雰囲気の違う映像や演出を与えることで、物語の語り部的な機能性として楽曲の再構築を試みた。リミックスやリプロダクションとも異なる楽曲の新解釈といえるだろう。


『【全曲レポ】TM NETWORK 30周年ファイナル公演をミッション・コンプリート!』
2015年3月23日配信:当日の詳細なライブレポはこちらをチェック。
http://bylines.news.yahoo.co.jp/fukuryu/20150323-00044143/


・SEKAI NO OWARI、サカナクションとの共通項


 コンサートのシアトリカルな演出といえば、昨今、攻勢を強めるSEKAI NO OWARIの存在とTM NETWORKの活動は重ね合わせることが出来る。ドラムやベースがいないユニット構成であり、ファンタジックなファッション&コンサート演出はもちろん、ステージに森を作ったり、楽曲トラックを海外で活躍する最先端のプロデューサーにオファーするなど共通点があるのだ。さらに、サカナクションにも注目したい。最新のテクノロジーを取り入れロック×ダンスミュージックとして表現するセンスにシンクロニシティを感じたからだ。サカナクションは、メディアアート的な演出アプローチを数多くコンサート演出に取り入れており、複数スピーカーを設置することで生まれるサラウンド効果を取り入れたライブをおこなっているが、TM NETWORKは80年代に“音の魔術師”をイメージするサラウンド・ライブを実現していた。時代を先んじるメディアアート的な演出アプローチも同じくだ。サカナクションの頭脳、山口一郎がTM NETWORKを聞いていたという確証は無いが、小室哲哉との対談企画が実現したらはおもしろそうだ。


・4年に渡って繰り広げられた世界観ある物語


 2008年に活動をお休みしていたTM NETWORKは、2012年4月24・25日、日本武道館にて『TM NETWORK CONCERT -Incubation Period-』にて復活した。ここから始まった物語は、2015年3月21・22日の横浜アリーナ『TM NETWORK 30th FINAL』まで6つの異なる演出によって計35公演がシリーズ展開された。4年に渡って繰り広げられた世界観あるSF物語。その集大成として、11月25日にファイナル公演『TM NETWORK 30th FINAL』(Blu-ray / DVD)がリリースされた。ライブ映像でありながら、映画さながらの繊細なカメラワークが語る物語性の魅力。飽きさせること無き発見の多い情報量の密度の濃さ。そう、TMのコンサートはただのライブではない。これまでのあらすじを紹介しよう。


<Restricted Confidential ~これまでのあらすじ~>


TM NETWORKが16光年離れた惑星から地球を訪れたのは1984年だった。その目的は、潜伏者となり地球上のさまざまな文化や営みを調査しメインブレインへ報告するためである。その任期は30年。


シーズン1 ●TM NETWORK CONCERT -Incubation Period-
2012年4月24・25日@日本武道館
地球潜伏30年目を迎えて任務完了となった2014年のTM NETWORKが、タイムマシンで時間を2年間(730日)巻き戻した2012年の話。新たなる潜伏者との邂逅。行き過ぎた文明への警告メッセージ。あの時、日本武道館上空には宇宙船が浮かんでいた。


シーズン2 ●TM NETWORK FINAL MISSION -START investigation-
2013年7月20・21日@さいたまスーパーアリーナ
母船からの指令により、トレイン型のタイムマシンによって1950年代のアメリカへ降り立ったTM NETWORK。トレーニング中の新米潜伏者=2012年型IPと、地元民のわかりあえない争い。潜伏者であるCAROLとの出会い。音が聴こえなくなる世界からの警告。


シーズン3 ●TM NETWORK 30th 1984~ the beginning of the end
2014年4月26日~5月20日@全国10公演
TM NETWORKが憂う地球の未来。舞台は前作のラストシーンから続き、宇宙船内へ。3人が関与していた、実はアンドロイドであったCAROL誕生の秘話。バトンとともに1974年のロンドンへ宇宙船から発射される、地球を背景とした壮大なるラストシーン。


シーズン4 ●TM NETWORK 30th 1984~ QUIT30
2014年10月29日~2015年1月11日@全国15公演
コンピュータ用語“30年を区切りに再起動”の意。TM NETWORKは、地球上の様々なシーンへ出没する。潜伏者より受け取った謎のバトン。案内役のCAROLの存在。行動を起こしたキックスターターの活躍。任務延長を示唆する、再起動を選択した3人の未来。


シーズン5 ●TM NETWORK 30th 1984~ QUIT30 HUGE DATA
2015年2月7日~2月15日@全国4公演
“HUGE DATA”とは、いわゆる膨大なビッグデータのこと。『QUIT30』で披露されたサウンドや映像による情報量の多い密度の濃い世界観を、さらに増設されたLED、こだわりの新規映像によって表現するプレミアムなコンサート。“Next mission is commanded”.


シーズン6 ●TM NETWORK 30th FINAL
2015年3月21・22日@横浜アリーナ
30年に渡る活動の成果を情報開示する“Information Discovery Report”。潜伏活動において、報告書的かつ総集編的な要素が強い記念すべきファイナル公演。そして明かされるCAROL誕生の秘密、3人との関係性。鉄壁のバンドメンバーによる集大成の夜。


・行き過ぎた社会の成熟、テクノロジーの進歩への警告


 TM NETWORK 30周年のアニバーサリー・イヤーの締めくくりとなった横浜アリーナ公演が『TM NETWORK 30th FINAL』(Blu-ray / DVD)として11月25日にリリースされた。TM NETWORK 30年の集大成としてヒット曲を交えた総集編のような展開であり、テロップによる物語の解説、稼働型巨大LEDモニターでの演出など、コンサート・シリーズの初見であっても十分に楽しめる、見応えあるエンタテインメント作品に仕上がっている。


 繰り広げられる物語は、かつて1987年にリリースされたTM NETWORKアルバム作品『humansystem』や、2000年に行われたコンサート『TM NETWORK Log-on to 21st Century』でも描かれた、行き過ぎた社会の成熟、テクノロジーの進歩への警告、破滅へと向かう人類。しかし、それを調査する為に潜伏していたTM NETWORKの3人というストーリーテリング。そして、我らオーディエンスもまた潜伏者だったというメタ構造が取り入れられているおもしろさに注目したい。


 コンサートは2時間半を超え、途中演劇のように「INTERMISSION」として休憩も入る濃厚な物語展開。休憩時に流れた総集編的な映像も含めて完全収録された本作。映像で繰り広げられていくTM NETWORK伝説におけるキーパーソンの女性=CAROLの秘密が明かされていく謎めいたストーリーから目が離せない。


・TMは、エンターテインメントの“ラボ”


 そんな想いの強さが、4曲目直前に宇都宮隆がアドリブで「ELECTRIC PROPHET (電気じかけの予言者)」をアコギでつま弾いたサプライズのワンフレーズ「♪Crete Island~」にあらわれていた。注目して欲しい。


「あれは、スタッフが知らなかったんで、ギターが鳴らなかったんですよ。メンバーにはもしかしたらって話はしていたんですけど。ギターの音が間に合わなかったからキーが取れなくなっちゃったの。“アレ?”って(苦笑)。ホントはもう少し歌おうかと思ってたんだけどね。今回、『ELECTRIC PROPHET (電気じかけの予言者)』は、エンディングにSEで流れたんだよね。そんなこともあって、声に出してみようかなって瞬間的に思ったんですよ。」(宇都宮隆)


 FINAL公演では、木根尚登作曲による「Fool On The Planet (青く揺れる惑星に立って)」が、感動的な夕焼けのシーンとともに23曲目のラストナンバーとなった。


「てっちゃん(小室)は“木根さんの曲が最後なんだよ!”って恩着せがましく言ってたね(笑)。自分が書いた曲が最後になるっていうのは嬉しいっていうか、感慨深く演奏させてもらいました。僕は、てっちゃんみたいにたくさんヒット曲を出してきたワケじゃないからね。TMだったら、アルバムで2,3曲で勝負してきたから。駄作を作れない辛さっていうかさ(苦笑)。10曲作れれば、そのうちの1曲でもいい曲があればいいんだろうけど、それが出来ないプレッシャー。僕の書く枠が決まっていて、それが絶対にいい曲でないといけないっていうね。」(木根尚登)


 FINAL公演ラストの「Fool On The Planet (青く揺れる惑星に立って)」の夕焼けの映像シーンで、空を横切る飛行機雲が印象的だった。あれはオープニング映像で小室哲哉が乗っていたセスナだったりするのだろうか?


「そういう風にくっつけたの(笑)。あれはロンドンのヒースロー空港から飛び立ったイメージだよね。あの飛行機雲は一時間くらい待っていたかな。みんな海外で撮ったと思ってるんじゃないのかな? あと『I am』直前で天を指差して、母船(宇宙船)とコンタクトをしているんだけど、あれは12年の武道館の最初に戻る流れだよね。そこから始まったからね。TMは、エンターテインメントの“ラボ”なんですよ。場所っていう意味だけじゃなくて、動きから何から全てが“ラボ”。実験室みたいなことと思ってもらえればいいのかなぁ。なので、一回も振り返りっていうか思い出っていうので作った作品はないですからね。」(小室哲哉)


以上、メンバー発言は公式パンフレット『TM NETWORK 30th FINAL ~ANOTHER MEETING~』より抜粋


・究極のフィクション・プロジェクト、TM NETWORK


 ……TM NETWORKの歴史における重要ナンバー「Fool On The Planet (青く揺れる惑星に立って)」を終えたラストシーン。ステージ上は光と煙に包まれ、TM NETWORKのメンバーは手を振りながら無言のまま異空間へ消えていった。


 その後に流れる、エンドロールのラストに注目して欲しい。最期まで目を離してはならない。TM NETWORKの歴史において重要アイテムだった“バトン”。モニター上にあらわれた秘密のコード。映画『2001年宇宙の旅』におけるモノリスのような存在であった“バトン”は、僕らの手に委ねられた。そして究極のフィクション・プロジェクト、TM NETWORKは30年の歴史を経て、ひとまずその活動を終えたのだった。(ふくりゅう)