2015年11月25日 12:12 弁護士ドットコム
赤いボールペンで大きく斜線が引かれた遺言書の効力が争われた裁判で、最高裁第2小法廷は11月中旬、「一般的な意味に照らして、遺言の効力を失わせる意思の表れだ」として、遺言書は無効という判断を示した。無効を求めていた原告の勝訴が確定した。
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報道によれば、裁判は、広島市の80代の開業医の死後、診療所の金庫に保管されていた遺言書をめぐって争われていた。遺言書は自筆で書かれていて、自宅や病院の土地・建物、預金など財産の大半を長男に相続させるという内容だった。
遺言書の日付は、開業医が亡くなる16年前のものだったが、左上から右下にかけて、文字の上から赤色のボールペンで大きく斜線が引かれていた。そこで、相続の対象から外れた長女が「父が書き損じた年賀状にも同じように斜線がひかれている。遺言書は無効だ」と提訴していた。
1、2審は、斜線を引いたのは父親と認定したが、「文字が読める程度の消し方では遺言を撤回したとは言えない」として遺言書は有効だとしたため、長女が上告していた。
最高裁は、1、2審とは逆に、長女の主張を認めて、赤い斜線の引かれた遺言書は「無効」だと判断した。今回の判決を、弁護士はどのように評価するのだろうか。相続問題に詳しい高島秀行弁護士に聞いた。
「今回の最高裁判決は、文面が読める状態で遺言書の内容を消した場合は『破棄』とみなされるのかどうか、という学説上の争いに、決着をつけたものです」
高島弁護士は、このように指摘する。
「民法1024条には『遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については遺言を撤回したものとみなす』との規定があります。
『破棄』とは、一般的に言う廃棄という意味で、もともとは破り捨てるなど遺言書の形を物理的に破壊する行為を想定しているものです。また、解釈上は、黒く塗りつぶしたりして文面を読めないような状態にすることも含むと考えられてきました。
しかし、本件の斜線のように、文面が読める状態で消した場合を含むかどうか、学説上争いがありました。
というのも、同じ民法の968条が、他人が簡単に遺言内容を変えることができないように、遺言書の訂正・変更は、変更した旨を遺言書に書いて、署名捺印した上で、変更箇所に印鑑を押さなければならないと規定しています。そのため、変更の場合と破棄の場合で、バランスを取る必要があるからです。
そこで、文面が読める状態で消した場合は『破棄に該当する』という考え方と、『変更に該当するとして変更の要件を満たすことが必要である』という考え方に分かれていました。
今回の最高裁判決は、破棄に該当すると判断して、この争いに決着をつけたものです」
また、高島弁護士は遺言書を変更する際の注意点も指摘する。
「今回の最高裁判決は、赤い斜線で消された遺言書も『無効』とみなしましたが、本来、自分で全文を書く自筆証書遺言を撤回する場合は、破って捨ててしまうか、きちんと遺言書に撤回する旨を書いて、日付を書いて、署名捺印をすることが必要となります。
一般的に、自分で書く自筆証書遺言は、公証役場で作成してもらう公正証書遺言と比べて、作成に費用がかからず手軽に作成できますが、遺言書が紛失や焼失してしまえば存在が証明できずに無効になってしまいます。
また、専門家が作成していないので、遺言書の文面の解釈をめぐって争いとなることがしばしばおきます。遺言書を作成する際は、弁護士に相談した上で、公正証書遺言にすることをお勧めします」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
高島 秀行(たかしま・ひでゆき)弁護士
「相続遺産分割する前に読む本」「訴えられたらどうする」「企業のための民暴撃退マニュアル」(以上、税務経理協会)等の著作があり、「ビジネス弁護士2011」(日経BP社)にも掲載された。ブログ「資産を守り残す法律」を連載中。http://takashimalawoffice.blog.fc2.com/
事務所名:高島総合法律事務所
事務所URL:http://www.takashimalaw.com