今月初旬、フランスに本拠地を置くF1専門サイト「F1i.com」がロータスの小松礼雄チーフ・レースエンジニアのハースへの移籍を報道。関係者への取材を重ねた結果、これが事実であることが判明した。
2006年にロータスF1チームの前身であるルノーへ加入した小松エンジニアは2008年にビタリー・ペトロフのレースエンジニアに就任。2012年から2014年の3年間はロマン・グロージャンとともに中堅チームながら表彰台を獲得する実績を重ねた。小松エンジニアはロータス加入当初はクラッシュとペナルティばかりで「クラッシャー」「オープニングラップの狂人」とまで言われたグロージャンを“更正”させ、トップドライバーのひとりへと育てた。その手腕はF1界でも広く知られ、小松エンジニアにはライバルチームからヘッドハンティングの噂が絶えなかった。
ロータスは来季、エースドライバーのグロージャンがアメリカの新F1チーム、ハースに移籍することが発表された。現在も在籍しているパストール・マルドナドが中心となり、新たに今季リザーブを務めるジョリオン・パーマーがレギュラードライバーとなるが、ドライバーのパフォーマンスが大きくダウンすることは必至。さらにルノーによる買収の基本合意が発表されたものの、その後の進展は明らかにされず、チーム体制も不透明なままとなっている。結果、小松エンジニアは苦楽をともにしたグロージャンと同じハースF1へ移籍を選択したようだ。
ハースF1は、2016年からF1に新規参戦。アメリカ主導のチームによる挑戦は30年ぶりとなる。北米最大の人気シリーズNASCARに参戦するスチュワート-ハース・レーシングの共同オーナーを務めるジーン・ハースがチームオーナーに就き、旧ジャガー・レーシングおよびレッドブルでテクニカルディレクターを務めたギュンター・シュタイナーが代表としてチームを指揮。レッドブルでデザインチームのボスを務めたロブ・テイラーがチーフデザイナーを務める。
テクニカル面では来季フェラーリからパワーユニットの供給を受けるだけでなく、フェラーリのテクニカルパートナーとして足回りやブレーキを含めて手厚い供給を受けることが明らかになっている。シャシーはイタリアの名門ダラーラが制作を担当。競争の激しいF1では新興チームがすぐに活躍できるほど甘くはないが、すでにマシン、人材ともに中堅クラスのパフォーマンスがあるとの見方もあり、ここに小松エンジニアが加わることによって、ハースF1はさらにコンペティティブなチームになる可能性がある。
関係者の話によると、ハースF1は来季テクニカルディレクター職を空席にするという。フェラーリのバックアップとダラーラのシャシーがあれば、テクニカルディレクターは必要ないとの判断だろう。細かなアップデートパーツなどはロブ・テイラー率いるデザインチームが開発を担う。
小松エンジニアは現在のロータスでの役職と同じく、チーフ・レースエンジニアとしてハースF1に加入する見込み。ギュンター・シュタイナー代表の直下として、ロブ・テイラーなどと肩を並べる首脳陣クラスの立場となって、現場を牽引することになる。
今季の最終戦アブダビGPは小松エンジニアにとって、ロータス最後のレースとなる。日本人エンジニアとして新たなチャレンジを選択した小松エンジニアの今後の動きとともに、来季のハースF1は日本のF1ファンにとって身近な存在になりそうだ。