2015年11月24日 12:11 弁護士ドットコム
自民党税制調査会(宮沢洋一会長)は11月20日、党本部で総会を開き、2016年度税制改正の作業を本格的に始めた。専業主婦がいる世帯などの税金の負担を軽くする「配偶者控除」の縮小・見直しについては、見送られる方針だという。
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報道によると、政府は税制改正で、現行の制度を見直して、妻の収入額によらず、夫の収入から一定額を差し引く「夫婦控除」を導入する案を検討してきたが、専業主婦世帯が増税になるケースがあるため、自民・公明党内で慎重論が根強かった。
配偶者控除は「女性の社会進出を妨げている」として、見直しの議論がたびたび起きているが、なぜ、実際に見直しが進まないのだろうか。新井佑介税理士に聞いた。
「まず配偶者控除の仕組みについて説明しましょう」
新井税理士は次のように解説する。
「給与所得者を前提とすれば、給与収入が103万円以下の配偶者を扶養することにより適用ができる所得控除のことです。夫の課税対象となる所得から38万円分を減らすことができます。ちなみに住民税については33万円分を減らすことができます。
この103万円がいわゆる第1の壁である「103万の壁」と呼ばれています。103万円以下の給与収入になるように業務量をセーブすることで、配偶者控除の適用をうけるほうが、世帯全体の手取額としては有利になる場合が多くなるからです。
一方、税制面のほかに、社会保険面では、配偶者の給与収入が130万円を超えた場合に社会保険の扶養から外れてしまいます。この場合、自らが保険料を負担するため、世帯全体の手取額としては減少してしまう結果になります。この130万円がいわゆる第2の壁である『130万の壁』です」
では、なぜ見直しが進まないのか。
「今後、これら2つの壁を見直しても、女性が安心して働くことができる環境が整っていなければ『仏作って魂いれず』となることが分かっているからでしょう。さらにその奥にある問題に目を向けることが必要です。
というのも、小さい子どもがいる家庭の女性が社会にでて働くためには、その女性の代わりに誰かが子供の面倒を見る必要があります。その役目を担うのが、夫や保育施設などです。
しかし、男性が育児休暇を取得することや就労体系を時短勤務にすることは、周囲の理解不足や人事評価の関係などの理由から、いまだ日本社会ではなじんでいないのではないでしょうか。また、保育施設の整備も国策として取り組んでいますが、待機児童問題も解消の糸口が見えていないのが現状です。
少子高齢化時代を迎えるに際して女性の力が必要なことは明白です。しかし、配偶者控除見直しの慎重論を乗り越えられない背景には、我が国が抱える働き方の在り方や子育てに対する社会の理解といった問題が根深くあるのではないでしょうか」
新井税理士はこのように話していた。
【取材協力税理士】
新井 佑介(あらい・ゆうすけ)公認会計士・税理士
慶応義塾大学経済学部卒業。金融機関との金融調整から新設法人支援まで、幅広く全力でクライアントをサポート。趣味はサーフィン、1児のパパ。
事務所名 : 経営革新等支援機関 新井会計事務所
事務所URL:http://shozo-arai.tkcnf.com/pc/
(弁護士ドットコムニュース)