トップへ

痴漢に遭遇!「犯人を捕まえた」私と犯人のそれから

2015年11月23日 07:31  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

(弁護士ドットコムの法律相談コーナー「みんなの法律相談」に寄せられた相談をもとに弁護士ドットコムライフ編集部が作成しました)


【関連記事:付き合っていた男性が既婚者だった!私を騙した彼を訴えられますか?】


あとを絶たない痴漢被害。弁護士ドットコムの法律相談コーナーには、「自分で犯人を捕まえた」という猛者が!ただ、「今後、犯人はどうなる?」「また出くわしたら怖い・・・」と一抹の不安も抱えているようです。


そこで今回の記事では、電車内で痴漢被害に遭ったときの対処法を解説。そもそも、警察でもない一般人が犯人を捕まえていいの? 捕まえた犯人はその後、どうなるの? 平賀 睦夫弁護士に聞きました。



Q. 電車内で痴漢に遭遇しました


先日、電車内で痴漢にあいました。駅に到着し、すぐに自分で捕まえ、他の男性の協力もあり駅中の警察に連れていきました。すでに被害届も出しています。


私は犯人の服装も顔も直視しており、本人も犯行を認めているそうで、現行犯逮捕となるみたいです。


今後の流れはどうなるのでしょうか?犯人がどうなったのかなど、ちゃんと教えてもらえるのでしょうか?通勤で同じ電車を使わなくてはいけないこともあるので、また出くわしたら・・・と思うと怖いです。


一般人でも「逮捕」が可能。犯人の刑事処分の結果も教えてもらえる


今回のように、「電車で痴漢に遭い、駅に到着してすぐに自分で捕まえた」というケースを「現行犯人逮捕」といいます。


あまり知られていないかもしれませんが、警察官だけでなく、一般の人でも「逮捕」することができます。


現行犯人とは、刑訴法上では「現に罪を行っている者、現に罪を行い終わった者」を指します。「現行犯人は、何人でも、逮捕状なしでこれを逮捕することができる」とされるからです。


ただ、一般人が現行犯人を逮捕した場合、すぐに駅員や警察のもとに連れていく必要があります。刑訴法上で「一般人が現行犯人を逮捕したときは、直ちにこれを検察官又は司法警察職員に引き渡さなければならない」と規定されているからです。


ところで、逮捕するときに犯人から抵抗を受けることもあるでしょう。その際の状況から見て、社会通念上逮捕のため必要かつ相当と認められる限度内であれば、実力行使ができるという最高裁判例もあります。とはいえ、過度な実力行使をすると、自分が罪に問われる場合もありますから、注意しましょう。


ただ、痴漢の被害者が、直接、犯人を逮捕することはなかなか大変なことかと思います。


自分で逮捕できない場合は、「痴漢です」と言うなど、周りの人に状況がわかるような態度をする必要があるでしょう。社会がより安全であるように、犯罪を許さない勇気を持ってほしいと思います。現行犯逮捕は、痴漢の被害者自身に限らず、痴漢被害を目撃した周りの人がすることもできます。


現行犯逮捕された犯人は、48時間以内に検察官に送致され、その後24時間(合計72時間)以内に検察官による勾留(犯人を刑事施設に拘束すること)の請求か、公訴提起(起訴のこと)または釈放の手続が行われます。


勾留請求が認められると、犯人はまず10日間勾留されます。裁判官がこれ以上の身柄拘束は必要ないと判断すれば釈放されますが、場合によっては、さらに10日間、勾留を延長される可能性もあります。


では、痴漢の被害者は、犯人に対して何ができるのでしょうか?


まず、犯罪によって被害を受けた人は、「告訴」することができます。告訴とは、犯罪の被害者やその法定代理人などが、捜査機関に対し、犯罪があったことを申告して、犯人を処罰してほしいと求める意思表示です。


ただし、告訴は「犯人の処罰を求める意思表示」ですから、単なる被害届や顛末書(トラブルの一部始終を説明した文書)の提出だけでは告訴したことにならず、捜査機関への申告が必要です。ここは要注意です。


ちなみに、被害届や告訴を提出したからといって、痴漢の犯人に対して慰謝料請求ができなくなる、ということはありません。ただ、刑事手続の中で被害者側から慰謝料を求めることは一般的ではないといえます。お金目当ての事件かと疑われる恐れもあるでしょう。


犯人が痴漢行為を認めている場合には、情状をよくするために犯人の側から示談を求め、慰謝料を支払うことがあります。示談金の相場は一概には言えませんが、事案の内容によって数十万円から百万円程度でしょう。


さて、痴漢の被害に遭った側としては、電車などで再び犯人に出くわすのではないか、と心配に思う人も少なくないと思います。被害者自身が電車の路線や時間帯を変えることなども大事ですが、場合によっては、示談書で、犯人に対してそのような対応を求めることもできるでしょう。


また、「逮捕後の犯人の刑事処分の結果」については、平成19年12月1日以降、被害者等に対し、検察庁から事件の処理結果や公判期日、刑事裁判の結果などを通知する制度ができました。


このような制度によって、刑事司法について、被害者を含む国民の理解を得ることができれば幸いです。




【取材協力弁護士】
平賀 睦夫(ひらが・むつお)弁護士
東京弁護士会所属。日弁連・人権擁護委員会、同・懲戒委員会各委員、最高裁判所司法研修所・刑事弁護教官等歴任。現在、(公財)日弁連交通事故相談センター評議員、(一財)自賠責保険・共済紛争処理機構監事、日本交通法学会理事等
事務所名:平賀睦夫法律事務所
事務所URL:http://www.houritsujimusyo.com