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キスマイがつんく♂楽曲でチャート1位に 2位アンジュルム楽曲からハロプロの今後を読む

2015年11月22日 17:01  リアルサウンド

リアルサウンド

アンジュルム『出すぎた杭は打たれない/ドンデンガエシ/わたし』

参考:2015年11月09日~2015年11月15日のCDシングル週間ランキング(2015年11月23日付)


 今週のシングルランキングは、1位にKis-My-Ft2の『最後もやっぱり君』、2位にアンジュルム『出すぎた杭は打たれない/ドンデンガエシ/わたし』、3位がEXO『Love Me Right ~romantic universe~』となった。


 日本デビューシングルが記録的なヒットとなっている次世代K-POPグループEXOや、4位と9位にランクインしているアニメ『ご注文はうさぎですか??』主題歌などトピックは多いが、今回の記事ではアンジュルムの楽曲について分析していきたい。


 というのも、今回のランキングは、単にアンジュルムだけでなく、つんく♂が総合プロデューサーを“卒業”した現在のハロー!プロジェクト全体の状況を象徴するような結果にもなっているからだ。


 当サイトでもすでに詳しく論じられているように(参照:http://realsound.jp/2015/09/post-4522.html)、つんく♂は今年9月に発売した書籍『だから、生きる。』にて、現在ハロプロの総合プロデューサーの座を退いていることを明かしている。今年初頭に咽頭がんの手術を行い声帯を摘出した健康上の問題がその大きな理由だろう。


 そして、アンジュルムは2014年12月に前身の「スマイレージ」から現在のグループ名に改名している。2015年には『大器晩成/乙女の逆襲』、『七転び八起き/臥薪嘗胆/魔法使いサリー』、『出すぎた杭は打たれない/ドンデンガエシ/わたし』という3枚のシングルをリリースしたわけなのだが、収録曲は全てつんく♂以外の手によるもの。スマイレージ時代はシングル曲の作詞・作曲を全てつんく♂が手掛けてきたことを踏まえても、去年末からのハロー!プロジェクトの変化、そして2015年の「ポストつんく♂体制」を最も象徴するグループがアンジュルムということになる。


 そして現在、グループの新たな代表曲となっているのが、つんく♂が絶大な信頼を寄せる“後継者“の一人である中島卓偉のペンによる「大器晩成」だ。パーカッションやカッティング・ギターを活かした生音の高速ファンク・チューンのこの曲。70年代に多用されたトークボックスを使うなど本物感あるこだわりのアレンジで、かなりのクオリティの高さを持つ一曲。


 続くシングルに収録された「臥薪嘗胆」も、やはり高速ファンク・チューン。うねるベースラインに派手なホーン・セクション、歌の入りでメンバーの唸り声を入れるなど工夫を見せるアレンジで聴き所が多い。こちらは、こぶしファクトリーの「ドスコイ!ケンキョにダイタン」で度肝を抜くなど2015年になって数々のハロプロ楽曲を手掛けるようになりその正体が話題を呼んでいる新人作家・星部ショウのペンによるものだ。


 というわけで、アンジュルムの新たな曲調の路線が定まったと思ったところに、この『出すぎた杭は打たれない/ドンデンガエシ/わたし』。驚くのは曲調の大きな変化である。王道メタルを意欲的に導入してきているのだ。「出すぎた杭は打たれない」のリズムはこれまでの16ビート基調ではなく、高速2ビート。ラウドに疾走するギターリフから始まりメロスピ(メロディック・スピード・メタル)に特有の“クサメロ”が飛び交う。派手なツインリードのギターソロもある。


 「ドンデンガエシ」の方も直球のメタル・アレンジになっている。生音のドラムと打ち込みのエレクトロが共存するサウンドだ。


 「出すぎた杭は打たれない」は、LoVendoЯの魚住有希が作曲。元モーニング娘。の田中れいながバンド活動を行うにあたって4000名の中から選抜されたギタリストだ。一方「ドンデンガエシ」は、テレビ朝日系番組『musicるTV』の企画「ミリオン連発音楽作家塾」に第三期生として参加し、℃-uteへの楽曲提供で最終選考まで残った新人作家・宇宙慧が作曲を手掛けている。


 こうして、様々な方面から新しい才能をフックアップし、曲調も固定せず「ポストつんく♂」体制を確立するための実験場のようになっているのが、今のアンジュルムと言えるのではないだろうか。


 なお、前回のチャート分析記事(http://realsound.jp/2015/10/post-5048.html)でも触れたとおり、今週の1位となったKis-My-Ft2のニューシングル『最後もやっぱり君』は、つんく♂が作曲を手掛けたナンバーである。ランキング状況からは、親離れをして新たなアイデンティティを作り上げようとしているアンジュルムの前に作家としてのつんく♂がジャニーズと手を組み巨大な壁として立ちふさがっているような構図が読み取れる。


 なかなか興味深い状況だ。(柴 那典)