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錦戸亮と神木隆之介のコンビ絶好調ーー『サムライせんせい』における絶妙なバランス感を読む

2015年11月20日 19:51  リアルサウンド

リアルサウンド

『サムライせんせい』公式サイトより

 なるほど、これは新しい坂本龍馬かもしれない。現在放送中のドラマ『サムライせんせい』(テレビ朝日系)の話だ。錦戸亮演じるサムライが、ひょんなことから150年後の「現代」にタイムスリップ。そのカルチャーギャップに戸惑いながらも、なぜか田舎町の学習塾の先生として子どもたちを熱血指導する……というコメディタッチのドラマである。ちょんまげ姿の錦戸と言えば、彼の初主演映画『ちょんまげぷりん』(2010年/監督:中村義洋)がすぐに思い起こされるし、「現代にやってきたサムライが繰り広げるコミカルなヒューマンドラマ」という内容も、なんだか『ちょんまげぷりん』と似ているような。そして、去年放送された宮藤官九郎脚本のドラマ『ごめんね青春!』でも、先生役をやっていたよね? ということで、正直さほど期待しないで観始めたこのドラマだけれど……ややや、これが意外と面白い。


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 そのポイントは、錦戸亮演じるサムライが、ただのサムライではないところにある。彼の役どころは、実在した幕末の志士・武市半平太なのだ。尊王攘夷論を唱え、「土佐勤王党」を率いた、あの武市である。史実の通り江戸末期、志半ばにして切腹を命じられた彼が、再び意識を取り戻したら、そこは150年後の世界だったという話。見慣れない周囲の様子に呆然とする武市は、やがて近隣で学習塾を営む佐伯家に辿り着き、その世話になる。元小学校校長の祖父・真人(森本レオ)、村の役場で働くその孫・晴香(比嘉愛未)、彼女の弟で無職の寅之助(藤井流星)という佐伯家の面々と、寅之助の彼女・サチコ(黒島結菜)。彼らに助けられながら、学習塾の臨時講師として働くようになった武市だが、そんな彼に熱視線を送る、謎の人物がいた。「楢崎」と名乗るフリーライターだ。神木龍之介演じる楢崎は、やがて武市と対峙する。彼こそは、武市の幼馴染であり親友でもある、坂本龍馬その人だったのだ(「楢崎」は龍馬の妻・お竜の旧姓)。しかし、なぜ?


 武市同様、その理由は分からないものの、なぜか彼より一足先に「現代」へとタイムスリップしてしまった龍馬。奇跡の再会に喜びを爆発させるふたりだが、未だにちょんまげ和装の武市とは異なり、今やすっかり現代に馴染み、言葉づかいはもちろん、タブレット端末までも器用に使いこなす龍馬。もともと思考が柔軟で、新しもの好きの龍馬とはいえ、この馴染み方は尋常でない。というか、思いっきり「軽い」のだ。これまで錚々たる俳優たちによって演じられてきた坂本龍馬。最近では、内野聖陽(『JIN-仁』)、福山雅治(『龍馬伝』)、伊原剛志(『花燃ゆ』)などが演じていたことも記憶に新しい。恐らく、最年少に近い年齢で演じる神木の龍馬は、そのいずれとも異なる軽やかさを打ち放っているのだった。第4話では、なぜか女装まで披露しているし。しかも、メイド服。って、一体どんな話だ? しかし、これがものすごく良いのだ。


 謹厳実直な武市を演じる錦戸と、これまで以上に自由奔放な龍馬を演じる神木。そのバランス感が、なんとも絶妙なのである。サムライ姿が似合うのは『ちょんまげぷりん』で証明済みだが、そこからさらに年月が経ち、凛々しさに加え貫禄までも身につけた錦戸。悪党相手に啖呵を切るシーンなど、かなりサマになっている。一方、その愛らしさを全開にしながら、錦戸武市に絶妙なタイミングでツッコミを入れて行く神木龍馬。土佐弁で豪快に語り合うふたりの姿は、間違いなくこのドラマ最大の鑑賞ポイントと言えるだろう。というか、年上の同性とコンビを組んだときの神木は、いつも以上に活き活きと光り輝いている。これ、最近どこかで観たぞ。そう、映画『バクマン!』でタッグを組んだ、佐藤健との関係性のように、キャッキャウフフ盛り上がっているのだ。たとえ、同性であろうとも、それはまさしく「眼福」と呼ぶに相応しいシーンと言えるだろう。


 それだけではない。初めて武市と対峙したときに見せた、神木の華麗なる太刀さばきとしなやかな身のこなし。恐らく、映画『るろうに剣心』の現場で体得したであろうその所作は、思わず刮目してしまうほどカッコ良かった。対する錦戸武市も、実に堂々たるものである。さらに加えて、神木龍馬は、何やら気になるミステリアスな横顔も、次第に覗かせてゆくのだった。第1話で武市に成敗された逃走中の殺人犯をはじめ、世間を騒がせている凶悪犯たちが軒並み閲覧している謎のホームページ「平成建白書」とは、一体何なのか。そして、第4話の最後、そのページにこっそりログインし、虚空を見つめる神木龍馬の表情は何を意味しているのか。これは彼が作ったページなのか? それとも、彼ら同様、過去から現代にやってきた、別の誰かの仕業なのか? いずれにせよ、基本的なトーンは、緩くて軽いコメディでありながら、時折見せる殺陣のカッコ良さや謎に満ちた「平成建白書」の存在など、締めるところはきっちり締める『サムライ先生』。そこで錦戸・神木コンビは、どんな新しい武市・龍馬像を描き出していくのだろうか? 非常に気になるところである。(麦倉正樹)