トップへ

ドラマ版『釣りバカ日誌』、なぜ若き日のハマちゃんを描く? テレ東・金曜8時枠の特殊性

2015年11月20日 12:37  リアルサウンド

リアルサウンド

『釣りバカ日誌 新入社員 浜崎伝助』公式サイト

 『釣りバカ日誌』と言えば、原作:やまさき十三、作画:北見けんいちによる人気漫画を西田敏行主演で松竹が映画化した人気シリーズ。ゼネコン会社・鈴木建設の営業課に勤めるハマちゃんこと浜崎伝助は、仕事はできない万年ヒラ社員だが釣りの腕だけは天下一品の自他ともに認める「釣りバカ」だ。一方、ハマちゃんと仲良しの釣り仲間のスーさんこと鈴木一之助は、実はハマちゃんが務める鈴木建設の社長。本作は、ハマちゃんとスーさんという「釣り」でつながった年の離れた男同士の友情を描いた人情喜劇だ。


参考:クリステン・リッター&レイチェル・テイラーが語る、『ジェシカ・ジョーンズ』とNetflixの挑戦


 『釣りバカ日誌』は、『男はつらいよ』シリーズと並ぶ人気シリーズだったが、第22作目となる『釣りバカ日誌20 ファイナル』で2009年に完結している。スーさんを演じた三國連太郎が2013年に亡くなったこともあり、二度と新作が作られることはないかと思われていたが、今回、ハマちゃんの新入社員時代を描いた『釣りバカ日誌~新入社員 浜崎伝助~』がテレビドラマで作られることとなった。新しく若き日のハマちゃんを演じるのは濱田岳。そして、スーさんを演じるのは、映画でハマちゃんを演じていた西田敏行である。


 物語の舞台は2015年の現在。新入社員のハマちゃんは釣り堀で自分の会社の社長と知らないまま、スーさんと仲良くなり釣りに行くことになる。第1話から第3話までは、ハマちゃんはスーさんの正体に気づかずに、先にスーさんが自分の会社の新入社員だと気づいてしまう。自分の立場を考えて、何度もハマちゃんと距離を取ろうとするのだが、年をとって知った釣りの楽しさとハマちゃんの人懐っこしさもあって、中々離れることができない。そして、第3話のラストで、ついにスーさんの正体がハマちゃんに知られてしまう。このあたりの関係性が出来上がっていく様は連続ドラマならではの面白さがある。


 また、ハマちゃんが若者となったことで、スーさんの中にある社長の孤独がより強調されている。物語自体が地位も名誉もあるが、孤独なスーさんは、社会的地位とは関係なく釣りという趣味を通じて知り合った、親友のハマちゃんのことを、いつも気にしている。西田が演じるスーさんは年齢や本人の資質もあってか、まだ男としてギラギラしている。社長として会社の会議で部下に当たる部分の言い回しなど、嫌味ったらしくねちねちとしていて、はっきり言って嫌な奴だ。しかしそれは、社長として振る舞う以上、弱みを見せられないからである。だからこそ、自分の弱い部分を素直に出せるハマちゃんの前ではデレデレと甘えたり、逆に子どもっぽくいじけてケンカもできてしまう。そんなスーさんに対して、釣りバカとして今までと同じように接するハマちゃんの素直な明るさが実にチャーミングで、二人のやりとりを見ているだけで微笑ましい気持ちになれる。


 後にハマちゃんの奥さんとなる小林みち子(広瀬アリス)とのケンカしながらもどこか楽しそうなやりとりも素晴らしい。近年は学生役から大人の働く女性を演じるようになってきたが、ついに当たり役を引いたなと、ファンとしてはうれしく思う。


 このようにドラマ版には、まだ人間関係ができあがっていないからこその面白さがあり、今後、どうなるかわかっていても、ついつい毎回楽しく見てしまう。チーフ演出には映画版を多く手掛けた松竹の朝原雄三が入っているため、映画版の空気をうまく引き継いでいる。


 それにしても、『釣りバカ日誌』のようなドラマが成立するのは、本作が放送されているテレビ東京の金曜夜8時のドラマ枠が持つ特殊性も大きいだろう。テレビ東京系のドラマというと『モテキ』や『アオイホノオ』など、「ドラマ24」を筆頭に深夜枠こそ数々の話題作を輩出しているが、夜の7時~11時のプライムタイムにおいてはなかなか、ドラマ枠が定着せずに苦戦している。高い評価を受けた『鈴木先生』を生み出した月曜夜10時のドラマ枠も、視聴率がふるわず、数本で撤退している。
 
 そんな中、例外的に成功しているのが、金曜夜8時枠である。この枠の第一作となったのは北大路欣也、泉谷しげる、志賀廣太郎が主演を務めた『三匹のおっさん』だ。三人の老人が、自警団を結成して街にはびこる悪党と戦うという本作は、子どもでもわかる勧善懲悪の物語と、他のドラマ枠ではなかなか主人公にならない高齢者の男性を主人公にしたことでスマッシュヒットとなった。それ以降、視聴ターゲットを、子どもと高齢者に絞りこむことで、独自のドラマ枠として定着している。テレビ全体の視聴者が高齢化しているとはいえ、ここまで徹底できたのはテレ東だからだろう。


 『釣りバカ日誌~新入社員 浜崎伝助~』も、主人公こそ20代の新入社員だが、物語の視点はスーさんを筆頭とする上司たちの側にある。そのため、かわいい若者を愛でたい熟年男性の欲望が根底にある少し変わったイケメンドラマだとも言える。つまり、ハマちゃんは、高齢男性にとっての理想の若者なのだ。(成馬零一)