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乙女新党、清 竜人プロデュースで発揮した真価 アイドルシーンの特異点となる一曲に

2015年11月18日 18:11  リアルサウンド

リアルサウンド

乙女新党

 乙女新党が、ニューシングル『ツチノコっていると思う…?♡』をリリースした。


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 7月に赤坂BLITZでのワンマンライブを成功させ、フレッシュで元気なキャラクターとはっちゃけた曲調でアイドルシーンの次の注目株としてファン層を拡大しつつある彼女たちにとって、新曲は強力な一手になるはず。相当ぶっ飛んだ内容のナンバーだ。「何でもアリ」が前提になっているここ数年のアイドルソングの中でも「この発想はなかった」と唸らされる。


 なにしろ、曲のテーマが「ツチノコ」である。〈Hey! You! Answer My Question!〉と始まる曲は、曲名の通り主人公の女の子が恋する相手にひたすら「ツチノコっていると思う?」と問いかける内容。〈未確認生物達がさ 密かに暮らしてるのかな…?〉〈ツチノコってさ どんな色してるのかな? 食べてみたら美味しいのかな?〉と疑問形の歌詞が続き、サビでは〈いると思う?(いる!?)いないと思う?(いない!?)〉と繰り返す。


 しかも、さんざん問いかけた挙句、サビのラストでは〈そんなこと重要じゃない〉〈真実よりも あなたを 信じたい お年頃なの…♡〉というラインに着地する。さらに曲の最後には「ツチノコ♡」「イエティ♡」「オゴポゴ♡」「チュパカブラ♡」「ケルピー♡」「ネッシー♡」と未確認生物の名前によるコール&レスポンスが仕込まれている。


 曲調は、ミュージカルに通じるキラキラとしたファンタジックな感覚。キャッチーなメロディもあいまって、キャピキャピとした楽しげなイメージが伝わってくる。乙女新党の6人のキャラクターにも似合っている。アッパーなテンションでライブ映えするサウンドでもある。先日に開催された清 竜人25との2マンイベントでも、ダンスやツチノコポーズやコール&レスポンスでかなり盛り上がっていた。が、帰り道、よくよく考えて「なんでこの子たち、こんなこと歌ってるんだろう……?」と我に返る。


 熱狂からふと醒めた時に訪れるこの「あれ……?」という感じこそ、この曲の醍醐味。この曲の真価は、いわば「カラフルな無意味」にある。そして、そういうものをしれっと作ってしまうことこそが、この曲の作詞・作曲、プロデュースを手掛けた清 竜人の天才性の証だと思う。


 というのも、すっかり飽和化した女性アイドルのシーンには「意味」が氾濫しているからだ。さまざまなグループが、そのグループなりのコンセプトを持って活動している。それが差別化のキーになる。たとえばそれは音楽ジャンルだったり、グループの設定だったりする。そこにちなんだ独特なファン呼称が生まれたりもする。


 乙女新党にもそれはもちろんある。彼女たちは「ポジティブな“2軍”」というコンセプトで活動するアイドルユニットとして2012年に結成。2014年に現在の6人編成となり「わたしたちが日本を元気にします!…できる範囲で。」という乙女二フェスト(乙女のマニフェスト)を掲げて活動している。ずいぶんふわっとしたコンセプトだが、それでも、そこには「意味」が生じる。「ポジティブ」「元気」というキーワード、「何かを目指して頑張る」というイメージが、アイドル本人とファンたちの共有するストーリーとなる。「2学期デビュー大作戦!!」や「ビバ!乙女の大冒険っ!!」など、これまでのシングル曲もその物語に沿った歌詞が中心だ。大袈裟な言い方をすると「意味」は「重力」となるのだ。


 清 竜人もやはり、自身のグループでは「一夫多妻制」という設定やコンセプトありきで楽曲を制作している。彼は他の声優やアイドルへの曲提供も行っているが、たとえばでんぱ組.incに提供した「Dear☆Stageへようこそ♡」や「まもなく、でんぱ組.incが離陸致します♡」は、でんぱ組.incのストーリーやコンセプトを彼なりに咀嚼し吸収して書いた曲だ。


 そう考えていくと、「ツチノコ」というキーワードが、いかに「ひょうたんからコマ」的なものか、わかるだろう。編曲はPlus-Tech Squeeze Boxのハヤシベトモノリ。ストリングスやホーンが高らかに鳴り響き、とにかく色鮮やかに、細かい音が詰め込まれたフューチャーポップの濃密なサウンドは、彼の作家性がいかんなく発揮されたものでもあるはずだ。


 百花繚乱のアイドルシーンの中でも、ここまで「カラフルな無意味」を味わえる楽曲はほとんどない。乙女新党にとっても、2015年のアイドルシーンの中でも、特異点のような一曲になるのではないだろうか。(柴那典)