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ユビキタスが選択した、バンドが歩んでいく道「やっとここから新しい挑戦ができる」

2015年11月18日 17:21  リアルサウンド

リアルサウンド

ユビキタス

 ユビキタスにとって初のフルアルバムが完成した。大阪を拠点にしながらライブを中心に活動を続けている3ピースロックバンドである彼らは、歌ものとして楽曲の強い魅力と、ストレートなようで実は多くのアイディアが込められたサウンドによって、着実に支持を伸ばしている存在だ。それもこの『記憶の中と三秒の選択』では、「空の距離、消えた声」「リフレイン」に代表されるアッパーなロック・ナンバーや「君の季節」のような壮大なバラードなど、音楽性の振り幅を広げているのだ。一方では、「透明人間」のようなメロディアスな歌の魅力も健在。しかし歌の中では、ここから先はどんな決断や選択をしていくのか?という不安や葛藤の心理が強くうかがえ、その揺らめく思いこそが心をつかむ作品となっている。この1年、このアルバムに集中してきたメンバー3人に話を聞いた。(青木優)


・「結成した頃は「3ピースやのに4ピースでやってるような楽曲を作る」という意識があった」(ヒロキ)


ーーユビキタスのこれまでの魅力と新しい要素とのどちらもがあるアルバムだと感じました。バンドとしては、どんな作品にしようと思いました?


ヤスキ:そうですね、結成3年ということが自分らの中では大きかったですね。年内にフルアルバムが出せることになった時から、今までやってきたユビキタスのサウンド、プラス、挑戦的な表現をするというコンセプトでやっていこうという話は、メンバー内でしていて。で、この先が見えてくるような楽曲ができたのが、5月に出したシングルの「空の距離、消えた声」なんですよ。この曲は大きかったですね。


ーーはい。どういう点でですか?


ヤスキ:今まではこういう疾走感のあるギター・ロックってなかったんですよね。今の僕たちはライブがすべてで、2014年からはサーキットをやらせてもらったりして、お客さんとの距離をもっと縮めたいと思った時に、もっと突き抜けるような楽曲が欲しくなって。で、正直なところ、自分がこういう曲をやると思ってなかったですけど、この3人で出す音としてしっくり来たというか、「これで勝負できるんじゃないか」っていうところに持っていけたんですよね。で、この曲ができた時に<記憶の中>と<三秒>という言葉がバンと頭の中に出てくるようになったし。今回のリード曲の「ヒーローのつくり方」は、「空の距離~」の疾走感を維持しながら新しい楽曲を制作しよう、というところでできた曲です。


ヒロキ: 「空の距離~」からは、ザ・3ピース!っていう感じの楽曲に変わりましたね。結成した頃は「3ピースやのに4ピースでやってるような楽曲を作る」という意識があったけど、それがこの曲からはこの感じでいきたいな、という形になりました。


ニケ:7月に出した「透明人間」は、これまでのバンドの感じを出したシングルなんですけど、その前の「空の距離~」は、2ndアルバムのツアーやりながら「こういう曲欲しいね」ってできた曲で、「ユビキタスはどんなバンドか?」というのが表現できた曲やと思うんです。これはたぶん前のミニアルバムのツアー・ファイナルで初めて演奏させてもらったんですよね。


ヤスキ:そうかそうか。じゃあ去年の12月か……。


ーーということは、このアルバムの曲はこの1年ほどで書いたんですか?


ヤスキ:いや、もうギリギリです。5月に「空の距離~」をリリースしたタイミングでは、まだ何もできてなかったですね。


ーーそうなんですか? じゃあ、ほとんどはこの半年弱で?


ヤスキ:そうですね。もともとイメージがあって、それがパーツとしてあった曲はあったんですけど、形になってるものはなかったです。でもツアーとかをこなしながら初のフルアルバムを出したい気持ちもあったので……いいプレッシャーやったんですけど、「自分がどこまで戦えるか」というところはありましたね。メンバーにもいろいろ相談したりして、曲の方向性を考えていきました。


ーーどのあたりに苦心しましたか?


ヤスキ:昔に比べて、ふたりがめちゃくちゃ意見するところですかね(笑)。やっぱり、いいものを作りたいんで。昔は僕が100%作って持っていってたんですけど、今ではその前の80%とかの段階でメンバーに相談するようになって。歌詞はニケに見てもらったり、サウンドはヒロキに確認してもらったりしていたらそういうやり方になったので、出来上がるのにもちょっと時間がかかるというか。


ヒロキ:「こんなんが欲しいから作ってきて」とか、ざっくりですけどね。「メランコロニー」とかは、いろんな楽曲を聴かせて「こんな感じの曲があってもいいよね」みたいな話をして出来上がった曲ですし。


ヤスキ:「リフレイン」なんかはヒロキが「サビでウォウウォウ言う曲が欲しいです」って言ったから作った曲ですね(笑)。


ヒロキ:そんな感じです(笑)。「俺らも唄える曲がほしい」みたいな。


ーー(笑)そうですか。ニケさんは?


ニケ:(ヤスキは)曲を弾き語りで持ってきて、次にドラムとボーカルを作るんですよ。一番最後にベースが乗っかるんですけど、その前に歌詞を見るようにしてますね。で、「これ、どういう意味なんかな」「どういう感じでいきたいんかな」とかをヤスキに訊きながら、確認するようにしてます。いつも。歌詞を見るようにしてますね。


ヤスキ:そうやな。僕が書いた歌詞の中の「この言葉でいいんかな?」という箇所を突っ込んでくるんですよ。だから腹立つんですよね(笑)。やっぱ言われた!みたいな。たとえば「透明人間」の<音が鳴る様な物探そう>のところは、最初は違う歌詞やったんですけど、これでいいのかな?と思ってる時に「その言葉以外に表現はないの?」って言われて、一度持って帰らされたっていう。でもそういうことがないと、まとまってこないというか。それは自分もモヤッとしてる部分だったりするので。


ーーなるほど。そうやって3人の意思疎通をとりながら作っているんですね。


ヤスキ:そうですね。結果的にそれで歌詞もサウンドも、いいバランスができるんです。1枚目のミニアルバムの『リアクタンスの法則』の時は僕が持ってったものに味を付けたような流れだったんですけど、去年の『奇跡に触れる2つの約束』は方向性で揉めて、一番衝突が多かったんですよ。いろいろなベクトルがちょっと違ったせいで揉めたんですけど、今回はそれもクリアして、いい形で話し合って作れるようになったというか。


・「『もっとこうしたい、ああしたい』という気持ちがすごくある」(ヤスキ)


ーーサウンド的に、ハッとするようなアレンジがありますよね。


ヤスキ:はい、「キャッチする選択」「奇跡は僕の街で」とかは、僕らならではの遊び心ですね。僕はいろんなことがしたいタイプなんで、途中でレゲエっぽいフレーズを入れたり、ラウドにしたり、変拍子にしたり、要所要所にそういうのがあったほうがフックになってライブで映えるんじゃないかと思いまして。


ーーただ、そうした中でも、あくまで歌が中心というのはブレてないですよね。


ヤスキ:そうですね。気がつくとそこに帰ってきてるというか。ただ、昔は物語がない歌詞を書くのができてたんですけど、最近はちょっと苦手というか……気がつくと自分でも考えさせられるような歌詞になってますね。今回の作品は、自分を奮い立たせるような言葉があるし、あとは、今まではいろんな捉え方ができるように表現してたんですけど、今回は聴く人ひとりひとりと対話してるような曲がほとんどで……そこはすごく変化があったなって自分では感じてるんですけど。


ーーそこは自覚してるんですね。それはどんな変化なのか、自覚してます?


ヤスキ:曲の中の<君>はメンバーだったり、あとはもちろんお客さんを思うこともあるんですけど。今回は、たとえば音楽の神様に向かってたりして、目に見えないものを追いかけてたりするように、ちょっと変わってきました。あとは、今までは<愛>とか<恋>とか<好き>とか全然使わなかったのに、今回すごい使ってますね。


ーーそう、ラブソングが多いですよね。それはなぜなんでしょうか?


ヤスキ:何でなんでしょう(笑)……僕は、音楽は、楽曲として完璧であればいいって思っていて、だから3年前の自分はあったかみがないというか、人が聴いてくれるものなのに、それに対する感情がすごくドライやったんですよ。でもこのふたりと一緒にやることで、そこじゃない部分をいろいろ見せてもらえたというか。人間味のあるメンバーなので、そういうのに触れてきて、気がつくと、恋愛詞になってたりするんです。もしかしたら、自分が興味を持たれたくなってるのかもしれない。もっと気を惹きたい、というか。それがこういう言葉の使い方になっていますね。


ーーただ、ラブソングの形態でも、「この先どうしようか」「これでいいのか」とか、葛藤が見える曲が多いですね。あともうひとつ、アルバム・タイトルにある<選択>ですよね。何をどう選んで生きるのか、どう決断するのか、という気持ちが出てると思います。


ヤスキ:ああ……そうですね。『記憶の中と三秒の選択』というタイトルも、<記憶>が過去、<選択>がこれから僕らが歩んでいく道、みたいな意味でつけたんですけど。迷ってるというか……やっと初のフルアルバムですけど、まだこれから切り開いていかないといけないし……という部分ですよね。選択という言葉、この頃よく使ってるよね?


ニケ:うん、使ってる。


ヤスキ:「とりあえず、これでいいや」ってとりあえず思えることが、つねにないんですよ。貪欲というか、「もっとこうしたい、ああしたい」という気持ちがすごくあるので。だから「やっとここから新しい挑戦ができるかな」という作品ですね。


ーーイライラしてる気持ちも出てますね。「キャッチする選択」とか。


ヤスキ:これは完全にバンドに向けてというか、自分にムチ打つ曲を書いたんです。最後のほうの<期待が膨れてるんだ/失速して終われないんだ>とかは、完全に今、自分らの置かれてる状況とダブらせて書いた歌詞だったりします。ちょうど今回の曲がまだ全然できてない時に制作した楽曲なんで、「この曲からまた新しく爆発力出さなあかんで」っていうのを自分に言うかのように書いたんです。でもこういうふうに思ってる人、世の中にいっぱいいるんだなって思いましたね。これはシングル(「透明人間」)のカップリングでリリースしたんで、これを聴いたお客さんがツイッターとかから「すごくわかります」って声をくれたりしてますし。アップテンポなんですけど、「叱られてる気持ちになりました、ありがとうございます」「明日から頑張ろうと思います」とか(笑)。それが今回のアルバムの起爆剤になりましたね。でも曲がなかなかできなかったですね。イライラしてました。何でや? 何でできへんのやろ?っていう葛藤がすごくて。


ーー何でできなかったんだと思います?


ヤスキ:うーん、迷ってたんちゃいますか?(笑) あと、結成当初に比べて言葉をすごく選ぶようになったので、これでいいのか?と何回も書き直して、それでもできないことが続いたんですよ。その時期、納得いくライブができてなかったのかもしれないし……自分にうまく歯車が合わなくて。何してもしっくり来なかった時期です。


ーー「リフレイン」でも<いつも足りない>と唄ってますよね。全体的に「ここから何か手がかりをつかんで突破したい」という感覚が強いアルバムだと思うんです。


ヤスキ:あ、「リフレイン」は、ややこしいけど、言葉をリフレインしたかったんですよね。ライブメインで作りたい楽曲だったので、「もっとくれよ!」っていうイメージがすごくあって。それで<いつも足りない足りないよ>って唄ってるんです。


ーーああ、煽りの要素もあったんですね。じゃあ「ガタンゴトン」は?


ヤスキ:これは結成前からあった曲で、言葉も変わったんですけど。僕、電車があまり好きじゃなくて乗ってなかったんですけど、たまに乗った時に、疑似恋愛をイメージしたらどうなるんかな? こういうので出会いがあるのかな、と思って作ってみたんです。そういう曲ですね。


ーー<踏み出すか/踏み出さないか>というのは、そういうことなんですね。


ヤスキ:え? ああ、たしかに(笑)。でも……ここは今回変えた歌詞ですね。このあたりの何行かは、丸々変えてますね。


ニケ:ほんまや。昔送ってきたのとは違うもんな。


ヤスキ:書き換えた歌詞なんですよね。すごいですね……全部つながってますね。


・「僕の中ではベストアルバムやと思ってるんで!」(ニケ)


ーーそう、だからそうしたテーマ性を持って作ったアルバムなのかな、と思ったんです。そういうわけでもなかったんですか?


ヤスキ:そうですね……ここで「はい」言うたら無責任になるんで、あれですけど(笑)。迷いながら曲を作ってたのかな……? 変わろうとしてるというか。


ーー(笑)そう、現状から踏み出そうとしてて、でもどうしようか?というところだと思うんです。で、お話を聞いて、曲ができなくて苦しんでいたとか、バンドで一緒になって曲作りをしていたということは、筋が通るなと思ったんですよ。


ヤスキ:そうですね、これを無意識にやる……天才ですか?(笑)


ーーまあ天才かもしれないけど(笑)、正直といえば正直じゃないですか。


ヤスキ:(笑)そうですね。スレずに、自分の思いのまま表現したのが、たぶんひとつの形として残せたのかもしれないです。お話してて振り返ると、すごく葛藤してた自分を思い出すんですよね。でも作品としては納得した形でレコーディングもできたので、そういう気持ちは消去されるというか、いい意味で前向きになれてますね。もっとバンバン曲が書けるといいなと思いますけど……今まで書けなかったことがなかったので、良くも悪くも、こだわりすぎてたりしたのかな。


ーーでも、きっと、いい経験をしているということですよね?


ヤスキ:いやあ、すごくいい経験をさせてもらってると思います。ずっと。


ーー成長も実感しているのでは?


ヤスキ:いやぁー……まだまだ、ですね。楽曲に関しては実感は湧かないんです。やっぱり僕ら、今はライブがすべてなんですよ。そこでどう見せていくのか。僕らはライブ・バンドでいたいので、そういう面では3年前とは全然違いますね。今は攻撃的な部分が多いかもしれないですけど、挑戦的なライブをするようになりました。この作品のおかげで僕らのライブ感も変わりましたね。


ーー今のライブではどのように感じていますか?


ヒロキ:最近は変わってきましたね。お客さんとの距離感も変わってきたので、それによってライブがもっと楽しくなりました。僕自身は何も変わってないですけど(笑)。


ニケ:楽しいですね。自分の立ち位置みたいなのがわかってきました。「ユビキタスでこういうベースを弾くんや」とか「こういう動きをするんや」とかがイメージできてきていますね。


ヒロキ:(笑)ニケが一番変わったかもな。


ヤスキ:今回の作品ではそうやね。楽曲に関してもプロデューサーと一緒にフレーズを考えてるし、すごい自分に追い込みをかけてました。レコーディングの1ヵ月前に全部のフレーズを変えてましたし(笑)。


ニケ:プロデューサーには自分にない発想を言っていただいて、それをやってみたら、「こうなるんや!」ということがありまして。すごい勉強になりましたね。感動がありました。


ーー大事な作品になったということですね。


ニケ:はい。もう僕の中ではベストアルバムやと思ってるんで!


ヒロキ:(笑)……それ、よう言う言葉やんな? 決めゼリフというか。


ヤスキ:もう絶対にこれ言う! 来た!みたいな(笑)。でもこのアルバムができたことで、バンドをいい方向に持っていけるんじゃないかと思います。


(取材・文=青木優)