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公開150日&動員200万人突破『ラブライブ!』に見る、映画興行「リピーターの時代」到来

2015年11月18日 11:21  リアルサウンド

リアルサウンド

国内映画興行ランキング2015年11月14日~2015年11月15日(興行通信社調べ)

 よっぽど特別な作品の公開でもない限り(例えば3年前の『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』とか)、クリスマス&正月興行の直前で劇場への客足が遠のきがちな11月。とはいえ、今年の秋は上位の作品も含めて例年以上に低調な数字が続いている。


参考:『ラブライブ!』映画はなぜロングヒットした? さやわかが作品の構造から分析


 先週末のトップ10で唯一の初登場作品となったのは3位の『コードネーム U.N.C.L.E.』。299スクリーンで公開され、土日2日間で動員8万7433人、興収1億1334万1000円を記録。しかし、動員では上回っているものの、興収では3Dの上映館の多い2週目の『エベレスト3D』が先週から引き続き3位。いずれも期待された秋公開の外国映画だったが数字は不調だ。


 『しくじり先生 俺みたいになるな!!』(テレビ朝日系列)出演以降、その歯に衣着せぬ発言がおもしろがられて各バラエティ番組から引っぱりだことなった紀里谷和明監督だったが、『ラスト・ナイツ』は動員2万3,323人、興収2,820万9,200円で公開初週からトップ10圏外(12位)という低調な数字。タレント化した映画監督の精力的なテレビでのプロモーションが、必ずしも作品の結果には結びつかないことを証明してしまった。


 結果的に、秋公開の外国映画で唯一のサプライズ・ヒットと言えるのは、先週末もしぶとく9位にランクインしている『マイ・インターン』ということになりそうだ。累計動員116万人、累計興収15億円を突破という数字は、シリーズものや原作もの以外のオリジナル実写外国映画としてはなんと本年度トップの成績となる。


 今週目を引いたのは、6月13日に公開され、初日から150日以上経った現在もまだ公開中の『ラブライブ!The School Idol Movie』が遂に観客動員数200万人突破、累計興行収入が28億円に到達したというニュース。ここにきて数字が大幅に上乗せされたのは、9月末日までが期限(その期限も当初の8月末日から一ヶ月延長されたもの)だった前売り券の未使用分が加算されたためだと思われるが、その驚異的なロングランとリピーターの多さは、週替わり特典などのアニメ作品に特有の事情を超えて、いまだに断続的に4DX上映などが続いている『マッドマックス 怒りのデス・ロード』や『ジュラシック・ワールド』などにも見られる、今年の映画興行の一つの象徴とも言えるだろう。


 近年、音楽のライブ演出などで「エンターテイメントのテーマパーク化」について盛んに語られるようになっているが、映画館という空間も年々テーマパーク化が進行しているのではないか。多くの人が同じテーマパークにリピーターとして訪れ、同じアトラクションをリピーターとして楽しんでいるように、映画においても作品がヒットする大きな要因として「リピーター」の存在は不可欠なものとなってきている。数年前からそうした観客行動の先駆けとなってきたのが一部のアニメ作品であり、『ラブライブ!The School Idol Movie』の大ヒット&超ロングランはそれを最も先鋭化したかたちで顕在化したとも言えるだろう。


 ちょうど本日0時に初日3日間の特別上映(劇場の系列によってはIMAX 3D館などでの上映分も)のチケットが発売となり、ファンの間で阿鼻叫喚の深夜の争奪戦が繰り広げられた『スター・ウォーズ フォースの覚醒』も、重要なのはスタート・ダッシュだけでなく、ロングランの中でいかに数多くのリピーター客を獲得できるかが最終的な数字を左右するに違いない。各劇場には『ジュラシック・ワールド』などで見られたような需要と供給のバランスを欠いた上映館の割り当てを繰り返すことなく、観客の視点に立った公正な上映館の割り当てを期待したい。(宇野維正)