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放送開始40年、仏同時多発テロにも即応した米長寿番組「サタデー・ナイト・ライブ」の歴史

2015年11月17日 07:21  リアルサウンド

リアルサウンド

実際のスタジオと同じセットがエキシビジョン用に作られた。エキシビジョン参加者は、ここで生放送の雰囲気を体感することができる

「パリは光の街です。ニューヨークの街は、その光が消えることはないことを知っています。全ての人に愛と救いの手を。私たちは、あなたと共にいます。ライブ・フロム・ニューヨーク、イッツ・サタデーナイト」。


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 先週土曜日、11月14日の「サタデー・ナイト・ライブ」は、いつものような賑やかなオープニングではなく、レギュラーメンバーの一人、セシリア・ストロングによる静かな語りで始まった。黒いドレスを着た彼女は英語で述べたのちに、フランス語でも繰り返した。


 「サタデー・ナイト・ライブ(SNL)」は米NBCで40年続く生放送バラエティ番組。毎年9月から5月の間、毎週土曜深夜にゲストやレギュラー陣によるコント、音楽ゲストを迎えたライブなど90分にわたり放送している。(夏の間は再放送)。ビル・マーレイ、エディ・マーフィ、アダム・サンドラーなどアメリカを代表するコメディアンを輩出し、番組内コントから『ブルース・ブラザーズ』や『ウェインズ・ワールド』といった映画も登場した。「オレたちひょうきん族」はこの番組をもとにしたと言われており、2011年にフジテレビ系列で「サタデー・ナイト・ライブJPN」が放送されたのを覚えている方もいるかもしれない。地上波・CS合わせて9回しか放送されなかったことからも、決して成功とはいえないトライアルだったわけだが……。


 ではなぜ、アメリカでは40年も続く長寿番組として愛されているのか。アメリカと日本の笑いの質という議論は抜きにして、その謎を紐解くエキシビションがニューヨークで開かれている。「Saturday Night Live The Exhibition」は番組の放送開始40周年を記念して、月曜日から土曜日深夜の生放送まで、曜日ごとに番組が作られるまでを追っている。


 月曜は前週の放送をふまえ、プロデューサーのローン・マイケルズとその週のホスト、そしてレギュラーメンバーで今週の生放送の打ち合わせが始まる。火曜はその打ち合わせを受け、構成作家は水曜朝までに台本を書き上げる。水曜日は全体ミーティング兼台本の読み合わせ。そこでセットデザインや衣装などの発注が決まる。木曜日は早朝から、ニューヨーク近郊のスタジオで大道具や小道具の制作が開始。できあがった大道具などはマンハッタンのロックフェラーセンターにあるNBCのスタジオに運ばれる。金曜日は終日リハーサル。コントやスキットなどを合わせながら、台本を調整する。


 そして土曜日、生放送直前の夜8時からドレス・リハーサルと呼ばれる観覧客を入れたリハーサルが行われ、全体像をチェックする。ドレス・リハーサルで観客の反応が悪かったコントはその場で書き換えられ、本番を迎える。深夜1時に本番が終わったあとは1週間の激務を労い、大掛かりな打上げが行われるそうだ。スタッフも出演者もみんな、1週間ほぼSNLに意識を集中させ、毎週土曜深夜の90分に及ぶ生放送を乗り越えている。この番組に関わる全ての人の集中力と、たった1つの番組に全力投球できる幸せな環境が、40年間色褪せることのない人気番組を支えているのだ。


 この流れをふまえると、アメリカ時間11月13日、金曜日午後に起きたパリ同時多発テロを受けてオープニングを変更したのは、金曜日夜か土曜日のドレス・リハーサルの前だろう。オープニングのために用意していたコントやセットはお蔵入りとなるが、かつて同時多発テロで傷を負ったニューヨークがパリを悼むのは当然と考えての変更だったと想像できる。2001年9月11日の同時多発テロ後の生放送では、当時のニューヨーク市長であるルドルフ・ジュリアーニとNY市警の警察官、消防士たちが並び、プロデューサーのローン・マイケルズもカメラの前に立った。ジュリアーニ市長が発した「ライブ・フロム・ニューヨーク、イッツ・サタデーナイト」という決め台詞は、「ライブ=生」とも受け取ることができ、いまだに語り継がれる放送回となっている。こんなことができるバラエティ番組は、世界中ほかにないだろう。


 ちなみに、SNLの笑いの方向性として一貫しているのは、政治ネタを積極的に取り入れているところだ。先週の放送には大統領選に共和党から出ると言われているドナルド・トランプ氏が出演しコントを演じ、ここ数年で最高の視聴率を取った。1ヶ月前にはヒラリー・クリントン氏が出演し、いつも番組でヒラリーに扮しているケイト・マッキノンと共演した。同じく大統領選に出馬表明しているバーニー・サンダース上院議員を模したコントも多く放送されており、政治が一番の揶揄ネタとして扱われている。SNLが政治や時事ネタを積極的に扱い笑いに転化することで、アメリカ人の政治リテラシーが鍛えられているような気がする。もちろん番組側はトランプやヒラリーを出演させることで話題性と視聴率が上がることを企んでおり、「大統領選に出馬する全ての候補者に平等に出演の権利が与えられるわけではない」と批判するメディアもある。だが、アメリカ人の政治への興味の高さは、大統領が国民投票で決まるだけではなく、こうした番組の効果もあるのではないか。パリへの哀悼を冒頭で述べることも、トランプを出演させることも、SNLはバカ騒ぎするだけお笑いバラエティ番組ではなく、ジョークや音楽からアメリカの風俗を浮き彫りにする番組だと考えると納得だ。


 ニューヨークで行われているエキシビションは、今のところ終了日は決まっていない。ニューヨークに行く機会があったら、アメリカの一つの現象として、長寿人気番組の裏側を覗いてみるのもおすすめだ。(小川詩子)