今季11回目のワンツーフィニッシュを完成させたメルセデスAMG。その圧倒的なまでの速さを見せつけた、そんなブラジルGPでした。5位以下の全車を周回遅れにしてしまう、驚異的な速さ。メルセデスAMGと同一周回だったのは、フェラーリの2台だけでした。
その中で勝利を収めたのは、前戦メキシコGPに続いてニコ・ロズベルグ。レースを通じて、ルイス・ハミルトンを真後ろに従えての接戦でしたが、ロズベルグはこれを制して、今季5勝目を挙げました。
ロズベルグの勝因は、もちろんスタートでポジションを守ったことも大きいでしょうが、それ以上にタイヤをしっかりともたせることができたという点が挙げられると思います。第2スティントおよび第4スティントの後半、ハミルトンのペースはガクリと落ちています。ロズベルグにはこのようなペース下落の兆候は見られず、この間に築いたリードを守り切って優勝を果たしました。
実は、金曜日のフリー走行2回目(FP2)では、ハミルトンの方がロズベルグよりもタイヤを上手く使えているような兆候がありました。しかし、決勝では逆転。ここから想像するに、ロズベルグは週末を通じてタイヤの使い方を理解し、上手くアジャストさせたように感じられます。そして、いつもなら“悪い癖”とも言えるハミルトンの動向を気にする仕草をこのレースでも見せましたが、今回ばかりはミスなくマシンを71周走らせ、トップでチェッカーを受けました。
ハミルトンがロズベルグを攻略するのは、今回は至難の業でした。ブラジルGPの舞台となったインテルラゴス・サーキットは抜きどころが限られており、最高速に差のある異なるマシンならまだしも、同じクルマ同士でオーバーテイクを成功させるのは、非常に難しいのです。事実、最高速に劣るレッドブルやトロロッソが、ラップタイムの面では優位に立っているにも関わらず、フォース・インディアやロータスらを抜くのに非常にくろうしていました。
ハミルトンは、戦略を変えるくらいしか、ロズベルグを攻略する策はありませんでした。それは、彼がレース中に無線で訴えていた通りです。では、どんな戦略を採っていれば、ハミルトンはロズベルグを攻略できたのでしょうか?
ロズベルグは今回、3番手を走っていたフェラーリのセバスチャン・ベッテルに対する安全策を採る形で3回のピットストップを実施しました。これと異なる戦略としてまず思い浮かぶのは、2ストップ作戦です。しかし前述の通り、今回のレースではハミルトンの方がタイヤに厳しかったため、実際以上に長いスティントを走るのは、難しかったと思われます。もしハミルトンが2ストップを実施していたら、ベッテルの先行すら許してしまう可能性もあったでしょう。
もうひとつ考えられる戦略としては、ロズベルグよりも先にピットに入るということです。これを行えば、ハミルトンはロズベルグに対してアンダーカット(先に新しいタイヤを装着し、そのタイヤの性能を活かして速く走り、ピットストップ前に先行していたライバルの前に出る戦略)を成功させることになり、ロズベルグの前に出ることができたでしょう。しかしチームは、絶対にこれは許可しないはずです。今季ここまでのメルセデスAMGは、ふたりのドライバーのうち先行している方にピットストップの優先権を与えてきました。もし今回、この前提を反故にして、ハミルトンを先にピットに迎え入れてしまえば、ロズベルグの反感を買うことは間違いなく、チーム内の秩序を乱す原因にもなりかねません。
前戦メキシコGPでも、ハミルトンはチームの指示に異議を唱えるシーンがありました(タイヤのライフを考え、安全策としてピットインを命じたチームに対し、「僕のタイヤはまだ大丈夫だ。それはニコの問題だろ?」と無線で発言しました)。チャンピオン獲得を決めても、どん欲に勝利を目指す姿勢はさすがと言えますが、それにしても最近はチームの輪を乱すような発言が目立つような気がします。しかも今回はその上、「タイヤが終わった」「このペースのままじゃ走り切れない」「フロアにダメージを負った」など、“泣き言”も多く、しかも予選後にもロズベルグに負けたことに腹を立ててか、記念撮影に顔を出さないということもありました。すでに今季のタイトル獲得を決めているにも関わらず、現在のハミルトンはロズベルグに追い詰められ、そして苛立っている……そんな風にも見えます。
以上のことから考えると、今回のブラジルGPでハミルトンが勝つのは、スタートで前に出ることができなかった時点で、ほとんど不可能だったと言えると思います。そのくらい、今回のロズベルグのレースは、完璧に近かったということでしょう。
さて今回のレースで、メルセデスAMGの2台に唯一匹敵する速さを発揮したのが、フェラーリのベッテルでした。ベッテルは終始メルセデスAMGの2台から若干遅れるだけのペースで走り、最終的にはロズベルグから14.2秒の遅れ、ハミルトンからは6.4秒の遅れでフィニッシュしてみせました。ただ、ペースは近かったとはいえ、マシンの性能差は明らか。しかしなんとか一矢報いようと、ベッテルとフェラーリはメルセデスAMGに先駆けて3ストップを実施したばかりか、2回目のピットストップ時にソフトタイヤを履くという策に出ます。
今回のレースでは当初、ソフトタイヤの航続距離は短く、スタート時以外はより長い距離を走ることができるミディアムタイヤを使う作戦が主流になるだろうと思われていました。事実、ピレリの発表した最速予想戦略は、ソフト-ミディアム-ミディアムというモノ。しかしベッテルはこれに反し、2回目のピットストップで再びソフトタイヤを装着したのです。一方、前を走るメルセデスAMGの2台はミディアムタイヤを装着。ベッテルのこの選択は功を奏し、このスティントではメルセデスAMG勢と同等のペースで走ってみせました。しかも、デグラデーションの兆候をほとんど見せずに。
再びFP2のデータを分析してみると、ソフトタイヤを履いたメルセデスAMGには明らかなデグラデーション(タイヤの性能劣化による、タイムへの影響)が見て取れますが、同じくソフトタイヤのベッテルは、ロングラン開始直後こそ数周にわたってペースを落とすものの、その後は下げ止まり、順調に走行を続けたことが読み取れます。つまり、レース中盤で再びソフトタイヤを履くというのは、フェラーリ/ベッテルだからこそできた芸当。もし、メルセデスAMGもベッテルに合わせてソフトタイヤを履いていたら……ベッテルが上位2台に追いつき、三つ巴の大接戦となっていたのかもしれません。
ただ、ハミルトンのラップタイム推移を見れば、3ストップでもタイヤをもたせるのに苦労していた様子が確認できます。ここから判断すれば、ベッテルは自らが3ストップを選択して相手(今回はメルセデスAMGのハミルトン)を3ストップ戦略に誘導するのではなく、逆に2ストップに引き込んで自滅を誘った方が有効だった可能性もあります。もちろん、正解は分かりませんが……。
結果的にベッテルは、前方の2台に追いつくことはできませんでした。しかし、後方にリスクが存在していないと見るや、正否は別として、“あわよくば”という策に賭けたフェラーリの積極性が見て取れたシーンだったと言えるでしょう。
さて、これで今季19戦中18戦が終わりました。残りはあと1戦。2週間後のアブダビGPです。今回のレース結果を見る限り、次もメルセデスAMGの2台による一騎打ちになりそうな状況。そこに、フェラーリの2台がどう絡んでくるのか? 2015年のF1フィナーレ、ぜひお見逃し無く。