若者たちから「絶対にブラック企業で働きたくない」という声があがり始めて久しい。それはどこで見分ければいいのか、求人広告の文言か、それとも経営者の人柄なのか。いろんな説があるが、決定的なものはないようだ。
ブラック企業の経営者というと「従業員から搾取して私腹を肥やす大悪人」というイメージがあるが、それとは逆に「従業員に優しい」からこそ会社がブラック状態に陥ってしまうこともあるのではないか――。そんな議論がネットで話題になっている。
従業員が儲かってると思っても「経営者が見れば赤字」
ツイッターでの一連のやり取りがまとめられたのは、「ブラック企業増加の理由は意外なところにあった!?」と題されたtogetter。あるユーザーが共産主義の本を読み、
「経済界は労働者を正規と非正規で分断!非正規雇用を安く雇うことで剰余価値をより搾取しようとしているのだ。このままでは日本国の労働者は貧困化し崩壊してしまう」
と問題提起したところ、別のユーザーからこんな返信が投稿された。
「剰余価値を搾取することが出来ていれば正規雇用するはずです、だって正社員の方が安く使えるんだものw」
一人当たりの月給は正社員の方が高いが、対スキルや長時間労働、サービス残業などを含めれば非正規より安上がりということだろうか。この投稿者はプロフィールによれば、京都にある会社の役員を務めているようだ。
この役員は「どちらかと言えば消費者が正当な価格さえ払ってくれない」ことが現在の状況を招いているとし、「労働者が思ってるほど会社は利益出てないです」と明かす。
さらにこの役員は、労働者の視点では確実に儲かっていると思われる規模の売り上げがあったとしても、人件費や製造コスト、会社の維持費や光熱費、税金などが引かれると赤字になってしまうとし、従業員と経営者の意識のギャップを指摘する。
経営者は「従業員の生活」を守っているのに罵られている?
このような状況を脱するためには「製品価格が適正化されればそれを切っ掛けにして(会社経営が)好転していく可能性は高い」とし、「製品の卸先があと1割出してくれる」か「卸先と仕入れ先が5%ずつ譲歩してくれる」だけでも経営はかなり改善されると訴える。
しかし、なぜそのようなカツカツの経営をしているのか。本来であれば一部の従業員を解雇し、そこで確保したカネを投資に向ければ、会社はホワイト化に向けて動き出すはず。しかし「従業員の生活を守るため」を最優先すると、それができないということらしい。
要するに、苦しいながらも従業員の生活を守ろうとした結果、「ブラック企業」になってしまうこともあるということだ。この役員は「優しさや甘さが切っ掛けなのに従業員から罵られる経営陣も少なくないです」と説明する。
このようなパターンは自社のことではなく「自分が今まで見てきた中小、零細企業の中身を総合的にまとめ」た結論とのことだが、一連の投稿は関心を呼び、多くのコメントが寄せられている。特に共感を示しているのは次のようなものだ。
「会社がブラックになるのは経営者のモラルの問題だけじゃなくて、デフレとそれを善と誤認する労働者(=消費者)の部分が大きい。安く買うという事は他の誰かの労働を軽視しているということ。それはブラック企業の経営者と同じ思考」
「一緒に社の不満を言っていた先輩が、管理職になったとたん掌を返したなんて話をよく耳にしますが、これは良い例で管理職になって会社の内情が見えたことによって、自分の勘違いや見識の違いに気付いた証拠だと思います」
「消費者のせいにするな」と反論する人も
この役員は、「競合企業が現れるとすぐに価格競争に走る行為が愚かだと言われればそれまで」と経営側の問題も認めつつ、デスクトップPCが大幅に安くなっていることを例にあげ、「消費者が段々と物の適正価格を忘れてしまっている」と主張している。
しかしブラック労働に苦しみ、体調を壊して再起が難しくなる人すらいるのも事実だ。別のユーザーは「正当な雇用をする能力を失った企業が市場に居座り続けて結果的に価格と労働力のダンピングに加担してるだけ。消費者のせいにするな」と憤る。違法なサービス残業で会社を生き残らせる選択肢などなく、そんな会社は潰れてしまえということだろう。
これに対し、会社がいくらブラックでも「潰れたら社長も困るが多くの社員が仕事を失う。家族も困る。取引先も困る。喜ばしい事は何もない。こういう経済シバキ主義思考、何とかならんのか」と、経営者を擁護する人もいた。
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