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岡村靖幸が信奉され続ける理由は? サウンド・言葉・ダンスの独創性を再考

2015年11月16日 15:51  リアルサウンド

リアルサウンド

岡村靖幸『ラブメッセージ』

 岡村ちゃんこと、岡村靖幸といえば、どこかぶっ飛んだシンガー・ソングライターといイメージがあるのではないでしょうか。なかには毛嫌いする人も多いかもしれませんね。嫌われる理由もわからなくはないです。エキセントリックな歌詞や歌い方、テンションの高い立ち居振る舞いなどは、あきらかにフツーの人ではないですから。でも、それ以上に、彼の個性に惹き付けられるファンも多く、カリスマ的な存在であることは間違いありません。だって、Mr.Childrenの桜井和寿やDREAMS COME TRUEの吉田美和もファンを公言しているのですから。とはいえ、やっぱり好きな人は好きだけど、そうでない人にはとっつきにくいというか、食わず嫌いになってしまうことも多いようです。


 たしかに彼は、1986年にシングル『Out of Blue』でデビューして以来、とにかく音楽もキャラクターも規格外の活躍ぶりで突き進んできたという印象があります。まず、言葉の使い方がとっても強烈。挑発的だったりセクシュアルだったりと個性の出し方も様々ですが、「19才の秘かな欲望」や、「あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう」といったタイトルのつけ方もセンスも独特でした。とくに、自己愛の究極の形ともいえるサード・アルバム『靖幸』(1989年)と、さらに尖った音楽性を示した4作目の『家庭教師』(1990年)という2枚の珍品大傑作を聴けば、どんだけ個性的なのってこともわかるはず。「どんなことして欲しいの僕に」では、“ねえ君のパンツの中で泳がせてよ”なんて語るし、「家庭教師」にいたっては、“靖幸ちゃんが寂しがっているよ”なんて言い出し始める始末。まあ、これじゃあちょっと引いてしまうんじゃないかなということは、ファンにとっても察しが付くでしょう。


 おまけに、彼のステージを観た人なら、もっと驚くかもしれません。とにかくクネクネと操り人形のように踊る姿は、思わず笑ってしまうほどすごい。デビュー当時からなんだかへんてこな感じだなあと思っていたのですが、最近のライヴ映像を見ても全然変わっていないどころか、さらにキレが良くなっているようです。たしかにダンサブルな楽曲が多いので、本人が踊ること自体には違和感はないのですが、歌うことと同等かそれ以上に力が入っていて、なんでアイドルばりに踊らなきゃいけないんだろう、なんて考えてしまうくらいなのです。


 ただ、岡村ちゃんにとって、こういった言葉の使い方もキレキレのダンスも、アーティストとしての自己表現であるわけで、なによりボトムとなる音楽ががっしりと揺らいでいないからこそできるわけです。彼の作り出す音楽は、いわゆるファンクの影響が濃厚です。とくにプリンスの影響が色濃いことは洋楽に詳しい人が聴けばよくわかるでしょう。とはいえ、このクールでファンキーなサウンドやメロディを肉体化し、岡村靖幸というブランドにしてしまったのは、やはり前述した言葉やダンスだったりするわけです。こういったディープなファンク・サウンドは、ともするとマニアックにとらえられがちです。実際、一部を除くと、徹底的にファンクを追求してしまうと、ポップ・フィールドから離れていってしまいます。岡村ちゃんの歌も、そのサウンドだけ抽出するとかなり作り込まれているし、一般的に聴きやすい音楽とはいいがたいかもしれません。しかし、そこに彼特有の言語感覚に満ちた歌詞をちりばめ、ダンサブルでグルーヴィーに歌うことによって、ポップスへと華麗に転換するわけです。まさに岡村マジックとしか言いようがありません。


 こういったダンサブルでファンク色の強いポップスって、実は今の音楽シーンの主流のひとつだったりします。ロック・バンドもヒップホップもアイドル系も含めて、ディスコやファンクのビートに言葉を巧みに乗せて歌うアーティストががぜん増えているような気がするのです。そして、こういったいわゆる黒っぽいJ-POPのルーツは、すべて岡村靖幸なのではないかと思ってしまうほど、その世代に岡村ちゃん信奉者が多いんですよね。Base Ball Bearの小出祐介やヒャダインこと前山田健一などが公言していることでも有名。他にもOKAMOTO'Sや在日ファンクなどのファンキー系アーティストを聴いてみると、意識的か無意識なのかはわかりませんが岡村DNAを感じさせる場面が多々あるわけです。彼のカリスマ的人気が衰えない背景には、次世代から先駆者という認識を持たれているからに違いありません。


 9月に出したばかりのシングル『ラブメッセージ』も、サウンドだけ取ればボトムの太いディスコ・タッチのダンス・ミュージックですが、聴き終えた後に残るのは岡村ちゃん特有のちょっぴりセクシーで青春風味の歌詞の世界。カップリングに収められた「ヘアー」はさらにソリッドなファンク・チューンですが、エロスだけでなくほのかに社会派メッセージを挿入しています。いずれも、彼にしか生み出せない、唯一無二のポップ・チューンであることがわかるでしょう。いくつかの事件の影響もあって、何度も浮き沈みのあった岡村靖幸ですが、50歳を迎えてもこれだけパワフルな音楽を生み出せるのはさすが。まだまだこの個性を突き進んでいってもらいたいと願いつつ、10年以上ぶりとなるオリジナル・アルバムも楽しみに待ちたいと思います。(栗本 斉)