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MACOの歌声は複数のクラスターを繋ぐ? 1stアルバムの“射程の広さ”を分析

2015年11月15日 17:01  リアルサウンド

リアルサウンド

MACO『FIRST KISS』初回限定盤

参考:2015年11月02日~2015年11月08日のCDアルバム週間ランキング(2015年11月16日付)(ORICON STYLE)


 1位は『ザ・ビートルズ1』。2000年にリリースされたアルバムの最新ミックス盤ということで、「オリコン史上初、アルバムのオリジナル盤と最新ミックス盤がともに1位を獲得」という奇妙な記録を樹立することとなった。15年前とほとんど同じ人が買っているのでは?という疑念はぬぐえないが、こういった「クラシック」が定期的に話題になるというのは必ずしも悪いことではない。リリース前にフジテレビで放送されていた特別番組では[Alexandros]やTHE BAWDIESがビートルズ楽曲のカバーを披露していたが、それらをきっかけとして新しい世界を知る若いリスナーが少しでもいれば素晴らしいことだなと思う。

 ビートルズ以外ではすでに各所で絶賛されているWANIMA『Are You Coming?』(4位)や昨年デビューした虹のコンキスタドールの『レインボウスペクトラム』(8位)といった作品もランクインしているが、本稿では初登場5位のMACO『FIRST KISS』をピックアップしたい。今作が1枚目のフルアルバムとなるMACOは、2013年にYouTubeで公開したテイラー・スウィフト「私たちは絶対に絶対にヨリを戻したりしない」のカバーが話題に。アリアナ・グランデの来日公演でのオープニングアクトも務めるなど、各所から注目を集める女性シンガーである。


 ……などとしれっと書いたものの、実はこのアルバムを聴くまでこの方のことはちゃんと認識していなかった。テイラー・スウィフトのカバーの件は確か音楽番組で見たが、その時点では「ああ、なんかテラスハウスっぽい感じの人ね」とシャットアウトした記憶しかない。まさかここまで大きな存在になっていたとは恥ずかしながら全く知らなかった。


 そんな状態で聴いたアルバム『FIRST KISS』、まず驚いたのは収録曲のタイトルである。「LOVE」「ふたりずっと」「Kiss」「告白」……思わず1曲目から4曲目まで羅列してしまったが、良く言えばシンプルでストレート、悪意を持って言えばテンプレ感の漂う言葉の使い方は好みが分かれるところかもしれない。ただ、このアルバムにはそのような必ずしも目新しくはないメッセージを説得力のあるものに仕立てあげてしまう音楽がしっかり詰まっている。


 まず、とにかくMACOの歌が良い。中音域に適度な潤いを持ちながらウェットになり過ぎない声は耳に心地よく(個人的にはBONNIE PINKに近いものを感じた)、語尾の切り方やブレスの表現、鼻濁音やファルセットの使い方などディティールにもこだわりが垣間見える。それでいて、その歌唱力を必要以上に誇示せずさらりと歌っているのも非常に好感が持てる。


 そしてそんなボーカルを支えるのが、美しいメロディラインにストリングスやホーンが流麗に絡んでいく「ゴージャスなJ-POPサウンド」。ドラマチックに響くことを絶対正義とするこの手の音は、90年代初頭から20年以上の間ずっとチャートの真ん中で(ときに心無い「音楽好き」から揶揄を受けながらも)培われてきたものでもある。そんなマナーに則った「Kiss」の大サビの展開や「SHINY STAR」のBメロからサビの流れはこれぞJ-POP!で素晴らしいし、いきものがかり「気まぐれロマンティック」的な楽しさがある「君の背中」、R&Bの要素を日本流に換骨奪胎した「アタシノスキナヒト」も気が利いている。


 わかりやすい言葉、基礎点の高いボーカル、そして美しいメロディと派手でキャッチーなサウンド。「狭義の音楽好きに忌避されながらも確実にチャートで支持される音」として高度に完成されているのがこの『First Kiss』である。こういう作品を「マーケティング」と切って捨てる向きもありそうだが、そうやって処理するにはもったいない面白いアルバムだなと思った。彼女の活動を振り返ってみても、「ポスト西野カナ」的なポジションをとりつつも(自身で作詞している部分は重なるし、アートワークの雰囲気にも影響が見られる)、一方ではtofubeatsとの交流もあるなどとても射程が広い。複数の、そして両極端な場所にあるクラスターをつなぐ存在としての活躍を今後も期待したい。(レジー)