ブラジルGPの土曜、ホンダの新井康久F1総責任者はフェルナンド・アロンソについて「午前中のフリー走行では時間がないなか、金曜日の走行データと比較しながらサスペンションのセッティングを変えるなどマシンのセットアップを的確に進め、調子が良かった」と語っていた。フリー走行3回目は、チームメイトのジェンソン・バトンよりコンマ6秒も速いベストタイムを刻み、14位と手ごたえをつかみつつ、予選に臨んだ。
予選開始から9分後、アロンソはソフトタイヤを履いて最初のタイムアタックに入った。バトンからコンマ3秒遅れでセクター1を通過したアロンソは、4コーナーから5コーナーを駆け抜けていった。そのアロンソのマシンに突如、異常が発生する。水温が急激に上昇していることをテレメトリーデータで確認したレースエンジニアのマーク・テンプルは、落ち着いた低い声ながら、厳しい内容のメッセージをアロンソに送った。
「すぐにマシンを止めろ」
指示を聞いたアロンソはアタックを中断、11コーナーを直進してランオフエリアにマシンを止めた。
「まだ原因は調査中です。水温が上がる要因はたくさん考えられ、きちんと調べてみないとわからない。これから手分けして可能な範囲で調査することになりますが、レースまでは時間がないので、おそらく新しいパワーユニットと交換することになると思います。もちろん、その場合はペナルティを受けることになるでしょう」(新井総責任者)
金曜のフリー走行でもトラブルに見舞われていたアロンソは、その後パワーユニットをすべて交換。金曜に使用していたのはアメリカGPで使ったもので、土曜に搭載されたのはメキシコGPと同じもの。どちらも一度レースで使用しており、どちらもレース中に問題を抱えた“前歴”があるものだった。
「金曜のアロンソのトラブルについても、現場ではレギュレーション上、封印を勝手に開けることはできないので現時点で原因は把握できていません。ひとつ考えられるのは、アメリカGPで最後10周ぐらいに発生した問題が影響しているかもしれないということです」
アメリカGPでアロンソが見舞われたレース終盤のトラブルは、燃料系(インジェクター)の問題だった。原因は制御系の配線の接触不良で、その問題自体は修復していたが、インジェクターから燃料が適正に噴射されなかったアロンソのICEは燃焼室で異常爆発を起こしていた可能性があり、それがブラジルGPフリー走行2回目のトラブルを誘発したのかもしれない。
メキシコGP決勝でターボの回転センサーにトラブルを抱えてリタイアしたパワーユニットは、その後トラブルを抱えた回転センサーを交換。だが、メキシコGPでトラブルを抱えたまま1周していた間に、他の箇所にダメージを与えてしまった可能性も考えられる。いずれにしても原因は調査中であり、トラブルが起きたふたつのパワーユニットをさくらの研究所に送り返して、解析を行うことになる。
原因はどうであれ、トラブルが起きたという事実に変わりはない。それはマクラーレンやドライバーたちと直接仕事をしている現場のスタッフたちにとって、つらい現実だ。
「今回起きている一連のトラブルは今シーズンまだ経験していなかったものばかりですが、良い経験を積んでいるとは言いたくないし正直つらいです。我々がやらなければならないのは、ドライバーに信頼して乗ってもらうこと。そのレベルに、まだ達していない。起きてしまったトラブルを二度と起こさないのがエンジニアの仕事なので、今後はしっかりと対策して、信頼性を確立させたものをお渡ししたい」と、新井総責任者。
レースでは、また新しいパワーユニットを走らせるアロンソ。今週末2度目の交換によって、アメリカとメキシコで見舞われた不運も払い落としていると願いたい。
(尾張正博)