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生田斗真、山田涼介が見せつけたジャニーズの実力ーー作詞家zoppが『グラスホッパー』を読み解く

2015年11月15日 10:31  リアルサウンド

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 どんな名作映画にも賛否両論ある。その中でも原作ありきの映画は、意見が真っ二つに別れることが多い。何百ページとある小説を、2時間以内でまとめるのは至難の業だ。予算や時間の制限もあって、大事なシーンやキャラクターの特性が省かれてしまう。それは原作ファンにとっては苦痛にもなりうることだ。それでも映像化に挑戦する姿勢は勇敢だといえる。


参考:生田斗真主演の『グラスホッパー』…でも最大のクライマックスは浅野忠信と山田涼介の対決シーン!?


 『グラスホッパー』は伊坂幸太郎氏にとって11作目の映像化となる著書である。140万部を突破するベストセラーだ。発売から11年が経ち、これまで何度も映画化の話は浮上するも、主要人物3人の物語がパラレルで進行する世界観を映像化することは困難とされ、実現されなかった。伊坂氏自身が望まなかったのだろう。だが、『脳男』や『犯人に告ぐ』の瀧本智行監督ならば、と快諾したのだ。さらに映画版のプロットを見て、原作の設定変更も受け入れたのだ。


 原作未読の人にとっては、充分楽しめる内容になっている。豪華な俳優陣、躍動感のあるアクション、色彩に富んだ色使い。そしてなにより印象的だったのは、物語の中心地になっている渋谷のスクランブル交差点だ。まるでその場にいるかのような臨場感は一見の価値がある。多少、グロテスクなシーンもあるが、殺し屋を描く上では避けられない描写であり、原作に比べればはるかにマイルドになっているので、臆さずに見てもらいたい。


 頼りない元教師の鈴木に生田斗真、自殺屋の鯨に浅野忠信、若き殺し屋の蝉に山田涼介が配役され、生田斗真は『脳男』とは全く違う情けないキャラクターを見事に演じきっている。もはや役者として確固たる地位を築いたといっても過言ではないだろう。その鈴木の存在を際立たせるのが、個性溢れる殺し屋の鯨と蝉だ。信号でいう「青、黄、赤」のように3人が揃って主人公だといえる。その中でもひと際輝いていたのが、山田涼介である。彼を最初に見たのは10年前。『青春アミーゴ』のPVだ。弱冠12歳だった彼はカワイイのひと言で、まさにアイドルと呼ぶに相応しい瑞々しさがあった。そんな彼が狂気を放ち、名優たちを食っていた。浅野忠信はその風貌から殺し屋役が容易に想像がつくが、山田涼介には難しいのでは、と先入観で思っていた。だが、実際は違った。美しい人間が、返り血を浴びながら人を殺していくシーンは、逆に恐怖感を助長していた。ちなみにSNSでは多くの女性が、彼にだったら殺されてもいい、と冗談を言っていたが、そんな気持ちも分からなくはないほど美しいのだ。ジャニーズというだけで、たかがアイドルと偏見を持たれることもある。しかし、生田斗真、二宮和也、岡田准一など近年のジャニーズ俳優たちの活躍は目を見張るものがあり、その演技を一度見れば偏った考えは自然と消えるだろう。


 もう1人の注目したいのが、菜々緒だ。個人的に配役が発表されたとき、最も適役だと思ったのが彼女だった。菜々緒演じる比与子は、絵に描いたような悪女である。その悪女ぶりが完全には表現しきれていないのが残念なところだが、それでも山田涼介同様に、彼女の美しさがむしろ残虐さを際立てている。ドラマ『ファーストクラス』や、現在放送中の『サイレーン』でも見事に悪女を演じきっているように、彼女の役者としての個性は、これからも多くの作品で必要とされるに違いない。


 原作を読んだ人は、鈴木の執念、殺し屋たちの美学、人間の凶暴さなど、重要な事象や、キャラクターの個性が描かれていないことに肩を落とすこともあるに違いない。しかし、大前提として、伊坂氏が設定変更を快諾したことを踏まえるべきだと思う。おそらく伊坂氏は、原作を1人でも多くの人に知ってもらいたいという思いから映画化を快諾したはずだし、そう考えるのはどんな表現者だって同じだろう。


 ほかに気になってしまうのは、11年という時間が生んだ避けられないギャップだろう。スマートフォン、GPS、など便利な機器が増えたことで、それら無しで物語を進めること自体が不自然に思えるのは、仕方のないところだ。もちろん、こうした点を踏まえても、なお納得がいかないことは少なくない。原作ではかなり重要な役目を持っていた吉岡秀隆が演じる槿が、あそこまで地味な役どころになるのは予想外だった。逆に鈴木のフィアンセである百合子の職業や、裏社会のドンである寺原が迎える末路など、原作では描かれていない事実を知れるのは貴重である。


 原作未読の人には、是非小説を読んでもらい、「違い」を楽しんでもらいたい。そうすることで、グラスホッパー(=トノサマバッタ)は密集して育つと、黒く変色し、凶暴になる。人間もしかり、というこの映画の根底にあるテーマをよりリアルに感じられるはずだ。


 本作の結果次第では、もうひとつの殺し屋小説『マリアビートル』の映画化も夢ではない。伊坂ファンの1人としては、成功することを祈るばかりだ。(zopp)