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サイモン・カーティス監督が語る、『黄金のアデーレ』制作秘話とキャスティングの重要性

2015年11月14日 16:11  リアルサウンド

リアルサウンド

(C)THE WEINSTEIN COMPANY / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / ORIGIN PICTURES (WOMAN IN GOLD) LIMITED 2015

 クリムトが描いた1枚の肖像画「黄金のアデーレ」を巡り、オーストリア政府を相手に裁判を起こし、肖像画の返還を求めた実在の女性、マリア・アルトマンを描いた『黄金のアデーレ 名画の帰還』が11月27日より公開される。アカデミー賞(R)女優のヘレン・ミレンを主演に迎え、ライアン・レイノルズ、ダニエル・ブリュール、ケイティ・ホームズら、国際色豊かなキャストも話題になっている本作。メガホンをとったのは『マリリン 7日間の恋』のサイモン・カーティス監督だ。今回、東京国際映画祭で来日を果たしたカーティス監督に、実話を映画化するにあたってのこだわりや、キャスティングの重要性について、話を聞いた。


参考:ヘレン・ミレン、『黄金のアデーレ』舞台挨拶で来日「日本にはすばらしい映画文化が根付いている」


■「人生の終わりに近い女性が、最後の闘いに挑むところに惹かれた」


ーーまず、本作を監督することになった経緯を教えてください。


サイモン・カーティス(以下、カーティス):ある時、マリア・アルトマンに関するBBCのドキュメンタリーを観て、その話に非常に興味を持ったんです。その話の中にも、もっと裏があるんじゃないかと思って。映画として描けば、ものすごく面白くなる題材だと思ったのがきっかけですね。


ーー具体的にどのような部分に興味を持ったのでしょうか?


カーティス:82歳という人生の終わりに近い女性が、最後の闘いに挑むという点です。過去に起こった様々な酷いことに対して、正義を求めるという。彼女がその闘いに挑むということに1番惹かれました。


ーー本作では大きく分けて3つの時代が描かれていますが、撮影で苦労した点も多かったのでは。


カーティス:そうですね。1本の映画なんですが、2~3本の違う映画を撮っているような感覚でした。例えば、マリアが車の中でチョコレートドーナツを持っているシーンをロンドンで朝撮って、その後すぐに道を渡ったところにあるスタジオ内で、クリムトがアデーレの絵を描いているシーンをドイツ語で撮ったりしたんです。とても奇妙な感覚でしたね。


ーー撮影はロンドンとロサンゼルスとウィーンで行われたんですよね。監督自身が印象に残っているシーンはどこですか。


カーティス:ロンドンは私が住んでいる場所でもありますし、ロサンゼルスでの撮影は2~3日だけでした。やはり1番印象的だったのはウィーンです。物語の骨格となる場所でもありますから。第二次世界大戦を期に、マリアが家族を残して国を離れて行くシーンはもちろん、ずっとウィーンから離れていたマリアが、何十年ぶりにウィーンへ戻るシーンは、撮影していても非常に感動的でした。ウィーンでの撮影は大変というよりはパワフルでしたね。過去の写真や映像を観て、その時代を再現させたので。


ーーなるほど。本作ではクリムトの名画「黄金のアデーレ」がキーアイテムとなりますが、監督も実際に実物をご覧になりましたか?


カーティス:はい、見ました。非常に力強い印象を受けました。事前にポストカードなどでも見ていましたが、やはり本物を見たときの感動は言葉にならないぐらい素晴らしかったです。私は何回か実物を見たんですが、アメリカでプレミア上映したときには、その絵画の前でパーティーをしたりもしたんです。


■「映画作りにはキャスティングが非常に重要」


ーー前作『マリリン 7日間の恋』も実話をベースにしたストーリーでしたが、実話を描くことにこだわりはあるのでしょうか?


カーティス:そうですね。実話に興味があるのもそうなのですが、その話についてのリサーチに没頭することが非常に好きなんです。ただ、近年は『英国王のスピーチ』や『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』、『博士と彼女のセオリー』など、たくさんの実話ベースの映画が作られていますよね。こういった傾向があるのは、製作陣だけでなく、観客側の皆さんもこのような実話ベースの映画を求めているから、というのも理由のひとつだと思います。


ーー実話を映像化するに当たって、監督なりのこだわりや工夫などはありますか。


カーティス:いいキャストを集めることですね。キャスティングが非常に重要です。今回はヘレン・ミレンを主役に迎えました。以前からヘレンとは知り合いだったのですが、最初は通常通りの方法で彼女のエージェントに脚本を送ったんです。それから交渉に入ったところ、ヘレンが脚本を非常に気に入ってくれました。彼女がこのキャラクターを信じてくれないと、この作品は作れないと思っていたので、良かったです。ヘレンとの仕事は本当に素晴らしい経験で、最高でした。


ーーヘレンと一緒に仕事をしてみて、イメージと異なる部分は?


カーティス:もちろん素晴らしい女優だということは前々からわかっていたんですが、彼女の演技が生まれるプロセスを生で見れたことはすごくよかったですね。アカデミー賞(R)をはじめ、彼女はいろいろな賞を獲っているけれど、それが単なる偶然ではなくて、彼女の才能によるものなんだと改めて実感しました。


ーーヘレン以外にも国際色豊かな役者陣が揃っています。他のキャストについてはいかがですか。


カーティス:BBCのドラマ『オーファン・ブラック 暴走遺伝子』にも出演していたタチアナ・マズラニーに、若い頃のマリアを演じてもらったのが印象的でした。きっと彼女は大スターになると思います。ドイツ人俳優のダニエル・ブリュールと仕事ができたのも素晴らしかったですし、ジョナサン・プライスやチャールズ・ダンス、エリザベス・マクガヴァンといった方々にカメオ出演していただけたのも良かったですね。


ーー弁護士のランディ・シェーンベルク役を演じたライアン・レイノルズについてはいかがでしょう?


カーティス:やはりオールアメリカンという、完全にアメリカっぽくて、観客と一緒にウィーンへの旅、歴史への旅をする人が欲しかったんです。ライアンは実際のランディとは似ても似つかないんですけど、彼と同じような優しさと知性を持ち合わせている。そして、ヘレンとの化学反応も素晴らしかったんです。その化学反応が、作品にユーモアや温かさをもたらしてくれました。そういった意味では、私はラッキーでしたね。


ーーランディ自身も本作の製作に携わったそうですね。具体的にどのように関わったのでしょうか。


カーティス:彼自身の描写について、脚本の段階でアドバイスを与えてくれました。あと彼は弁護士なので、法的な部分でも非常に助けてくれましたし、作品のプロモーションも手伝ってくれました。そして、実は映画にも出ているんですよ(笑)。


ーーそうなんですか? どこに出ていたのでしょう。


カーティス:どこに出ているかはお教えできませんので、探してみてください(笑)。セリフがないとだけ、お答えしておきます。(取材・文=宮川翔)