今年9月に改正された「労働者派遣法」。しかしマスコミ報道では改正の細かい内容は伝わらず、企業が3年ごとに人を替えれば派遣社員を使い続けられるため、3年毎に雇い止めされて雇用が不安定極まりない状態になると不安を掻き立てられた。
「生涯派遣」と「派遣使い捨て」という矛盾したスローガンが交互に流れ、どちらなのかと混乱することもあった。改正後の課題を考える趣旨で放送された11月10日の「クローズアップ現代」(NHK総合)も一貫して「派遣社員でいる限り明るい未来はない」というスタンスで、こんな番組づくりでいいのかと疑問が残った。
「捨て駒としての派遣社員」に暗澹たる気持ちは起こるが
番組には、派遣社員として工場で働いてきたHさん(33歳)が登場。写真の専門学校を卒業後、カメラの製造工場に勤めながら、改正前は3年以上働けば正社員になれると思っていたという。
会社に作業効率化の提案を行うなど努力して、直接雇用の契約社員になれたものの、給料は18万円足らず。6年間働いて上がった時給は10円だけで、半年後に減産を理由に解雇された。Hさんは「ただの捨て駒扱いだったのが見え透いてしまって悔しい」と語る。
専門26業務の扱いで、栄養士として働いてきたシングルマザーのSさん(39歳)も登場した。改正で専門職の期限が原則3年に定められて不安を抱えている。別の派遣先に変わった場合、20万円ほどの現在の給料がそのまま維持されるとは限らない。
「3年後の自分が何をしているか分からない状態。派遣社員は安定すら望めないのか」
Sさんは娘の大学資金のため、別の派遣仕事を掛け持ちして休みなく働いているという。辛い立場の派遣社員ばかり印象に残り、正社員にならない限り明るい未来はないような暗澹たる気持ちになる。
その一方で番組が取り上げた人たちは、必ずしも派遣法だけのせいで辛い生活を送っているのではないという気がしてならない。ハケンはすべて悲惨で、その悲惨さはすべてハケン制度に原因があるような描き方は、冷静に考えれば不自然だ。
改正法による効果も期待して見守るべきでは
そもそも今回の改正は、派遣労働者の待遇改善をうたっていたはずだ。番組を見た人が、今回の改正によって派遣労働者がみなこのような状況に陥ると誤解するならば、ミスリードではないだろうか。改正法による効果も期待して見守るべきだ。
国の説明では、改正法によって「正社員になりたい人は前よりも可能性が高まった」とされている。労働政策審議会委員の阿部正浩教授の解説によれば、改正によって雇用安定措置が講じられたほか、派遣会社に教育訓練が義務づけられ、スキルアップすることで正社員につながりやすくなっているという。
不安視されている「3年後」問題は、法改正によって派遣会社に「今の勤め先に直接雇用を依頼する」「次の派遣先を探す」「教育訓練の実施」「派遣会社が次の仕事を見つけられなかった場合、自社で雇用する義務も負う」ことが義務付けられている。派遣会社がルールを守るわけがないという声もあるが、やる前から批判することではないだろう。
派遣会社は許可制になり、「優良派遣事業主認定制度」が設けられ、派遣会社の淘汰が進むと見られている。そのため優良な派遣会社に入ることで、むしろ直接雇用よりも安定的に仕事が続けられるという見方もできる。
シングルマザーの社会保障は企業が負うべきなのか
番組を見ていて気になったのは、NHKの全国放送で「派遣で働く人の不安の声」ばかりが流れることで、視聴者に「正社員になれないと安定した暮らしができない」という考えが固着してしまうことだ。
それは現代においては、後ろ向きに思考停止してしまうリスクになる。正社員であろうとも、会社の業績が悪化すればリストラされることに変わりはないし、サービス残業など過重労働を強いられる働き方になりやすいのは正社員だ。
労働者側が「安定した仕事を得られるほどのスキルが自分にあるか」と顧みることも必要だろう。カメラ工場で働くHさんやシングルマザーのSさんを救う社会保障は、雇用によってすべて個々の企業が肩代わりするのではなく、国の課題として別途考えるべきだ。
そしてテレビは「絵になる場面」を優先して不安を煽るより、優良企業が雇用を前向きに守ろうとする動きや、法律に照らして個々の労働者に生まれた選択肢や、どう動くべきかを判断できる具体的な情報を伝えて欲しいと思う。(ライター:okei)
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