トップへ

KANA-BOON/シナリオアートが映像クリエイターと語り合う、ロックバンドと映像の関係

2015年11月12日 17:11  リアルサウンド

リアルサウンド

左から:関和亮氏、多田卓也氏、谷口鮪(KANA-BOON)、飯田祐馬(KANA-BOON)、ハヤシコウスケ(シナリオアート) (写真=石川真魚)

 KANA-BOON、シナリオアートのスプリットシングル『talking / ナナヒツジ』のミュージックビデオ(MV)が話題を集めている。舞台はクローン技術が発達した近未来の日本。研究所に捉われた美女、森の中をさまよう謎の“ひつじ博士”を軸にしたストーリー、そして、最新の機材を使用し、暗闇のなかで撮影されたバンドの演奏シーンがスタイリッシュに絡み合う2本のMVは、このシングルの世界観をしっかりと際立たせている。


 今回リアルサウンドでは、KANA-BOONの谷口鮪(Guitar/Vocal)、飯田祐馬(Bass/Chorus)、シナリオアートのハヤシコウスケ(Guitar/Vocal/Programming)、MVの制作を担当された、クリエイティブディレクターの関和亮氏、監督の多田卓也氏による座談会を実施。「talking」「ナナヒツジ」MVのコンセプト、撮影秘話、さらにロックバンドと映像の関係性などについて語ってもらった。(森朋之)


■「この映像のおかげで、曲が誤解なく届いている感じがした」(飯田)


——KANA-BOON、シナリオアートのスプリットシングル『talking / ナナヒツジ』のMVについて伺いたいと思います。それぞれの楽曲の魅力を際立たせながら、共通する世界観、ストーリーを持たせた内容になっていますが、このアイデアはどんなふうに生まれたのでしょうか?


関和亮(以下、関):今回のシングルは、TVアニメ『すべてがFになる THE PERFECT INSIDER』(フジテレビほか)のオープニング曲「talking」(KANA-BOON)、エンディング曲「ナナヒツジ」(シナリオアート)になっていて、オープニング映像は僕が担当させてもらったんです。MVの話をいただいたときも、関連性を持たせたり、世界観がつながっていたほうがおもしろいだろうなと。具体的な内容に関しては、すべて多田さんにお任せしました。とにかく観たことがない映像がいいよねという話はしてましたけどね。


多田卓也(以下、多田):関さんと相談しながら進めていくなかで、「同じ盤に収まるけど、別のバンドだし、別の曲なんだから、まずはそれぞれの楽曲の企画を考えたほうがいい」ということになって。バンドの演奏があって、そのなかで上手くつながるドラマを考えるという感じでしたね。あと、KANA-BOON、シナリオアートのいままでのMVとは別のベクトルから作ってみたいって気持ちもありました。シナリオアートは「アオイコドク」のMVを撮らせてもらったことがあって、もともとファンだったんですよ。KANA-BOONのMVもずっと観ていたし、その2バンドがつながっているのもおもしろいなって。


——楽曲自体もアニメの世界観、ストーリーなども意識しながら制作したのでしょうか?


谷口鮪(以下、谷口):「talking」は書き下ろしではなく、インディーズ時代の曲をこのタイミングで持ってきたんですよ。歌詞の書き換えも一部しかやってなくて。


飯田祐馬(以下、飯田):作ったのは2012年くらいですね。


谷口:その頃、人間のパーツをテーマにした曲を作っていたんです。“目”とか“耳”の曲があって、「talking」は“口”。コミュニケーションをテーマにして書いた歌詞なんですが、それはアニメのストーリーとも共通していると思って。


ハヤシコウスケ(以下、ハヤシ):「ナナヒツジ」は書き下ろしですね。まず原作を読ませてもらってから、そのときのインスピレーションを曲に落とし込んで。全体的にヒリッとした印象があって、「7は孤独な数字」というセリフがしきりに出てきたので、「7拍子の曲を作ってみよう」というところから始まりました。サビはスッと入っていけるメロディだと思うので、挑戦的な部分とキャッチ—なところをいいバランスでやれたんじゃないかなって。


多田:「talking」はヒリヒリした印象があったので、近未来的で無機質な空間を舞台にしたいと思い、ビルのなかで撮影しました。「ナナヒツジ」は幻想的でファンタジックなイメージがあって、森の中かなと。どちらも“夜が似合う曲”という印象があったので、深夜に撮影しようと思って、暗い場所に強いソニーの「α7S」というカメラを使ったんです。アニメの放送も深夜ですよね?


関:うん。でも、撮影は大変だったんじゃない? 夜って意外と短いから。


多田:大変でした。まずKANA-BOONの撮影をやって、スタッフはカプセルホテルで休んで、次の日はシナリオアートの撮影で。


谷口:すごいハードですね! 僕らは演奏シーンが中心だったから、ぜんぜんラクでしたけど。


飯田:スタッフの顔を見たら、わがままは言えないです(笑)。


関:映画などと違って、MVは短期集中で作ることがほとんどですからね。それがいいところでもあるんだけど、よくあの期間で2曲分のMVを撮れたなと思って。すごいですよ、ホントに。


多田:どちらも演奏シーンが素晴らしかったので、助かりましたけどね。2バンド合わせて1日半、2日くらいしか撮れないから、どう作るのがいちばんいいのかを考えて。


谷口:撮影中も、映像を見ながら「おお!」ってすごく驚いてたんですよ。


飯田:そうそう。「カッコいい!」って。


ハヤシ:なんだっけ? あの用語。


谷口:えーと、トラックイン…。


多田:トラックイン ズームバック(カメラを前に移動させながら、ズームアウトする撮影方法)。


飯田:それです(笑)。


谷口:すごく新鮮な映像だったんですよね。いままでのMVはもっとポップな感じだったし、ちょっとギャグみたいな要素が入っていることも多くて。今回はクールでカッコいいイメージだったんですが、それが曲に合ってるなって。


飯田:この映像のおかげで、曲が誤解なく届いている感じがしたんですよね。それはすごくありがたいなと。


ハヤシ:「ナナヒツジ」のMVもすごく良かったですね。普通の森のなかで撮影してたんですけど、演奏シーンのときの後ろの木のカタチがすごく怖く感じたりして、ちょっと人工的なところもあるというか。


多田:ドキュメントっぽくならないように絵作りしてましたからね。もちろん、照明のスタッフとも協力しながら。


——SF的な雰囲気がありますよね。


多田:YUYUちゃん(東京ゲゲゲイ)というダンサーに出演してもらっているんですが、「talkingロボット」という設定なんですよ。「ナナヒツジ」の場合はそのまま“羊”をテーマにさせてもらって、「羊といえばクローンだよな」って。曲のタイトルはすごく意識するんですよね。そこからテーマを拡大していくことで、曲がより響くんじゃないかと思うので。


■「音楽も映像も常に新しい刺激を求められる」(関)


——タイトルの意味や歌詞の内容、MVの方向性について、事前にアーティストと打ち合わせることもあるんですか?


多田:聞けるときは聞きますけど、お互いに細かく説明することでもないのかなと思うんですよね。こちらとしては、音源をしっかり聴かせてもらって、そこから考えたほうがいいというか。もちろん、よっぽどズレていたら修正しますけどね。


関:うん。ふだんMVを作るとき、監督さんと話をする?


谷口:そうですね……(飯田に向かって)しないよな?


飯田:うん。


谷口:そこは放り投げてるところがあって。こちらが意図してないMVが出来るほうが、曲潜在的な力を引き出すことになるのかなと。


ハヤシ:僕らもそこまでガッツリ話すことはないですね。ワンワードだったり、核心のメッセージだけを伝えて、あとはお任せすることが多いです。


関:そのほうがいいと思う。歌詞や楽曲の世界観をどう読み解くか? ということだと思うんだけど、たとえば男と女が愛し合う曲だったとして、それをそのまま映像にしてもおもしろくないと思うんです。そこは“手を代え、品を代え”じゃないけど、何か他のものに置き換えて、映像的に違う表現にしたほうがいいのかな、と。


多田:そうですね。


関:曲を聴く人によって、そこから思い描くことは違うじゃないですか。それをひとつに決め込んでしまうのもホントは好きじゃないというか、「(ひとつの曲に対して)100本くらいMVがあってもいい」と思っていて。自分たちが作っているものは、そのなかのひとつだし、「こういうイメージもありますよ」ということなんですよね。だったら、映像は(曲の内容と)違うものを表現してもいいんじゃないかなって。


多田:ミュージシャンによってやり方は違いますが、任せてもらえたほうがおもしろいですよね。ひとりのユーザーとして音楽を聴かせてもらって、そのときの感動や興奮を表現したほうがお互いに楽しいんじゃないかなと。緻密な設計図を作って、完璧に撮影できるほどの時間も予算もないですからね。たとえば演奏シーンにしても、編集でどうつなぐかが大事なので。


関:セッション的なところもあるよね。


多田:そうなんですよね。あらかじめ決め過ぎないで、イメージの素材をつなぎながら「やっぱりベースから始まったほうがいいな」とか、そのときのテンションで決めていって。


関:うん。みなさんは曲を作るとき、映像を思い浮かべることもありますか?


谷口:ありますね。ただ、俺らはチャランポランなんで……。


飯田:そうそう。MVが出来て、「こういうことだったのか」って納得することもありますね(笑)。


谷口:シナリオアートは映像を自分で作るくらいだから、ちゃんと映像やストーリーを考えながら曲を作ってると思いますけどね。


ハヤシ:映像を編集するのも好きなんですよ。


関:あ、いいですね!


ハヤシ:音楽といっしょに映像を作ってる感覚もあるから、いつか自分の思うような映像を付けてみたいとも思っていて。


多田:いいと思う。ミュージシャン自身が映像を作ると、もっと広がりそうですよね。たとえば、その映像だけで完結するのではなくて、その前後にストーリーがあるとか。さっき関さんが「100通りのMVがあってもいい」って言ってましたけど、最近はiPhoneの映像もすごくキレイだし、編集もやりやすくなってるので、映像自体がどんどん個人のものになっていると思うんですね。いろんな人がトライすれば、もっとおもしろいものが出て来るんじゃないかなって。


関:機材の変化も大きいですよね。根本的にやっていることは変わらないんだけど、使う道具が変わることで表現にも影響するので。バンドの場合も、新しい機材や技術を取り入れることで曲が変化することもありますか?


谷口:新しいものよりも、既にある機材の量が尋常じゃないですからね。そのなかで出会うことはありますね。


ハヤシ:自分たちは新しいものが好きで、シンセの新しいシリーズが出ると試したりしますね。バンドの立ち位置にこだわらないで、いろんなことに挑戦したいと思っているので。


多田:関さんも新しいものが好きですよね。


関:え、そう?(笑) でも、音楽も映像も常に新しい刺激を求められるし、観たことがないもの、目新しいものをやっていくべきジャンルだとは思いますね。最先端というか、一歩先に行くものを作りたいという意識もあるし。何年もこの仕事をやってますけど、音楽がいちばん新しい技術を取り入れられるジャンルだと思うんですよ。聴いたことのない音、リズムに映像を付けていくことで、自然とそうなっていくというか、相乗効果があるなって。


多田:関さんは「新しいことにトライする、日本代表」みたいな方ですけど、それに比べると僕は「古いレンズを使ってみよう」ということも考えるんですよね。


関:さっき話に出ていた「トラックイン ズームバック」もそうだよね。最初にやったのは映画監督のアルフレッド・ヒッチコックで、1950年代からある手法だから。でも、それをいま使うことで、新しい映像になるっていう。人間って、耳よりも目のほうが飽きっぽいと思うんですよ。


■「もともとの世界観は違うんだけど、つながっているところもある」(多田)


——スマホの普及によって、映像といっしょに音楽に出会うことが増えているし、音楽と映像の関係はさらに重要になってますよね。


谷口:僕らはまさにそういうタイプのバンドだと思うんですよね。ファーストインパクトとして、映像の力がすごく大きかったというか。だから映像を作る方々の発想力にはすごく興味があるし、それは観ている人も同じだと思うんですよ。MVとバンドとリスナーが近いからこそ、ミュージシャンやMVの監督を目指す人が増えたり、何かのきっかけとなったらいいなって。


飯田:僕はケーブルテレビの音楽チャンネルを1日5時間観てるような子供だったんですけど(笑)、「すげえ!」と思うものもあれば、「なんだかわからないけど、興味を引かれる」というMVもあって、それがぜんぶ楽曲にシックリ来てたんですよね。観てる側の感想は自由だし、「私だったらこうやる」って思う人も多いんじゃないかなって。


ハヤシ:映像とセットで音楽を聴く人が増えると、(映像によって)その曲の答えみたいなものをひとつ提示することにもなるなと思っていて。僕は音楽を聴いて、自分の頭のなかでイメージを思い浮かべるのが好きなんですが——自分なりの正解を作り上げるというか——これからはそれとは違う聴き方をされるようになるのかなと。


——そういう意味では、ユーザーの想像力を刺激するような映像が求められるようになるのかも。


多田:どんな環境で観るかによっても違いますよね。大きい画面で観ることもあるし、ひとりでiPhoneで観ることもあるし、もしかしたら、空中に映像が映る時代が来るかもしれないし。もちろん絶対的な答えはないんだけど、そのなかでやれることはいろいろあると思うんですよ。


関:じつは今回、ひとつボツになった企画があって。ふたつの画面を並べて「talking」と「ナナヒツジ」を観ると「一緒に撮影して、つながっていたんだ」というのがわかるっていう内容だったんですけど。


谷口:おもしろいですね!


関:それって、テレビで観ないことが前提じゃないですか。スマホ2台、ノートパソコン2台をつないで観るということだから。それは人によって観る環境が違うことを逆手に取った企画だったんですけどね。


多田:昔は「4:3」の正方形に近い画面だったんだけど、いまは長方形ですからね。それだけでもフレーミングや伝わり方も変わってくるので。カッコいいミュージシャンのMVはたくさんの人が観るわけだから、いろんなチャレンジがあったほうがいいですよね。映像は基本的にフィクションだし、ライブとは違う、そこだけの世界が作れるから。


——谷口さん、飯田さん、ハヤシさんはこの先、MVでやってみたいことはありますか?


谷口:そうですね……ビキニ美女に囲まれて撮影したいです。


飯田:ハハハハハ!


関:それはすぐ出来そうだけど(笑)。


谷口:(笑)。曲を作ったり、歌詞を書いてるときに思い描いていることを映像にしても、サムくなりそうだなって。やっぱり、MVに関して何も言わないほうがいいと思うんですよね。


飯田:宇宙人が出て来るMVとかはいいなって思いますね。「映像だから納得できる」ということがおもしろいなって。


谷口:じゃあ、宇宙人とビキニで(笑)。


ハヤシ:(笑)。僕はめちゃくちゃファンタジックなものをやってみたいですね。


多田:シナリオアートはアニメーションのMVもあるからね。KANA-BOONは“現実にありそうで、ない”というフィクションで、シナリオアートはもっとファンタジーに寄っていて。もともとの世界観は違うんだけど、つながっているところもある。そういう意味でも、おもしろいスプリット・シングルですよね。


——今回のスプリットシングルで、ふたつのバンドの関係性にも変化があったのでは?


谷口:そうですね。「ここは負けてるな」とか「ここは自分たちの持ち味だな」というのがさらに理解できて。直接言い合ったりはしないですけど、感じることは多いです。


飯田:対バンとか打ち上げでいっしょになることはありましたけど、もっと距離感が近いですからね。見えてくるものも、さらに明白な感じがするというか。


ハヤシ:もともとKANA-BOONのほうがデビューが早くて、自分たちはそれを見ながらデビューして。武道館のライブにも行ったし、いつも刺激をもらってるバンドですね。


谷口:程よい感じで仲良くやってます(笑)。