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タイ・ウェスト監督が語る『サクラメント 死の楽園』製作秘話「イーライ・ロスとの素晴らしいコラボ」

2015年11月12日 17:11  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)2013 SLOW BURN PRODUCTIONS LLC

 1978年に実際に起こった、カルト教団“人民寺院”の信者による集団自殺事件を基に、『グリーン・インフェルノ』のイーライ・ロスが脚本と製作を務めたことでも話題のドキュメンタル・ホラー『サクラメント 死の楽園』が11月28日に公開される。本作で監督を務めたタイ・ウェストのオフィシャルインタビューが到着した。


参考:カルト教団の集団自殺がPOVで描かれる イーライ・ロス製作『サクラメント 死の楽園』予告編公開


 ある日、連絡が途絶えていた妹から奇妙な手紙を受け取ったパトリックは、過激な取材スタイルで知られているVICE社のサムとともに、「エデン教区」へ潜入取材を敢行する。一見、平和に見える“地上の楽園”だったが、徐々に不可解な空気が見え隠れし始める。彼らは取材を装い、妹を救い出そうとするのだが…。


 本作のコンセプトについてウェストは、「僕は常々、ジョーンズタウン(カルト教団“人民寺院”の教祖ジム・ジョーンズが開拓した自給自足できる居住地)に着想を得たミニシリーズを作りたいと思っていたんだ。けれど、それは実現できそうもなく、気が遠くなるほどの時間を要することに気づいて、もっと現実味のある企画へとストーリーを改訂することにしたんだ」と語る。その結果生まれたアイデアについては、「僕らは今、不安定な時代に生きていて、60年代や70年代に様々な理由で多くの人が“人民寺院”に加わったあの時代に似ていると思う。話を現代に置き換え、過激な潜入取材を生業とするVICE社がその現場を観客目線で語るのに最も適していると思った。ここ最近、VICE社が一番興味深く刺激的なニュースを発信しているし、彼らはそのために大きなリスクを背負っているからね。完璧な組み合わせだと思ったよ」とVICE社をストーリーに組み込んだ理由を明かした。


 VICE社が本作にどのように関わったかという質問に対しては、「VICE社の共同設立者であるスロオッシュ・アルビとは共通の友人が何人かいたんだ。僕は彼にこの映画のプレゼンをして、他のどのニュースメディアよりもVICE社をこの映画に登場させることが大切だと力説したんだ。そしたら彼は『面白そうじゃないか、ぜひやってみよう!』と快諾してくれた。夢のような交渉だったよ」と答えた。


 本作は、全編P.O.V.(=主観映像)で描かれており、観客は集団自殺の事件現場に放り込まれたような感覚に陥るのも特徴のひとつだ。このスタイルを取り入れた理由については、「僕は“P.O.V.スタイル”を“ニューメディア”映画の一つの手法だと思っている。VICE社のドキュメンタリースタイルを構造モデルとして採用したけれど、似たジャンルの映画を超越するストーリー、撮影手法、音響効果を盛り込めるように努めた。願わくば、この映画でただの“ファウンド・フッテージ”ものではなく、“全く新しいものを見た”と感じてもらえると嬉しいよ」と語る。


 本作では、ジョー・スワンバーグやAJ・ボーウェン、ケンタッカー・オードリーなど、ウェストの監督作『V/H/S シンドローム』や、出演作『サプライズ』などのキャストが勢ぞろいしている。ウェストは、本作で素晴らしかったことのひとつとして、「自分自身がキャスティングを100%コントロールできたところ」を挙げた。「ほとんどの登場人物が実在する俳優を念頭に置きながら描いた脚本だった。そしてその全員が結果的に思惑通りのキャスティングができたんだ。僕は、監督業で大切なことの75%がキャスティングだと思っているよ。そしてキャスティングの権限を持てることが監督という仕事をより円滑に運べるし、より目指している映画を生み出す結果に繋がるんだ」。


 また、ウエストは観客に対して、本作を「一連のホラー映画以上のものとして捉えてほしい」と語る。「愚かで猟奇的なカルト教団についての映画は作りたくなかった。僕が作りたかったのは、彼らのことを観客が自分自身の問題と捉えることができること。それでも彼らのやっていることや言っていることに賛同するのではなく、彼らが“なぜ・どのよう”にこのカルト教団に参加してしまったのかを理解できるような映画にすることだった。僕はカルトが興味深く個人的なものだとわかったし、何が彼らを奇妙な生活スタイルに引き込んでしまったのかについて観客に考えてもらえたら嬉しいよ」。さらに、ウェストは「カルトの思考方法をより理解してほしい」と話す。「血祭りを喜ぶ人たちが好んで観るコアなジャンル映画としてではなく、ワンランク上を極めたジャンル映画として楽しんでほしい。僕の作品をずっと観てくれていた人はわかると思うけど、この映画は今までの作品とは違う。僕は繰り返し同じ作品を作ることは決してしない。この映画は僕のキャリアの進化したものであり、今までの延長線上にあるものでもある」とコメントした。


 本作はいわゆる“低予算映画”として括られるが、低予算だからといって、困難に直面することはなかったという。「今回の規模で作ったこの映画とビッグバジェットで作った場合のこの映画の違いは「エデン教区」のサイズが変わるくらいのものだろうね。僕らの製作予算だと170人程度のカルト教団は作れた。ジョーンズタウンは900人以上のメンバーがいたけどね。その点以外では、僕がやりたいと思っていたことはほとんどできたよ。いつもの通り、18日の撮影期間は気が狂いそうだったけどね。時間とお金がもっと欲しいと思うこともあるけど、常に十分な時間とお金に恵まれないのが映画製作の常さ。気を抜かずに妥協を利点に変えるんだ。ここ10年、インディペンデントな映画をずっと作っている。そして何度も同じスタッフと取り組んでいるんだ。僕ら同じスタッフはかなり良いチームだと思っている」と、スタッフへの信頼を口にした。


 監督だけでなく脚本も務めているウエスト。編集や製作も含め、それぞれを分けて考えたことはなく、すべてが“映画製作”だと捉えているという。『サクラメント』については、「今回の映画は僕の前作よりも社会的主張を強く持つ。だからいつもよりたくさんのセリフがあった。それは僕にとっては初めての経験だったが、僕の場合、特定の俳優のために書いているので彼らの声を脚本にするのは至って簡単な作業だった。製作のOKが出てから2週間で脚本を書き上げてしまったよ。俳優たちの演技はナチュラルで、みんなセリフを自分のものにしていたよ」と話した。


 本作で製作を務めたイーライ・ロスのことを“素晴らしい”と語るウエストは、彼との関係について、以下のように答えている。「僕らは10年来の友達だ。でも彼がプロデューサーとして僕の作品に参加することについては、それが良い結果を生むのか確信が持てなかった。僕は映画を作ることについて明確なビジョンを持っている。そして彼も同じだ。だから上手く相乗効果を出せるか、それとも反発してしまうのかが分からなかった。でも結果、素晴らしいコラボになったよ。そして今では彼が監督のビジョンをサポートできるクリエイティブなプロデューサーであることを信じて疑わないね。彼は、監督の映画をプロデューサーのものにするようなタイプじゃないんだ。僕らは共通して好きなものもたくさんあるけど、感受性は別だ。彼はそれをしっかりと尊重してくれた。彼は僕を守ってくれたし、そして大いに任せてくれた。監督を信頼してやりたいようにやらせてくれるプロデューサーは稀だ。僕とイーライが逆の立場だったら、僕はそうはできないかもしれない。全て僕の思った通りに製作できたのは夢みたいなことで、イーライがそれを実現させてくれたんだ」とロスに対して厚い信頼を寄せていた。(リアルサウンド編集部)